GP-38「乙女ノホンキ」

 早輝が一人で何とかジャムの蓋を開けようと、悪戦苦闘している中、シャワーバンキ出現の報が入る。すぐに迎撃に出動するゴーオンジャー達。やって来たゴーオンジャーに、シャワーバンキは強力な酸性雨を浴びせかけるが、まるで効果がない。ゴーオンジャーはゴーオンキャノンボールで一気に勝負を付け、シャワーバンキを撃退した。

 飛ばされただけで大したダメージのなかったシャワーバンキは、ヘルガイユ宮殿に戻って来た。効果のなかった酸性雨についてケガレシアに報告するシャワーバンキ。キタネイダスに調合の誤りを指摘されたケガレシアは、試しに調合した酸性雨をキタネイダスに浴びせてみる。が、やはりキタネイダスが溶けるようなことはなかった。ケガレシアは再度調合しての再チャレンジを誓う。

 その頃、びしょ濡れになってしまったゴーオンジャーは、各々体を拭いたり炎神ソウルを乾かしたりしていた。そんな中男性陣は、何となく熱っぽいとか関節が痛いと言い出したかと思うと、突如早輝の目の前でその動きを止めてしまう。初めはふざけていると思った早輝だったが、やがて大変なことが実際に起こっているのだと気づく。そこに美羽が現れる。美羽は動かなくなった大翔を抱えていた。慌てて炎神達もチェックする早輝と美羽。だが、男の炎神達も固まってしまっていた。シャワーバンキの酸性雨に、男だけを固まらせる成分が入っていたのではと分析するボンパー。しかも、このままでは命の危険すら考え得るという。焦ってパニックに陥る早輝と美羽。そこにまたもシャワーバンキ出現の報が。すっかり自信を喪失している早輝と美羽だが、ベアールVに鼓舞され何とか出動する。

 シャワーバンキは、ケガレシアが再調合したスーパーウルトラゴージャス酸性雨で破壊活動を開始していた。そこに変身した早輝と美羽が現れる。しかし、動揺している為か精彩を欠き、シャワーバンキに一切歯が立たない。シャワーバンキは男性陣の不在を訝しがっていたが、やがて早輝と美羽が口を滑らせたことにより、男性陣が動けなくなっていることを知った。

 退却したシャワーバンキは、事態をケガレシアに報告する。先程「酸性雨」を浴びせられたキタネイダスも固まっており、状況を把握したケガレシアは、好機とみてゴーオンジャーの男性陣殲滅作戦に切り替える。

 一方、早輝と美羽は完全にパニックに陥っていた。蛮ドーマ接近の報にも焦りばかりが募る。ベアールVは怒って「皆を守れるんは、あんたら二人だけなんやで!」と怒鳴った。何とか出撃した早輝は、ベアールVと共に蛮ドーマの編隊に孤軍奮闘する。蛮ドーマ軍を撃退した早輝は、何とかやれる気がしてきたと言い、少し自信を取り戻した。

 未だ消沈して突っ伏している美羽をよそに、早輝はまず、ギンジロー号を迷彩柄のシートで覆う。ところが、シャワーバンキはすぐにギンジロー号を見つけ出してしまった。意気揚々と近づいてくるシャワーバンキであったが、突如地中に没してしまう。早輝は落とし穴を準備していたのだ。その隙にギンジロー号を運転して逃げだす早輝。一応敵をまくことは出来たが、やがて再び追ってくることは明白だ。どこまでも悲観的な美羽に対し、早輝は何かしらの方法を探ろうとする。早輝の懸命さに打たれた美羽は、早輝、ベアールVと共に「キラキラスマイルのタフガール」として、闘うことを決意した。

 ギンジロー号の逃避行が始まった。後ろからは蛮ドーマ。シャワーバンキはギンジロー号に先回りし、橋を溶かす。失われた橋の手前ギリギリで停止するギンジロー号だったが、すぐにウガッツ達を率いたシャワーバンキがやって来た。早輝と美羽は変身せずにウガッツ達の進撃を阻止しようとするが、すぐに突破されてしまい、ギンジロー号内への侵入を許してしまう。だが、それは罠だった。固まった走輔達はマネキン人形にすり替えられており、中で待機していたベアールVのゴローダーGTが、ウガッツ達を撃退してしまった。しかも、何とすり替えられたマネキン人形の代わりに、女装を施された走輔達が店頭に飾られていたのだ!

 早輝と美羽は変身し、ベアールVのゴローダーGTと共に「ゴーオンプリンセス」としてシャワーバンキに立ち向かう。見事なコンビネーションでたちまちシャワーバンキを追い詰める三人。シャワーバンキは爆発した。ゴーオンプリンセスの勝利だ。

 しかし、シャワーバンキは巨大化を果たす。ベアールVはゴローダーGTでエネルギーを使い果たしてしまった為、迎撃できない。そこに、復活した男性陣が総登場! ガンバルオーとセイクウオーを完成させてシャワーバンキを追い詰める。スピードル、バスオン、そして古代炎神達も総攻撃だ。早輝と美羽、そしてベアールVの頑張りに応えるべく、ガンバルオージェットラス、セイクウオーガンパードを完成させ、一気呵成に突き進むゴーオンジャー。それぞれの必殺技が炸裂し、シャワーバンキは撃破された。

 戦いが終わり、変身を解いた男性陣はすり替えられたマネキン人形の衣装のままだった。すり替え作戦はかつての範人の女装にヒントを得たものだったという早輝。頑張ったご褒美を所望する早輝と美羽は、男性陣のマッサージや手料理に大満足であった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
武上純希
解説

 徹底したシチュエーション構築が爽快なダブルヒロイン編。男性陣を画面に入れつつも完全に退場させた状態を作り出し、早輝と美羽、そしてベアールVのみでストーリーを展開するという、離れ業が見事だ。

 それにしても、ヒロイン編は妙に面白い。単に好みの問題もあるだろうが、ヒロイン編には思い切った趣向や卓越したギャグ描写が多い気がする。今回もその傾向は鮮明であり、ヨゴシュタイン退場後のくすぶった感覚が払拭されたように感じられた。

 今回の趣向は、早輝と美羽以外のゴーオンジャー、つまり男性陣全てが動きを固められてしまい、一切ストーリーの根幹に関わってこないという思い切ったもの。しかも、炎神もベアールVのみが動ける状態とされ、蛮機獣も女性型。更には、ケガレシアの悪戯(?)によってキタネイダスまで固まってしまうという徹底振り。ケガレシアが前線に登場しなかったのは少々残念だが、実に冒頭と巨大戦以後を除いて男性の声が殆ど聞こえてこないという凄い事態となったのだ。それを可能にしたのは、ケガレシアが調合を誤ったという酸性雨。配合や調合ミスによって思わぬ効果をもたらす薬品というシチュエーションは、特撮TVドラマではコミカルなストーリーの定石となっている。今回もコミカルな要素は満載だが、そこに逆境を何とか乗り越えていくヒロインという要素が加わり、何ともパワフルかつ爽やかなバトルストーリーを展開した。

 男性陣は固まってしまうという趣向故に、非常に難しい「固まる演技」を要求されている。それぞれが思い思いのポーズで固まっている様は何とも可笑しいが、そのまま固まっていられるよう計算されたポーズであることにも注目(当たり前だが)。最初はこのあたりを合成等で処理していくのかと思ったが、ほぼ全編にわたって固まった演技による描写となっており、途中でマネキン人形にすり替えられても、ギンジロー号内で揺れているシーンでは、本人達が固まった演技のまま揺れているらしいことが確認できる。しかも、最終的には女装させられてショーケースに並ぶという凄まじさだ。女装は完全にギャグの範疇で、しかも全員あまりにも似合っており(特に大翔が凄い)、爆笑必至のシーンとなっている。

 先に男性陣について一気に述べてしまうが、クライマックスの巨大戦を男性陣に預けたのも、バランス的には巧い。ベアールVやゴローダーGTのみで巨大戦を展開するのも無理があるし、あの時点で男性一同が復活したのはタイミング的にも良い。しかもガンバルオーとセイクウオーの炎神武装バリエーションが見られるなど、ある程度の話題性も提供し、全体的なパワーを統一しているのは見事だ。戦いの後、女装のまま姿を現すというくだりはオチとしては些か弱かったものの、かつての範人の女装を着想点とした早輝のセリフや、似合っていると言われて照れ笑いを浮かべる大翔の卓抜した可愛らしさ(笑)、「固まってばかりだ」とクサる走輔など、細かい要素が散りばめられており、シリーズのトータル感の中に本エピソードを置いて見せようとする姿勢には大いに共感できる。

 さて、今回の主役は早輝、美羽、ベアールVの「ゴーオンプリンセス」。以前「G3プリンセス」に入れず、ちょっと不満気だったベアールVも、歌やドレスこそないものの、いわゆる女性ユニットに参加したことになる。ここでもゴローダーGTが有効活用されており、等身大人型のベアールVを実現。以前、走輔とスピードルの等身大戦という熱いバトルシーンを創出せしめたが、今回もそれを踏襲し巧くストーリー中で機能させている。さすがにゴローダーGT自体が女性に見えないという点は致し方ないものの、JAE随一の女形スーツアクターである蜂須賀祐一氏が演ずることで、凄まじい「らしさ」を発揮。名乗りポーズから、通常のパンチ、キックのアクションまで、「乙女オーラ」を発散しているところが凄い。前半でのベアールVが「はしたない」ブイブイミサイルを披露して勇壮さを見せているだけに、余計にゴローダーGTにおける女らしさが際立った。ホント、さすが蜂須賀氏である。その後、ゴローダーGTの設定を遵守し、ベアールVはエネルギーを使い果たす。即ち、ベアールVが巨大戦に参加できないという状況を自然に作り出している。美羽がジェットラスに搭乗しないのは、少々徹底できていない感が否めないものの、この場合とりあえず女性陣の頑張りに応える男性陣という図式の方が大事なわけで、その図式を重視した点は評価できる。

 本エピソードで少しばかり違和感を感じたのは、美羽のキャラクター性に関してである。美羽は時には大翔をリードするくらい強気な女性として描かれてきたのだが、今回の美羽は異様なまでに悲観的で、大翔を一時的に失っただけで随分と弱気になっている。確かに、これまで大翔の絶対的不在というシチュエーションはなかったのだが、それでもジェットラスが認める強さを持ったキャラクターであることは、画面の印象だけでも充分感じられてきたことだ。

 一転して今回、大翔不在という状況になると、美羽は実に弱々しい精神を抱えたキャラクターとして描かれることになる。これが元々の設定に基づくものだろうかと問われれば、私としては否と答える。今回の為に追加された要素だと想像できるからだ。逆に言えば、今回はそんな美羽と対比させることで、早輝の完成形を提示する物語だった可能性が高い。

 早輝は元々、悲観的だがスマイルで凌いでいるという雰囲気のキャラクターだった。ジャンクワールドに範人と迷い込んだ際の言動や、かなり簡単に諦めてしまう頻度が高かったことからも窺える。しかし、シリーズを通して早輝のキャラクターは変化或いは成長を遂げており、千年杉のエピソードあたりから変化は顕著になる。千年杉の一件以降は、スマイルで率先して状況を打開したり、G3プリンセス結成に際してイニシアティヴをとったりと、前向きで活動的なヒロインとなっていった。つまり、(例えは適当ではないかも知れないが)走輔に近いヒロインになったのだ。今回はその集大成とも言うべき、諦めずスマイルで打開していく姿が見られる。とにかく出来ることを全てやり尽くして状況を好転させるという、「ゴーオンジャー」の骨子を体現して見せているのだ。さすがに男性陣が全て固まってしまった際には美羽と共にパニックに陥ってしまったが、それを差し引いても早輝の成長振りが見えるようになっている。また、そのパニックから目が覚める瞬間を担うのが、相棒であるベアールVというのもニクい趣向だ。ここにも走輔とスピードルの姿が重なるのである。

 早輝の成長振りは、今回シャワーバンキに対して仕掛けられた数々の作戦が、全て早輝の立案および実行により成立していることからも窺える。迷彩柄のシートでギンジロー号を覆う(どこから調達したのだろうか?)、巨大な落とし穴を掘る(どうやって掘ったのだろうか?)、ペーパードライバーだがギンジロー号を運転して逃走する(ベアールVの運転は大丈夫だったのだろうか?)、マネキン人形と男性陣をすり替える(店の許可はどう取ったのだろうか?)、ギンジロー号にウガッツ達をおびき寄せてゴローダーGTのベアールVと戦わせる。いかがだろうか。出来ることは何でもやってみるという姿勢で、見事状況を打開している。なお、カッコ書きの部分(ツッコミ)は、ギャグテイストとしての一種のスパイスであり、「ゴーオンジャー」の世界観ならば充分説明不要でやり過ごせるものだろう。ちなみに、早輝がペーパードライバーだと明言していることから、彼女が逢沢氏と同年齢の16~17歳ではなく、少なくとも18歳以上の設定であることが明らかになった。美羽の設定年齢は明確ではないが、端々に現れていた「少女と大人の女性」というダブルヒロインの対比は、既に意味を成していないということなのかも知れない。

 その「意味を成していない」傾向は、今回の美羽を見れば明らかだ。ある意味においては、悲観的な態度というのは「大人」なのかも知れないが、早輝とパニックに陥りまくったり、早輝に励まされて涙目になるあたりを見ると、単なる「悲観的な人」であったに過ぎない。確かに相棒であるジェットラスも動けず、心の支えである大翔も動けないとなれば、早輝よりも精神的なダメージは大きかったかも知れない。しかしながら、ベアールVの結婚騒動の際の美羽のリードっぷりを思い起こせば、やはり多少の違和感は禁じえないところだ。また、走輔に関しての言及が一切見られないことも寂しい。

 では、無理矢理今回の美羽を解釈してみるとどうなるか。

 まず、自信たっぷりな普段の美羽と、今回の美羽では、彼女の周辺にどう変化があったのかを確認してみたい。最も大きいのは、前述の通り、大翔とジェットラス不在だろう。さらに、大翔が動けなくなったことを相談しようにも、早輝とボンパーしかいないということも挙げられる。続いて、今回の美羽がどうだったかを観察してみると、早輝と一緒にパニックになり、初戦には参加するものの早輝にたしなめられ、蛮ドーマ戦には不参加。さらに、ちょっとだけだが自信を取り戻した早輝をよそに、突っ伏して常に悲観しているという行動を取っている。

 これらの要素を総合すると、美羽の自信やプライド、そして強さは元々美羽自身の内部にあるものの、それを発揮するには「男性」の存在が必要なのではないかということが浮かび上がってくる。これは単なる結果論に過ぎないが、そういう意味でジェットラスという男性の炎神がパートナーになっているという設定は、美羽の特殊性を浮き彫りにしているような気がしてくる。大翔、ジェットラス、そして走輔といった、自分と対等かあるいは自分を凌駕する(と美羽が直感できる)男性の存在があれば、美羽はその強さを遺憾なく発揮することが出来るのだ。それは兄である大翔の存在に依るところが大きい。美羽は兄と共に強くなってきたのであり、大翔という存在、もしくはそれに匹敵する存在がないとき、自分の中の強さにも翳りが生じるのだろう。それが今回のような言動となって表出したと考えられるのだ。

 勿論、相対的に早輝が美羽と肩を並べる程に成長した結果を見せたいという思惑もある。戦闘のイニシアティヴは完全に早輝が掌握しており、力強いヒロインとしての存在感が際立っている。華奢なスタイルから、ともすれば弱々しい印象を与えかねなかった早輝というキャラクターは、ここで戦隊ヒロインとして完成を見た。そして美羽はそのカウンターに立つ、戦隊ヒロインのもう一つの典型を示したのだ。