GP-37「炎神バンキ!?」

 走輔復活とヨゴシュタイン打倒を祝い、ゴーオンジャー達はパーティに興じていた。そんな中、連は何かの製作に勤しみ、大翔は浮かれ気味の皆に一人危機感を覚える。大臣を一人倒されたことで、ガイアークがどんな手を打って出るか危惧しているのだ。その陰で、彼らの目を盗むように、古代炎神達は走輔のラジコンを操ってギンジロー号を抜け出してしまった。

 ガイアークではケガレシア主催によるヨゴシュタインの追悼式が開かれていた。だが、キタネイダスは「いくら悲しんでもヨゴシュタインは戻って来ないゾヨ」と言い、強力な蛮機獣・エンジンバンキを作り出す。その力でヒューマンワールドを蹂躙することにより、ヨゴシュタインへのはなむけとするつもりだ。

 連は完成した新武器をテストすべく、古代炎神のソウルを使おうとするが、どこにも見当たらない。走輔達は古代炎神を必死に探しまわるが、まるで見当はつかず。一方、パーティを終えて大翔と美羽が帰路につく途中、2人は走輔のラジコンが子供に追いかけられているのを発見する。大翔は古代炎神のソウルだけ持ち帰り、ラジコンは子供達にあげてしまった。連は子供達がラジコンを抱えて走り去る場に出くわすが...。

 大翔は何故逃げ出したのかと古代炎神達に尋ねるが、口を閉ざし、なおも逃げようとする。そこに現れたのは連。古代炎神達のソウルを捕まえ、バスオンやジャン・ボエールと共に、もう一度逃げ出した理由を聞き出し始める。古代炎神達の弁によると、ホロンデルタールに操られて暴れてしまい、相棒である走輔を危険な目に遭わせたことで、自信を喪失してしまったらしい。連は誰も気にしていないと優しく語りかける。その時、大翔と美羽はガイアークの気配を感じた。街に巨大なエンジンバンキが現れたのだ。

 走輔、早輝、範人、軍平の4人はすぐに変身しスピードル達に乗り込む。連絡を受けた連は、新武器であるカンカンバーを大翔と美羽に披露した。カンカンバーは古代炎神達の強力なパワーを攻撃力に生かす武器であり、使うには古代炎神達のソウルが必要不可欠なのだが、古代炎神達は完全に尻ごみしている。大翔は連に「お前の気持ちは俺が引き継ぐ」と言って送り出し、古代炎神達の説得にあたることにした。美羽も連と共に走輔に合流した。エンジンオージェットラスとガンバルオーのタッグ、そしてゴローダーGTを繰り出して立ち向かうが、ダーティなガイアークエンジンを積んでいるエンジンバンキのパワーは桁違いであり、戦況は芳しくなく、遂には合体を解かれてしまった。スピードルと走輔はそれでもエンジンバンキに向かっていく。だが、今度はスピードルが巨大化のリミットを迎えてしまう。しかしなおも走輔は一人、エンジンバンキに飛びかかっていった。走輔はキタネイダスとケガレシアの乗るコクピットを急襲する。

 大翔は静かに、だが熱く古代炎神達を説得していた。走輔達が自分の命を顧みずに戦い、それを見たスピードル達が彼らを相棒に選んだことを語る。そして戦いの様子を見せ、「大切なものを守る為なら、命を投げ出す覚悟で戦っている。俺だって同じだ」と告げた。恐竜たちを守る為に命をかけた古代炎神達と、志は同じだという大翔の言葉に、古代炎神達は戦意を取り戻す。

 その頃、走輔達は絶体絶命の危機を迎えていた。が、諦めずに立ち向かおうとしたその時、古代炎神達がエンジンバンキに体当たり。大翔と共に駆け付けたのだ。大翔はカンカンバーにティラインとケラインの炎神ソウルをセットし、エンジンバンキにクロッシングストッパーを炸裂させた。キタネイダスとケガレシアを退却させたエンジンバンキは、巨大化を解かれてもなおゴーオンジャー打倒に燃える。走輔は大翔にカンカンバーを手渡されると、キシャモスソウルをセットしたマンタンガンと連結させ、カンカンマンタンガンを完成させた。走輔の放つカンカンカンエキスプレスの前に、さしものエンジンバンキも敗れ去った。

 古代炎神達の帰還を喜ぶ一同に、トリプターは「アニキの熱い説得のお陰だね」と言う。大翔の「熱い説得」の内容に興味津々の一同であった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バルカ!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
古怒田健志
解説

 何と言うか、カンカンバー登場編と言ったら良いだろうか。

 ヨゴシュタインが退場したことをネタにしたギャグや、エンジンバンキの爆走ギャグは見られたものの、全体としてはスーパー戦隊シリーズにおける平均的な普通のエピソードであり、あまり「ゴーオンジャー」らしくないコンパクトな印象を与える。内容的としては、カンカンバー登場から逆算して組み立てたという感触がかなり透けて見えてしまっており、申し訳ないが少々興醒めしてしまう面は否めない。また、ヨゴシュタインがいないガイアークもかなり「すべって」おり、改めて三大臣の「三悪トリオ」の存在感の偉大さを痛感させられてしまった。

 今回はメインの役どころを大翔が努めているのだが、如何せん連の新武器開発の印象が前面に大きく出てしまい、大翔には古代炎神の説得シーン以外あまり目立った活躍がない。また、大翔が古代炎神を説得するというシチュエーションも、今ひとつ燃えきらない印象がある。それが何故かというところを分析すれば、今回における問題点を浮き彫りに出来るかも知れない。

 まず考えられるのは、大翔が中途参加のキャラクターだということだ。今でこそゴーオンジャーにすっかり馴染んでしまったが、仲間意識が薄かった期間は結構長い。また、クールな大翔に「説得」という言葉が似合わないのも事実。これに関しては、エピローグでギャグテイストのフォローがなされており、意外性を狙ったものだと理解できるのだが、完全な納得までには至らない。実は徳山氏の演技は素晴らしく、クールな中に熱いものを秘めつつ、古代炎神達に静かに語りかける様子は抜群の存在感を放っている。恐竜のフィギュアを手に取ったりといった流れも非常に自然で、これは大翔でなければ為し得ないシーンだと妙に納得させられるのも確かなのだ。しかし、大翔が走輔達のゴーオンジャーとしての始まりを説明するあたりで、違和感が首をもたげてくる。中途参加のキャラクターであるにも関わらず、走輔達の過去を鮮明なビジョンを持ちつつ語る姿には、実際にはあまり説得力が感じられない。勿論、走輔達や炎神から話は聞いていたであろうし、好意的に解釈する余地は充分にあるが、例えば連が「説得」にあたるのであれば、この違和感はほぼ解消できたような気がするのだ。

 ところが、カンカンバー登場というストーリーの骨子を考えれば、大翔による説得でなければならないと考えられる面も多々ある。

 連が説得にあたったと仮定してみよう。すると、バスオンを欠く為にエンジンオーは完成しないことになる。となると、エンジンオージェットラスの合体解除からスピードルの単独攻撃、そして走輔の捨て身のコクピット攻撃といった熱い戦闘シーンの流れはなくなる。エンジンオージェットラスの、いかにも強力そうな必殺技(急場作りな感も否めないが)をエンジンバンキが跳ね返したからこそ、この盛り上がりは保証されたと言っていい。そしてこのシーンは、そんな走輔をモニタリングしながらの大翔の説得へと繋がっていくわけで、走輔が巨大戦から等身大戦に至る全ての戦闘に参加することにこそ意義がある。その行き着く先、即ち等身大戦のトリはカンカンバーであり、それは古代炎神の相棒である走輔の見せ場として用意されて当然ということだ。

 ゴーオンウイングスがゴーオンジャーにほぼ合流した後に、古代炎神達が登場しているという点も大きい。例えばだが、今回ガンバルオーの代わりにセイクウオーを出したとして、範人か軍平が説得にあたったとしよう。すると、大翔や美羽は基本的に古代炎神に関わる機会を失ってしまう。古代炎神が走輔の相棒であるという性格上、須塔兄妹との関わりが非常に薄くなってしまうという危惧がなされるのは、制作上当然であろうと思われる。その意味で、巨大戦の切り札として大翔がカンカンバーを振るったのは象徴的だ。巨大戦にも有効な等身大の武器というのは、さすがにやり過ぎな感もあるものの、ビジュアルで納得させる画作りは後述するがなかなかのものだった。その後、大翔が走輔にカンカンバーを手渡し、走輔がエンジンバンキに止めを刺すという流れも、大翔と古代炎神の絆、そして走輔と大翔の深い絆を示唆しており、外せない場面として強烈な印象を残している。

 要するに、作劇としては非常に良く計算されているわけで、その計算の大部分がカンカンバーありきであると言えるのだ。「ゴーオンジャー」の厳しいポイントとして挙げられるのは、新武器の登場にあまりインパクトがないということである。キューユソウルしかり、ゴローダーGTしかり、そしてこのカンカンバーもだ。苦戦に次ぐ苦戦でギリギリまで盛り上がって登場というパターンではなく、 1エピソードにて割と淡々とした感じで登場してくる為、それ程印象に残らない。今回はそのパターンの最も難しい部分が露呈したのではないだろうか。作劇上、大翔の行動の組み立て方は正しい。だが、どこかスッキリしない部分があるのは、キャラクターに対する皮膚感覚としての違和感が残るからであろう。また、冒頭で触れたように、いわゆる「商業サイドの事情」があまりにも透過的であることにより、少々の反感を覚えるということも指摘されよう。

 ところで、ストーリーとしてはそれほど出来が良いわけではないが、映像的には見どころが多い。今回は巨大戦を先に展開した後、等身大戦で締めるという珍しい流れになっているが、それだけに巨大戦での派手な演出が光る。

 走り回るという特性を持つエンジンバンキのシーンでは、奥行きを感じさせるセット配置により、その爆走感が良く出ている。実際に爆走しまくっているシーンはCGで処理されているが、ミニチュアのカットを効果的に配して実在感を演出している。エンジンバンキで言えば、変形シーンも出来が良く、基本的にはスーツを使用して「変形しているように見せている」だけなのだが、カットの工夫で魅せるシーンを作り上げている。古くは「大鉄人17」でスーツを組み替えて飛行形態を作り出し、体当たりシーン等を演出していたが、ローテクながら魅せる特撮がまだ生き残っているのを見ると、旧来のファンとしては嬉しくなってくる。

 ロボ達が合体を解除されてからも、スピードルでミサイルの乱舞をかいくぐる挑戦的なシーンが展開されたり、エンジンバンキのコクピットにあたる部分に小さいゴーオンレッドをスムーズに合成したりと、秀逸なシーンが続出。古代炎神達が合流してからは、ある意味今回の「主役」であるカンカンバーのド派手なビジュアルが炸裂する。大翔が振るうカンカンバーが巨大なエンジンバンキを倒してしまうシーンは、前述のようにやり過ぎ感こそあれど、ある種のカタルシスや爽快感は充分すぎるほどであり、カンカンバーの第一のアピールとしては非常に満足のいくシーンであった。さらに、走輔の繰り出すカンカンマンタンガンのバンクシーンは、完全に白抜きのホリゾントをバックに展開されるが、カンカンバーの派手な色遣いとのコントラストが良く、こちらもカンカンバーの魅力を存分にアピールしている。正直なところ、カンカンバーの遮断機というデザインモチーフにはちょっとどうかと思わせる部分もあったが、ビジュアルとして見せられると意外にカッコ良いと感じた方々も多かったのではないだろうか。

 ラストシーンの、黄昏時に円陣を組んで談笑するゴーオンジャー達を下から捉えたカットもいい。かつて「仮面ライダーストロンガー」に、7人ライダーが円陣を組んで上からカメラを見下ろすという印象的なカットがあったが、そのカットはライダー達の絆の深さまでも伝わってくる、秀逸なものであった。今回のこのカットも7人の絆を感じさせるに十分で、夕陽の感触も手伝って勝利の余韻を温かいものとしている。

 「ゴーオンジャー」の特徴の一つであり、もはやアイデンティティとも言えるギャグテイストは今回は控えめであるが、「特捜戦隊デカレンジャー」のデカマスター役でスーパー戦隊シリーズのファンに深く認知されている稲田徹氏が、エンジンバンキ役で文字通り爆走している。カンカンバーが子供向けアピールを重視しているならば、エンジンバンキは「分かる人限定」でアピールしていて面白い。菅原文太氏のドスが効きつつ茶目っ気のある語り口をよくトレースしており、セリフの随所に「トラック野郎」関連のタームが登場。エンジンバンキがデコトラモチーフであることからの連想であることは誰の目にも明らかだが、ここまで徹底してくれると嬉しいものがある。キタネイダスとケガレシアが乗り込むという、本人達が炎神ごっこに興じているとしか思えないシチュエーションも最高で、「相棒」を「相方」に改変してしまったりと、端々に笑いの要素を散りばめているのはさすがだ。ただ、ヨゴシュタインの不在が常に響いている気がするのも否定しかねるところで、この寂しさは如何ともし難い。...何とも面白い悪役ではある。