GP-35「炎神ノキズナ」

 連は、ホロンデルタールの攻撃によってダメージを被った炎神キャストの修理に勤しんでいる。他の面々は、キシャモス達古代炎神にホロンデルタールが何者であるかを尋ねていた。キシャモス達が語るには、ホロンデルタールは古代の蛮機族で、古代炎神達はそれを追って6500万年前にダイナワールドに来たという。そして、激戦の末自らを化石化することでホロンデルタールをも封印したというのだ。炎神達はその行動に感動し、勇敢な先祖を湛え合う。

 一方、ホロンデルタールを迎えたヨゴシュタインは、「三大臣は身命を賭す覚悟ナリ」とケガレシアとキタネイダスの同意なしに進言。それを聞いてか聞かずか、早速ホロンデルタールは動き始めた。ヨゴシュタインも即座に動き始める。

 街へと侵攻したホロンデルタールは、手当たり次第建造物を破壊し始めた。そして発せられた怪光線により、車や信号機がメチャクチャに狂い始め、そこかしこで交通事故が相次いだ。その怪光線は、かつて恐竜たちを同士討ちさせて滅ぼしたと言われる、「ホロンデン波」であった。ヨゴシュタインはそのホロンデン波を増幅すべく、ネジ巻き状の装置を製作していた。

 街が惨状にあっても、炎神達は動ける状態にない。そこで、キシャモス達が名乗りを上げた。かつてホロンデルタールを化石化して封印したが、今は頼もしい相棒がいる。キシャモス達古代炎神は勝利を確信しているのだ。ホロンデルタール迎撃に出た古代炎神達はすぐさまキョウレツーに合体。走輔は勢いに乗り、ホロンデルタールに猛攻を加える。そこにヨゴシュタインが蛮ドーマに乗って現れた。ヨゴシュタインはネジ巻き状の装置を射出し、ホロンデルタールに撃ち込む。すると、ホロンデルタールの両肩のネジ巻き状パーツがバージョンアップ。全身より凄まじいホロンデン波を発した。さらに、ホロンデルタールは全身からゼンマイを射出してキシャモスのコクピットから走輔を追い出し、キョウレツオーを暴走させた。ヨゴシュタインの技術により強化されたホロンデン波は、キョウレツオーをもその支配下においたのだ。

 キョウレツオーを止めようとする走輔の前に現れたのは、古代と現代の蛮機族の力の結晶を豪語し、勝利を確信するヨゴシュタインであった。両者の対決が開始される。一方、この危機に際し、メンテナンスを逸早く終えたガンバルオーが飛び出した。キョウレオーを必死に止めようとするガンバルオーだが、戦況は芳しくない。セイクウオーも合流したが、パワーアップしたホロンデルタールの前に敗色濃い状態に陥ってしまう。

 そんな中、キョウレツオーは一瞬我に帰った。操られていながらも、抵抗していたのである。だが、更なるホロンデン波の本流に晒されたキョウレツオーは、再び街の破壊を始めた。

 走輔とヨゴシュタインの対決も一進一退の状態にあった。キョウレツオーに気を取られて隙を見せた走輔は、ヨゴシュタインによりネジ巻き状の装置を左胸に撃ち込まれる。だが、走輔は気合と共にヨゴシュタインに猛攻を加え、ヨゴシュタインから一時的に動きを奪った。その隙にスピードルを巨大化させた走輔は、続いてエンジンオーを完成させる。エンジンオーはキョウレツオーを引き受け、ガンバルオーとセイクウオーはホロンデルタール攻撃に回った。スピードルは古代炎神達に必死に語りかける。「恐竜達の怒りと悲しみを思い出せ」というスピードルを始めとし、炎神達の熱い呼びかけが次々と発せられる。そして、熱いソウルのこもったエンジンオーの強力パンチをくらったキョウレツオーは、我に返り、キシャモス、ティライン、ケラインに分離した。

 歓喜する炎神達は、キシャモスの「すごい考え」を聞く。それは、12対の炎神が合体するという案だった。ボンパーは未調整を懸念したが、「実践あるのみ」の勢いに乗り、炎神達はG12フォーメーションを果たす。全ての悪を制する究極の王、エンジンオーG12の降臨だ。だがキャリゲーターは、G12の戦闘負荷が想像以上に大きく、ほんの数分しか活動できないと告げる。一気に勝負を付けるべく、矢継ぎ早に攻撃を繰り出すエンジンオーG12。途中、走輔は左胸を抑えて苦しむが、気にせず繰り出したゴローダーGTでホロンデルタールの戦意を殺ぐ。好機と見たゴーオンジャーはG12グランプリでホロンデルタールを撃破した。

 ヨゴシュタインの足元に、例のネジ巻き状の装置が落ちてくる。それを拾ったヨゴシュタインは自らの左肩に装着し、その左腕がホロンデルタールのものへと変化。ホロンデルタールとヨゴシュタインの力は一つとなり、ヨゴシュタインは更なるヒューマンワールド撃滅作戦の敢行を宣言するのだった。

 G12 の勝利を喜びつつ家路につく一同。しかし、走輔は途中で歩みを止めてしまった。刹那、一同の目前で倒れこむ走輔。ヨゴシュタインの撃ち込んだネジ巻き状の装置は走輔の心臓に達し、ゼンマイで心臓の動きを止めようとしていたのだ。走輔の身体はみるみる変色していく。こだまする美羽の悲鳴。走輔は一体どうなってしまうのか!?

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
鈴村展弘
脚本
宮下隼一
解説

 エンジンオーG12登場編であり、物語に大きなうねりをもたらすであろう要素を描いたエピソード。大ボス級のキャラクターと言っても過言ではないホロンデルタールも、本格登場はわずか1話ということになり、贅沢とも言えるサービス精神が凄い。

 今回もプロットとしては至極単純で、ホロンデルタールに対抗する為に出動したキョウレツオーが、逆にホロンデルタールの放つホロンデン波によって操られてしまうという流れだ。後は、そのキョウレツオーをどのように取り戻すか、動けない炎神達はいつ動けるようになるのか、そして、走輔とヨゴシュタインとの一騎打ちの行方は...といった具合に、テンポの良さとアクション満載のシーンを散りばめて見る者の目を釘付けにする工夫が凝らされている。イベント編としてはあっさりしているが、そのあっさり感も「ゴーオンジャー」流で、殊更エンジンオーG12を特別扱いしないことで、この先に展開されるエピソードとバランスをとっているようだ。

 今回、最も目立ったキャラクターは走輔とヨゴシュタインであるが、まずはヨゴシュタインから見ていこう。

 今回のヨゴシュタインは、というより、ヒラメキメデスを失ってからのヨゴシュタインは、やや過激派の方へ流れてつつあり、ケガシレアやキタネイダスとは微妙なズレを生じさせてしまっている。それを端的に現すのが、ホロンデルタールに接見した際の行動と、ホロンデルタールが敗れた際の行動だろう。

 前者は、ホロンデルタールを前にいきなり「三大臣は身命を賭す覚悟」と進言するというもの。この時点でケガレシアとキタネイダスは一切ホロンデルタールに興味がなく、ホロンデルタールに仕えるなどもってのほかだと思っており、ヨゴシュタインの勝手な言い草に不満を露にしている。三大臣は多少のブレがあっても心は一つという印象を紡いできた為か、このシーンにはかなりの不安を感じさせられ興味深い。この時点でケガレシアとキタネイダスは、このところのヨゴシュタインの単独行動に対して怪訝な感情を抱いていたようで、このシーンのみでそれが一気に表面化するところも秀逸である。その後、ヨゴシュタインは「三大臣は身命を賭す覚悟」という言葉とは裏腹に、自分だけでホロンデルタールのパワーアップ装置を製作しはじめるが、この時、ヨゴシュタインはホロンデルタールに心酔するあまり、言動不一致の状態に陥っていることが分かる。つまり、妄信である。ケガレシアとキタネイダスが「付いて行けない」との印象を抱くのも無理からぬと言えるだろう。

 後者のホロンデルタールが敗れた際の行動とは、ホロンデルタールが爆発四散した際に残った、ヨゴシュタイン開発による例のパワーアップ装置を拾い、それを自らの左肩に移植するというものだ。以前のヨゴシュタインならば、それを蛮機獣の部品か何かに仕立て、三大臣で協力して事に当たるという行動に出たであろう。しかし、今回は自らにホロンデルタールの遺した力を宿らせることで、自分が力を得ようとしている。ホロンデルタールが消滅しても、妄信は止まらなかったわけだ。このように危険な方向へと走っていくヨゴシュタインに、ケガレシアやキタネイダスがどう対処していくかが今後の見所になるかも知れない。...と悪役に対してこのような感想を持つところ自体、非常に特殊なケースではあるが。

 なお、ヨゴシュタインは珍しく走輔との一騎打ちを演じている。ある意味三大臣のリーダー格であるヨゴシュタインと、ゴーオンジャーのリーダー(レッドと換言した方が適当か)である走輔の対決は、充実したアクションによって強い印象を残した。剣劇に仕立て上げているところも良く、両者の実力が拮抗しているという描写に巧く繋がっている。この対決シーンの効果としては、走輔をガイアーク大臣に対抗し得る実力の持ち主として描くと共に、走輔の戦力的な成長振りを納得させ、戦隊レッドとしてメンタルな存在感ではなくフィジカルな存在感にて印象付けるということが挙げられる。クライマックスに向けて、走輔中心に動かしていこうとする姿勢が垣間見られるが、果たしてどのように推移していくのだろうか。こちらも楽しみである。

 さて、メインアクターである走輔にスポットを当てる前に、他のキャラクターについて言及しておきたい。

 まずはホロンデルタール。ホロンデン波なる電磁波であらゆるものの制御能力を狂わせ、支配下に置くという能力は、大ボス級のキャラクターに与えられるに相応しい能力だ。このホロンデン波による影響は、主に交通事故の誘発という現象にて描写されるが、迫力ある衝突や爆破の派手さなどが被害の大きさを物語り、なかなか見応えあるシーンとなっている。一部のカットには流用と思われるものもあったが(勘違いかも知れない)、合成や実際の爆発が巧く組み合わされていることで、流れはいたってスムーズ。信号機の誤動作によるパニックは古き良き時代からの伝統だが、カーナビを誤動作させるという現代的な描写もあり、凄惨ながらもユーモラスなカットを織り交ぜた素晴らしいシーンが完成を見ている。

 ホロンデルタール自体には、古代炎神に比べてあまり意思が感じられず、本能のまま暴れまわる原始的なキャラクターとしての描写となっている。暴れまわる様やホロンデン波を発する様には、特に知性が感じられない為恐ろしく、キシャモス達を「操る」という感覚も薄い。劇中では一応「操っている」ことにはなっているが、これはホロンデルタールの破壊衝動にとり憑かれるという意味合いだと解釈した方が良さそうだ。また、ヨゴシュタインとも実際に意思疎通ができていたかどうかは疑わしく、そもそも意思疎通が出来ていたならば、ヨゴシュタインが蛮ドーマに乗ってパワーアップ装置を撃ち込むといった行動をとる必要はない。ヨゴシュタインはその純粋な破壊の権化、滅びの権化としてのホロンデルタールに心酔していたのであり、その心酔の中身も存在ではなくパワーへの羨望であったことが分かり、エピローグでホロンデルタールの力を手に入れるシーンがそれを端的に現している。裏を返せば、ケガレシアやキタネイダスはパワーへの希求が乏しいとも言えそうだ。

 続いて古代炎神達。前回の様子ではホロンデルタールを恐れているのかと思いきや、憎き相手を前に戦意を高揚させていたようだ。頼もしい相棒を得て勝利を確信するあたりは、他の炎神と相棒との出会いを紡いできた「ゴーオンジャー」の流れを忠実に継承しており、好感触。ヨゴシュタインのパワーアップ装置がなければ、あの時点でキョウレツオーが勝利していただろうと思わせる展開も巧い。ホロンデン波を浴びながら途中でふと我に帰るという描写も挿入され、人語を喋らない古代炎神達のキャラクター性を強調することにも成功している。その上、全炎神達の名乗りでは咆哮と共に字幕が挿入されるという面白い演出が加えられた。ここで明らかになったのは(というより、私が印象として受け取ったのは)、古代炎神達が単なる猛々しいキャラクターではなく、ゆったり構えた優しいキシャモス、肉食恐竜らしく少し荒っぽいティライン、草食恐竜らしく穏やかなケラインといった描き分けである。名乗り自体はごく短いものであったが、言葉の端々にちょっとした性格設定が現れるあたりさすがと言えよう。

 そして、エンジンオーG12だ。キシャモスの「いい考え」に則って、ぶっつけ本番で合体を果たすというシチュエーションは、予定調和であると言わざるを得ないが、本エピソードの運び方自体に異様なまでの勢いとスピード感が備わっている為、その辺りの違和感といった類のものはまるで感じられない。むしろ燃えるシチュエーションを形成していると言っていいだろう。合体プロセスは全てCGによって描かれ、先に一部が完成して後からパーツがくっついて行くという描写ではなく、徐々に全体が完成して行くという複雑な動きで魅せる。合体が完成して登場となったエンジンオーG12は、まずその巨大な体躯に絶句。エンジンオーG12の項でも述べたが、これまでのスーパー合体は一部の例外を除いてアクション性を確保したスーツを製作することが常で(「ゴーオンジャー」で言えばエンジンオーG9がやや当てはまる)、今回のエンジンオーG12のような、あからさまに巨大であることを強調するスーツはあまり見られなかった。アクション性が劣悪であることを逆手に取った重量感は秀逸で、中でもG12キックは突進してくる敵に右脚を「ぶつけて」蹴り飛ばすという、「宇宙刑事ギャバン」の電子星獣ドルが繰り出すドルキックに近い描写が楽しい。G12グランプリは、G9グランプリの発展形という印象でまとめられているが、12体の炎神による合体という側面よりも4大ロボの合体という面が強調され、エンジンオー達それぞれのオーラが連続攻撃をするという、燃える画面作りがなされている。

 最後に、衝撃のラストを見せた走輔について。

 ホロンデルタールが現れようが、スピードルが動けなくなろうが、基本的に走輔はいたってマイペースであり、キシャモス達古代炎神の存在を得て絶対の自信を覗かせているように見える。その勢いは基本的に全編通して変わることはなく、最初のホロンデルタール戦では善戦し、ヨゴシュタイン戦では前述の通り成長した実力を遺憾なく発揮し、後半のホロンデルタール戦では迷うことなくエンジンオーG12を完成させ勝利している。今回は殆ど走輔一人にのみ見せ場が用意されており、物語のキーマンとしても機能。今回の走輔は文句なくカッコいい。

 しかし、その突出したカッコ良さも、衝撃のラストの為の準備だったとするならば、実に確信犯的だ。黄昏時、談笑しながら歩く面々。大木が画面手前にあり、面々が大木の後ろを通っていく。一人歩みの遅い走輔が大木の後ろに重なるが、隠れたままなかなか現れない。この一連のシーンが非常にクールで映画的な為、余計に画面へと惹き付けられる。この時、走輔を度々気遣う大翔がイイ。その直後、走輔は後ろへと倒れ込むが、その際にそれぞれが見せる驚きの表情がまた素晴らしい。駆け寄って様子を伺う連の取り乱した様子、そして美羽の悲鳴には多大な説得力がある。ヨゴシュタインが走輔の胸に打ち込んだ装置も心臓を縛り上げるという悪辣さで、描写はマンガチックでありつつもグロテスクだ。最後にブロンズ化(何化したのかは判別できなかった為、近い印象の「ウルトラマンA」に因んだ)した走輔は、本人から型を取ったのか非常に出来が良く、却って不気味な印象を増幅させている。

 スーパー戦隊シリーズのファン歴が長ければ、これから先走輔がどうなるか大方の予想が付くと思うが、それをどう料理して魅せてくれるか、楽しみである。