GP-34「悪魔ナオンナ」

 東京に「悪魔」が来てしまったという早輝。一体「悪魔」とは何か?

 ホロンデルタールと信じていた存在が古代炎神だったことで、失意のヨゴシュタイン。しかし、彼はまだ諦めておらず、ホロンデルタール捜索に出かけるのだった。そんなヨゴシュタインをよそに、キタネイダスは着実にヒューマンワールド汚染を進める為、ヒーターバンキを差し向ける。「秋になっても真夏日作戦」で温暖化を加速させるつもりなのだ。

 軍平は買出しの帰りにタクシーに乗ろうとした際、一人の女に割り込まれる。怒った軍平は怒鳴り付けるが、女は「暑苦しか~」と意に介さない。確かに周囲は妙に暑苦しかった。周囲を見回した軍平はヒーターバンキを発見、すぐにゴーオンブラックに変身して立ち向かう。そこに走輔、連、範人も合流するが、ヒーターバンキの超高熱の前に手が出ない。さらに大翔と美羽が合流するも、やはりヒーターバンキの強力な熱風の前に精彩を欠いてしまう。しかし、戦うのが目的ではないヒーターバンキはさっさとその場から去ってしまった。

 そこへ現れたのは、軍平がタクシーに乗ろうとして割り込まれた、例の女だった。ゴーオンジャーに会えて感激だという彼女。走輔、連、範人、そして大翔はその魅力にメロメロになってしまう。女は「早苗」と名乗った。早苗に「ソウちん」「レンきゅん」「ハンティー」と呼ばれ、骨抜きにされた走輔、連、範人は、早苗と共にどこかへ行ってしまう。腹を立てた美羽は大翔の耳を引っ張って去って行った。

 何と、走輔達は早苗をギンジロー号に連れて来ていた。驚愕する早輝。何と、早苗は早輝の姉だったのだ。早輝は憤慨しつつ早苗をギンジロー号の中に引っ張り込み、何しに来たのかと問う。しかし早苗は幼い頃に早輝がおねしょをしたという証拠写真を手に、早輝の追求から逃れた。代わりに軍平が入って来たが、早輝は軍平も早苗目当てではないかと勘繰る。ところが、軍平は早苗が苦手なタイプだという。早輝は軍平を見込んで悪魔のような姉を追い返してくれと言い出す。軍平はそれを聞き入れ、早苗をカフェに連れていく。早輝は変装して後を付けた。

 早苗のあらゆる甘え作戦をものともせず、軍平は「お前の本当の言葉を聞きたい」と説教を続ける。早苗はそれを聞いて早輝に謝りたいと言い出した。早輝の「証拠写真」を破り、「いいお姉ちゃんになるよう頑張る」という早苗を、早輝は許した。早苗は、軍平が初めて自分を叱ってくれた男性だとし、軍平の前では素直になれるという。軍平はそれを聞いて悪い気がしない。早輝は早苗と軍平がお似合いなのではないかと考え始め、二人に付き合ってみてはと提案した。

 一方、ヒーターバンキは走輔達から逃げつつ、焼き鳥屋で焼き鳥を焼いたり、美容院で大翔の髪を焦がしたりと、地道な作戦を継続していた。だが、あまり人間の生活には変化がなく、キタネイダスとケガレシアはガスタンクを爆発させるという過激な作戦を思い付く。軍平はギンジロー号の鍵を早苗に託してボンパーと避難するよう依頼し、早輝と共に、先にヒーターバンキを迎撃する走輔達に合流した。

 軍平の指示でゴーオンジャーはスーパーハイウェイバスターを繰り出すが、ヒーターバンキに弾かれてしまう。そこに大翔と美羽が現れ、ロケットブースターによる冷凍攻撃を繰り出し、ヒーターバンキの動きを封じた。だが、ヒーターバンキはすぐさま「でっかくなっちゃった」と巨大化を果たす。

 ボンパーは炎神キャストを転送するが、背後にはロープを手にしつつ軍平を応援する早苗が...。

 ゴーオンジャーはエンジンオーG9でヒーターバンキを迎撃する。しかし、熱風攻撃の前に手も足も出ない。しかも、エンジンオーG9が避けてしまえば、ガスタンクに引火してしまう。絶体絶命のその時、キシャモス達の咆哮が響く。古代炎神達の登場だ。キシャモスは冷気を噴出して周囲を急速に寒冷化させた。熱風攻撃を封じられ、打つ手のなくなったヒーターバンキを、キョウレツオーが下す。

 ところが、勝利を喜ぶのも束の間、地響きとともにヨゴシュタインの手によって復活と相成った「ホロンデルタール」が復活。エンジンオーG9に襲いかかり、周囲を手当たり次第破壊し始めた。古代炎神達はその姿に驚きを隠せない。ヨゴシュタインはガイアークの勝利を確信した。非常事態は続く。ボンパーの報告によると、何と早苗がギンジロー号を奪って逃げたというのだ。早苗はギンジロー号を売り飛ばし、大金を手にしていた。改心などしていなかったのだ。

 何とかギンジロー号を買い戻そうと懸命な走輔達。軍平は早苗の呪縛から抜け出せていない...。全ては早苗の作戦通り。早輝は改めて姉の恐ろしさを思い知るのだった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
武上純希
解説

 ホロンデルタール復活という重要なイベント編ではあるが、それよりも早輝の姉である早苗に、男性陣が振り回されまくるというシチュエーションに重きが置かれたエピソード。しかも、てっきり早苗がガイアークに利用されたりといった仕掛けが用意されているのかと思いきや、ガイアークはガイアーク、早苗は早苗でゴーオンジャーを苦しめる(!)という、割ととんでもないエピソードとなっている。

 これはあくまで主観的印象であるが、早輝に姉の存在が設定されたのは、本エピソード制作にあたってではないかと思われる。幼少の頃の早輝については、これまで言及も含めて幾つかの描写があったが、一人っ子というイメージで構築されていたように見受けられるからだ。この姉がそれらの「想い出」にそぐわないのは確かなので、早輝の心中から意図的に排されたとも考えられるが、急遽姉の設定を付加されたという推測は強ち的外れではないだろう。こういった設定の後付はよくあることだが、本来の設定と折り合いを付けるという面でかなりの苦慮の跡が見られる。今回の早苗の存在はといえば、とんでもなく意地悪で腹黒いという強烈なキャラクターを与えることで、仲の良い姉妹という印象から突き放しており、早輝が姉の存在に「言及したくない」という感覚に至らせることに成功している。にしても、なかなか思い切った設定ではある。

 もう一つ、後付設定らしき要素がある。それは、早輝を鹿児島出身としたことだ。「百獣戦隊ガオレンジャー」のガオホワイト=大河冴と重なるが、冴の場合は精神的バックボーンを語る要素として「鹿児島出身」を重要なタームに位置づけている。今回の場合、「鹿児島」という要素が生かされたのは鹿児島弁での会話と「上京」というシチュエーション作りのみ。しかも、金目当てでありながら、わざわざ鹿児島から上京してくるなど、元々設定的に破綻しているように見受けられる(ギャグだから良いのかも知れないが)。鹿児島弁自体も男性陣の前では一切口に出すことはなく、結局あれは何だったのかという印象しかないのが痛い。また以前、早輝と千年杉のエピソードがあったが、そこは早輝の実家からそれ程遠くないという印象があった。だが、ギンジロー号が鹿児島まで行ったとは考えにくいので、あれは早輝が家族旅行として関東地方に来たと考えるしかない。そして、その時早苗は同行しなかった...のかも知れない。要するに、早輝に関する設定が、文字通り「悪魔ナオンナ」に揺るがされてしまったのだ。ただ、二人の鹿児島弁での会話が可愛らしく、なかなか魅力的であったことは、明記しておかなければなるまい。ご両人共関東出身であり、このシーンでは苦戦を強いられたことだろう。

 さて、早輝の設定がどうこうと云った些細な指摘はともかくとして、全体的に見ると、「ゴーオンジャー」らしい楽しさに溢れたギャグ編に仕上がっているのはご承知のとおり。ギャグ描写自体は早苗関連とヒーターバンキ関連に大別され、それぞれが交わることなく(!)個別に連発されていくという構造だ。本エピソードはそれらを追っていくことでほぼ語りつくせるものと考えられる。

 まず、冒頭からしてギャグテイスト。冒頭といっても早輝が叫ぶシーンではなく(衛星写真までロングになっていくこのシーンは妙に気合が入っているが)、軍平のショッピング。何を買い込んでいるのかを詳細に観察したわけではないが、何となく家電製品あたりを買い込んでいるようである。その買い込みっぷりもさることながら、タクシーに割り込まれて怒るシーンが軍平というキャラクターを的確すぎるほど表現しており、エキセントリックな感じにこちらも思わず頬が緩む。直後、暑いと感じて目をやれば、ヒーターバンキが座り込んでジリジリと熱線を発しているという図が。ここで笑っている間に戦闘開始。走輔達が合流、大翔と美羽も合流。しかし早輝はいない。散々苦戦しつつもヒーターバンキ自らが手を引く。直後に早苗登場。どうだろう、このテンポの良さ、この馬鹿馬鹿しさ、そしてアクションの充実度は。スーパー戦隊シリーズの硬軟取り混ぜたノウハウの結晶だと言っても過言ではないだろう。

 早苗登場後は、ギャグ描写がますます加速していく。走輔、連、範人は軍平を踏んづけながら早苗に駆け寄っていくという徹底ぶり。範人が真っ先に早苗に目を奪われるのは分かるのだが、連まで惚れさせてしまうとは、正に「悪魔」だ。少々脱線するが、ここで一応「悪魔」の話をしておきたい。日本的なイメージの悪魔は「オニ」だ。自分の外にあって仇為す者である。西洋的なイメージの悪魔は「堕天使」だ。自分の内にあって神の道からの逸脱を誘惑する者である。早苗は果たしてどちらのタイプだろうか。私はいかにも現代日本的な、両者の折衷という印象がある。いわゆる典型的な小悪魔像だ。話を元に戻そう。早苗は走輔、連、範人をそれぞれ「ソウちん」「レンきゅん」「ハンティー」と呼び、まずはジャブを浴びせる。続いて自分を「サナチュ」と呼ばせることで自分の存在をインプリンティング。これにより、走輔達は完全に早苗の虜となってしまう。またまた話は脱線してしまうが、このように名前を奪い、非日常的な名を口に出させるというシークェンスは、洗脳のテクニックとして知られている。早苗は自然にこのテクニックを用いることのできる、人心掌握術の天才なのだ。また話を元に戻そう。虜になったのは走輔達だけではない。硬派で通った大翔も目の色を変えている。この時の大翔の表情は実に可笑しく、だらしない表情を美羽に咎められ、耳を引っ張られて退場するという秀逸なギャグシーンに結実。大翔のギャグのキャパシティはグングン広がっている感じだ。その後、ギンジロー号は早苗の逆ハーレム状態となる。そんな中、走輔だけ何も出来ないとクサる様子が妙にリアルだ。このシーンはとりたてて特筆すべきギャグはないものの、いいように使われる男性陣の情けなさが充分ギャグになっている。早輝と早苗が姉妹だと知った走輔達の表情が異様なまでのギャグテイストなのも楽しい。そこでの「同じ遺伝子とは思えな~い」発言は、どうかと思うが(笑)。

 一応、軍平唯一人が早苗に惑わされないという役割になってはいるが、早輝が二人をお似合いだと認めたあたりから雲行きが怪しくなってくるのも見事。軍平は誘惑されないのではなく、単に走輔達を虜にした「甘え」中心の行動が好みではなかったというだけで、素直で控えめながら上目遣いの得意な女性が軍平の好みだったわけだ。早苗はそれに気付いて直ちに方向転換し、軍平を虜にしてしまったのだから、さすがである。ラストシーンで軍平が虚空を見つめて早苗を想うくだりは、まるで魂を抜かれたかのようで、早輝に突き飛ばされても無理はない!

 一方、もう一人のギャグの原動力、ヒーターバンキはこれまでになく地道な使命を帯びた蛮機獣であり、80年代特撮TVドラマで散見された「子供を徐々に怪人化して自分たちの種族による世界を作り上げる」というヌルい作戦と同じ匂いを感じさせる。ただ、それらはヌルい作戦でありつつもエグかった。だが、ヒーターバンキの場合は自らが熱源となることで、周囲の温暖化を加速させるという、説得力があるのかないのか分からないヌルさが突出している。もう作戦や存在自体がギャグ化しているのだ。その作戦自体は、人々が異常気象に慣れて生活に大した変化がないという、驚愕のオチで終幕を迎える。このオチはギャグとして用意されたものだろう。しかし、ガイアークが関わらずとも、ヒューマンワールドの環境変化は既に大きな加速度を伴って進んでいるという、風刺的な視点も暗に込められているように思う。「ゴーオンジャー」が標榜していたとされる「エコロジー」は、開始当初から殆ど無視されてきたように見受けられるが、このような所にひっそりと脈打っていたりするのだ。

 前後するが、ヒーターバンキが地道に作戦を遂行している間には、2つの大きなギャグシーンが盛り込まれた。一つは、焼き鳥屋のおやじに見込まれて(?)、焼き鳥をそのヒーターで焼くというもの。使命が遂行できればいいと考えたのか、ゴーオンジャーに対する目眩ましと考えたのか、ヒーターバンキは嫌がる様子は微塵も見せず、「ファイア~」と静かな闘志を燃やして焼き鳥を焼いている。焼き鳥屋の親父にとっては光熱費が浮くというメリットがあるのだが、ヒーターバンキをまるで恐れていないところが可笑しい。このシーン、ヒーターバンキのアップに突如金網が載せられ、串が乗せられていくという組み立てになっているが、意外性がギャグ描写に更なる笑いを提供している秀逸なシーンだ。もう一つのギャグシーンは、大翔が美容院でヒーターバンキに襲われるというもの。襲われると言っても、ヒーターバンキが大翔の髪に熱をあてているだけなのだが、カーラーをつけたお茶目で無防備な大翔、ヒーターバンキを何の違和感もなく迎え入れる美容院、ヒーターバンキの大きな図体に気付かない美羽、やっぱり気付かない大翔、髪の毛を焦がしてススまみれになり煙を吹く大翔、と実にテンポ良く笑えるカットの連続から成り立つ。本エピソードの中でも白眉となるギャグシーンであり、大翔のギャグに関するキャパシティは更に広がった。大翔が美容院に来た理由は、もしかして早苗の存在にあるのではと思わせるところも巧い。男性陣は皆浮かれているのである。

 地道な作戦に効果なしと見たキタネイダスは、ガスタンク爆破という過激な作戦に打って出る。ここからは普通にバトルシーンが展開されていくのだが、エンジンオーG9とて熱線攻撃には弱かったという描写が巧く、キョウレツオーの出番をちゃんと作り出している。キシャモスのモチーフであるマンモスが一般的に氷河期のイメージを有することから、冷凍攻撃を繰り出すという流れが見事だ。冷凍攻撃の有効性は、等身大戦の際にゴーオンウイングスによって繰り出された冷凍攻撃で提示されており、大翔の論理性をも確保している。また、汽車のイメージも生かされており、熱に強いという描写に繋がっている。キョウレツオーの登場は、直後のホロンデルタール復活の際に戸惑いを見せるというシーンにもきちんと繋がり、このあたりの流れには無駄がない。ただ、このホロンデルタールに関しては随分と扱いが杜撰で、あれだけ街を破壊しておきながら何の説明もなく、早苗のギンジロー号売り飛ばしにシーンを奪われ、ゴーオンジャー達は日常に戻ってしまうのだ(一応ホロンデルタールが遠くへ去っていく描写があるにはあった)。ヨゴシュタインがよろけながらヘルガイユ宮殿に戻ってくるシーンはあるものの、それが何を意味するかはよく分からず、結局ホロンデルタールに関する顛末は不明のままである。蛮機獣が戦いに飽きたりしてゴーオンジャー達がピンチを脱するという、意図的なヌルい展開はこれまでも数多く見られた。しかしながら、それはそれなりに状況を説明する手段になっていたし、その雰囲気が良かったのだ。今回のホロンデルタールに関する不徹底は、完全な落ち度だろう。次回でフォローされることを期待する。

 ラストは前述のように早苗がギンジロー号を売り飛ばすという驚愕の行動で締めくくられる。ヒーローの移動基地が売り飛ばされたのは前代未聞だろう。果たしてギンジロー号は買い戻せたのであろうか?