GP-30「友情ノパンチ」

 走輔はゴローダーGTにスピードルのソウルをセットしてみた。ところが、ゴローダーGTはホイールモードのまま暴れ始めてしまう。ゴローダーGTはセットされた炎神ソウルからパワーを吸い取ってしまうらしく、気分を害したスピードルは走輔に「相棒にあんなことされるとは思ってなかったぜ」と怒る。

 その頃、ケガレシアはストローバンキを作り出し、特製ドリンクである「ガイアクア」によるドーピングでお手軽パワーアップをさせ、街に送り出していた。

 送り出されたストローバンキは爆薬ドリンクを用いて街を破壊し始めるが、ゴーオンウイングスが到着し迎撃を開始する。しかし、ストローバンキの放ったストローを咥えさせられた人々が、毒の霧の発生源となってしまい、大翔と美羽はこれを阻止できず動揺してしまう。そこへゴーオンジャーも合流。マンタンガンの一斉射撃で一気に勝負をつけようとする。ところが、スピードルがへそを曲げていた為に、走輔のマンタンガンには炎神ソウルをセットできない。仕方なく4人でマンタンガンを撃ち、ストローバンキの戦意を喪失させるゴーオンジャー。ガイアクアでのパワーアップを指示するケガレシアに従い、ガイアクアを摂取しようとするストローバンキであったが、ガイアクアを紛失してしまい、結局退散する。走輔は、ストローバンキが落としたガイアクアを拾うことに...。

 連は、走輔の拾ったガイアクアを分析し、ストローバンキの弱点を探ることを思い付く。ところが、連がガイアクアの蓋を開けた瞬間、ガイアクアが噴き出し、走輔と連はそれを浴びてしまった。途端に目つきが変わる2人は、ギンジロー号を出て行ってしまった。

 インテリヤクザ風の走輔とチンピラ風の連は「ガイアーク保険」なるインチキ保険を売り込み、まず主婦から大金を巻き上げる。早輝や範人、軍平が2人を止めに来るが、「もっともっと悪いことしよう」と2人は更に調子付く。見かねたスピードルも走輔に「目を覚ませ!」と訴えるが、走輔はゴーフォンを放り出してしまった。連も同じくゴーフォンを捨ててしまう。

 一方、退散してきたストローバンキを三大臣は温かく迎え、紛失対策として大量のガイアクアを与える。さらに多くの人間を「ブクブクさせる」ようケガレシアに命ぜられ、ストローバンキは再び街へと出撃して行った。

 走輔と連は、続いて黒板に爪を立てて引っ掻くという姑息な手段で、宝石店から宝石をせしめる。美羽がカードでその支払を肩代わりし、2人の「悪事」の真意を尋ねるが、走輔に指輪をプレゼントされて嬉しくなってしまい、それ以上を聞き出せなくなってしまった。更に、やって来た大翔を華麗な宙返りキックでノックアウトしてしまった走輔を「カッコいい」と評してしまう始末。連の方は、大翔に喰らわされた不意打ちによって我に帰ったが、走輔はガイアクアによって増幅させられた悪の心と力の呪縛から未だ抜け出せないままだ。そんな走輔に苛立つスピードルは、バスオンの「ぶん殴ってやりたかったぜ!」という言葉に、何かを思い付く。

 街に現れたストローバンキを迎撃すべく、走輔を欠いたまま出撃する6人。だが、ガイアクアを摂取してドーピングパワーを得たストローバンキは異様なまでの強さを発揮する。戦況を憂うボンパーは走輔のことが気にかかるが、スピードルは「簡単に悪に染まるような弱いヤツは、俺の相棒じゃない」と吐き捨てる。そんなスピードルに、ボンパーは「走輔が強いから相棒に選んだの?」と問う。スピードルは「そうじゃない、あいつの熱い正義の心を感じたからだ!」と答える。ボンパーは、それならば何故走輔を信じられないのかとスピードルを非難した。

 6人の危機をよそに、走輔はコショーによる銀行強盗を働き、これを成功させる。そこへゴローダーGTが登場。意思を持たないはずのゴローダーGTが喋り出し、「お前の正義の心をもう一度燃え上がらせるんだ」と走輔を鼓舞した。だが、走輔は反応を示さない。怒ったゴローダーGTは「バカ野郎!」と叫びつつ熱い拳を見舞った。その拳の熱さを感じた走輔は、自分の熱い正義の心を取り戻し、ゴローダーGTがスピードルであることに気付く。苦しさを顧みず、自分の目を覚まさせてくれたスピードルに感激する走輔。走輔とスピードルは互いの熱い絆を再確認する。

 ゴーオンジャー絶体絶命の危機を救ったのは、ゴローダーGTのスピードルと走輔であった。「真っ赤に燃えるスピードキング 俺たちゴーオンマッハ組!」名乗りを決めた2人はストローバンキに猛攻を加え、一気に勝負をつけた。しかし、スピードルのパワーは底を尽いてしまう。巨大化したストローバンキに対抗するは、炎神達のコンビネーションに続き、ガンバルオーとセイクウオーの強力タッグ。巨大ストローバンキは反撃の暇もなく粉砕されてしまうのだった。

 走輔と連には大事な仕事が待っていた。それは悪事の被害にあった人々に謝ってまわること。走輔は「私は謝って貰ってないんだけど」「俺も蹴りを入れられたんだ」と須塔兄妹にも迫られ、仕事はまだ終わりそうにない。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
會川昇
解説

 走輔とスピードルの熱い絆を再確認するエピソード。初期編の走輔とスピードルに見られた構図でありつつも、折り返し点を過ぎたこの時期ならではの要素を多数加え、ギャグ精神と充実の内面描写に溢れた内容となっている。また、ゴローダーGTの新しい機能を紹介するという側面も併せ持つ。

 今回のフォーマットは、キャラクターの性格が豹変するという、特撮TVドラマではお馴染みのシチュエーションを下敷きにしており、「ガイアクア」という関与物があるところも伝統に則った展開になっている。ただし、「ガイアクア」は元々有している悪の心を増幅させるという効果があると設定され、その増幅された悪の心に押しつぶされた正義の心を、何らかのきっかけで取り戻していくという展開を採用。この展開自体もこれまでなかったわけではないものの、「正義の心を取り戻す」ことを走輔とスピードルの「古臭い青春ドラマ」に重ね合わせて爽やかに描くところが「ゴーオンジャー」らしいのだ。また、常にギャグの旋風が吹き荒れる「ゴーオンジャー」において、悪の心に染まる走輔と連を、どうギャグ仕立てにしていくかという課題を見事にクリアしているところも見逃せない。普通、性格豹変のエピソードは、普段がシリアスなキャラクターを大いに崩して遊ぶ為の手段として格好の題材であるが(「鳥人戦隊ジェットマン」第11話「危険な遊び」が代表的。本エピソードのシチュエーションに酷似)、元々がギャグ調の「ゴーオンジャー」において、この性格豹変を面白く演出するのは大変だったのではと想像される。

 完成作品では走輔がインテリヤクザ風、連がチンピラ風となったが、走輔と連の性格を逆転させつつ悪いヤツにするというヒネリが効いており、面白い。いつも直感で突っ走り豪快な戦いを展開する走輔には、卑怯で姑息だが物腰が柔らかく、また周到な作戦(?)を用意して数々の悪事を成功させるというキャラクターが与えられ、理詰めで慎重派の連には、すぐにカッとなり横暴だが走輔には逆らわないという絶妙なキャラクターが与えられた。この2人の展開する「悪事」は、社会通念上、絶対的に許容できるものではないが、「ゴーオンジャー」らしく面白おかしい味付けによって「謝れば済むレベル」に見た目上押し下げられており、ビジュアル的に大変楽しいものに仕上がっている。今回のメインテーマはこの「悪事」ではないのだが、ビジュアルインパクトとしてのメインはこの「悪事」の数々なので、順を追って見ていきたい。

 まず、走輔と連が展開したのは「ガイアーク保険」なるインチキ保険。「昨今、ガイアークに悩まされている世間」という前提が妙に生活密着型でリアルだ。こういった市民生活と隣り合わせな感覚は、往年の東映特撮TVドラマを思わせる。ブザーを押せばゴーオンジャーが助けに来るという何ともチープな感覚が秀逸だが、ブザーをはじめ、パンフレットや契約書といった道具を調達する様子を想像すると妙に可笑しい。また、ゴーオンジャーも資金的に苦しいという話は、実はウソとは言えないのではないかと思わせるところが巧みで、更に可笑しさを誘う。その後、スピードルとバスオンがゴーフォンごと投げ捨てられてしまうという戦慄シーンがあるのだが、秀逸なギャグ描写の直後だけに余計に背筋が寒くなる。ギャグを単なる飾りにしない姿勢は高く評価できる。

 続いて、走輔と連は黒板を爪で引っ掻いて宝石店を襲撃する。この引っ掻き音、「そのものの音」ではないが妙にリアルで、このテの音が苦手な人にとっては苦痛を伴う瞬間だっただろう。この程度で宝石店の店員が怯んでしまうかどうかを考えるのは、当たり前だが野暮。ここは馬鹿馬鹿しさを素直に楽しむのが流儀であり、ドリフのコントを見て笑うことに近い視聴姿勢で良い。直後、美羽が現れてゴールドカードで支払っていくあたりから、妙にリアルな世界へ引き戻される感覚も良い。そして、走輔が美羽に指輪を差し出し、美羽が有頂天になってしまうというギャグが後続することで、リアルとギャグの間に揺さぶりをかけられるのが更に良い効果を生んでいる。物語の本筋や悪事とはあまり関係ないが、「美羽は走輔が気になっている」という要素はここでかなり確実になった。しかし、その指輪、美羽が支払ったのでは...。

 ここからは、連が大翔の裏拳によって我に返った為、走輔単独の悪事となる。

 走輔が最終的に実行したのは、コショーによる銀行強盗。これも「引っ掻き強盗」と同様に大変実効性の疑わしい「コント」であるが、他の「悪事」と同様、ラストの「謝って済む」展開の為にコント仕立てにしてあるのは明白だ。ただ、ここでの走輔の余裕綽々な立ち振る舞いは実にカッコ良く、美羽でなくとも「カッコいい...」と思わず呟いてしまいそうだ。勿論、やってる事は許されません...。

 「悪事」を冷静に数えてみると目立ったのはこの3つで、子供を泣かせるという行為を強いて含めるならば4つである(大翔を蹴ったのを入れれば5つか)。数の上では少ないが、それぞれの演出が凝っていた為か、結構な満腹感を感じられる。遊びもここまで徹底していれば、話の本筋として通用してしまうという好例である。

 さて、もう一つの流れを司るのは勿論ガイアーク。走輔と連が「ガイアクア」の影響を受けていようが全く関知しないところが面白い。そして、ヨゴシュタインの暴走を経て本来のチームワークの良さを取り戻した三大臣は、何とこれまでにも増して「優しく」なっていた! ストローバンキ自体はドーピングすれば強いものの、基本的には情けない蛮機獣として描かれ、最初の戦いで敗走してきた際には、命乞いに近い平謝りを繰り返していた。ところが、三大臣はストローバンキを「見所がある」と評し、可愛がるのだ。最近感じていることに、ケガレシアの表情がどんどん柔らかくなってきているということがあるのだが、今回の嬉々としてシェイカーを振る様は、ストローバンキに対する優しい感情が滲み出ているようで非常に興味深いシーンであった。部下に対する慈悲深さという要素が、これまでの悪の組織にもなかったわけではないが(特に「電子戦隊デンジマン」「宇宙刑事シャイダー」あたりが印象深い)、ガイアークは突出しているように思う。何度も指摘していることだが、これは恐らく当初から予定されていたものではないだろうと、私は思っている。

 そんな三大臣の愛(?)に包まれたストローバンキは、情けない風情からは考えられないような戦果を上げそうになっている。走輔以外のゴーオンジャーおよびゴーオンウイングスを一網打尽にし、後一歩で全滅させていたかも知れないのだ。一見ダメそうに見えるが実は強力だという感覚は、殆どの蛮機獣に共通する感覚であるが、ストローバンキはそのモチーフが「軟質」である為か、余計にその傾向が強く現れているように思われる。勿論、蛮機獣ならではのギャグも充分に体現。いきなり「ガイアクア」のCM風カットを披露してキタネイダスに「もう夏も終わりゾヨ」と言わせ、冒頭にしていきなり頂点を極める。その後は目立ったギャグを披露していないが、ガイアクア紛失で慌てふためいたり、ドーピングパワーで性格が豹変(この辺りはちゃんと走輔や連に対する効果に共通)したり、ヘンに魅力的な言動によってストーリーを牽引していった。ハイトーンボイスが印象的な高戸靖広氏の声も、その魅力を数倍にしている。高戸氏はスーパー戦隊シリーズには怪人役等で数多くの出演歴があり、幅広い役柄を演じてきている故に、ストローバンキに対する魂の入れ方に職人芸的なセンスを見せてくれた。

 一方、戦闘レベルが高いはずのゴーオンウイングスの扱いは、ここ最近低下の一途を辿っており、今回も例外ではない。このあたりは、残念ながら追加戦士の宿命であり、パイオニアである「恐竜戦隊ジュウレンジャー」のブライや「特捜戦隊デカレンジャー」のデカマスター等の、活躍を有限化して制限した例以外、ちゃんとした解決策はほぼ皆無と言って良い。仕方のないことではあるが、「ゴーオンジャー」の場合、生真面目な須塔兄妹が走輔達の妙なノリに巻き込まれていくという側面も持ち合わせる為、そこに笑いが生まれるという特異性も有している。従って、一概に批判的になるわけにはいかないという深さも内包している故に、捉え方が難しい。笑いの側面から捉えた場合、軍平に「お前が付いていながら」と小突かれて素直に謝る大翔や、走輔の行動に一喜一憂する美羽の可愛らしさは抜群の魅力を放っている本エピソード。大翔と美羽はいよいよ、メインでないエピソードでもキャラの立ち具合を発揮してきたようだ。

 今回のハイライトは、範人の「軍平じゃあるまいし」という言葉に、突如サングラス姿に「豹変」する軍平ではなく(これはこれでハイライト並のインパクトだが)、走輔&スピードルによる「ゴーオンマッハ組」の等身大タッグだろう。ゴローダーGTにスピードルの炎神ソウルをセットすることで、等身大戦をこなすことができるという機能は、私的感想を優先させて頂くとすれば、実にエキサイティングな設定に映った。炎神と言えば、巨大な炎神と無機質な炎神ソウル、そしてホログラムの可愛らしいアニメーションであり、等身大のゴーオンジャーと「共闘」しているイメージが希薄だった。勿論、ドラマもその辺りを承知しているからこそ、炎神相手の演出を過剰なまでに熱くしたりといった方法論を展開してきたわけだが、ゴローダーGTの等身大バトルが登場することによって、より走輔達と近い位置での「共闘」が可能になったのである。走輔に相棒の熱いパンチを見舞うという展開は、この設定なくしては語れないシチュエーションであるし、互いに「握手できない」2人が握手する瞬間は、傍目には滑稽な感じだが、「ゴーオンジャー」を見てきた者にとっては感涙モノに映った筈だ。さらに、スピードルがパワーを吸い取られて苦しんだ末に、この瞬間に辿り着いたことを考えると、余計に感慨深い。

 実際の「共闘」の内容も充実している。ゴローダーGTのホイールモードに乗って颯爽と現れる素顔の走輔は非常にヒロイックで、戦隊レッドの本質を見せてくれた。等身大ゴローダーGTのアクションは基本的に巨大化アクションモードと同じであるが、等身大ならではのスピーディな動き(要するにハイスピードで撮っていないということ)や、スピードルの声が重なることによるキャラクターの先鋭化が大いにプラス方向に働き、8人目のヒーローといった趣を醸し出す。これぞ、ボーイ系中型ロボットと追加戦士のハイブリッドとしての、ゴローダーGTの真骨頂と言えよう。

 結果的に、この「共闘」がスピードルの巨大戦を不可能にしてしまったのだが、逆に他の炎神達が乱舞するコンビネーションバトルを見ることが出来た上、ガンバルオーとセイクウオーのタッグという旨味も生んだ。数珠繋ぎに展開していく後半の怒涛振りは、スーパー戦隊シリーズ特有のスピード感に溢れており、感慨もひとしおだ。