GP-21「幼稚ナヤツラ」

 ジャン・ボエールの誘いで、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスは合同訓練をしていた。しかし、ゴーオンジャーが駆るエンジンオーとガンバルオーは、セイクウオーに翻弄されっぱなしであった。大翔は「時間の無駄ですよ」とジャン・ボエールに進言するが、ジャン・ボエールは「なかなか面白かった」と返す。走輔達は大翔と美羽が用意したバーベキューに興じることとなり、大喜び。特に軍平は夢中で肉にかぶりつく。大翔はそんなゴーオンジャー達の様子を見て溜息をついた。

 一方、ガイアークでは、気分を変えるべく地球を汚すというオーソドックスな作戦に出る。その為に、キタネイダスによってフーセンバンキが作り出された。フーセンバンキは風船を街角で配り始めたが、警備員に邪魔されてしまう。すると、フーセンバンキは警備員を膨らませて飛ばしてしまった。続いてフーセンバンキの配った風船は合図と共に破裂し、周囲に毒ガスを撒き散らし始める。その反応をキャッチしたゴーオンジャーは直ちに出動。毒ガスの中で人々を救助すべくフーセンバンキに挑むゴーオンジャーだったが、フーセンバンキの装備する風船の柔らかさに阻まれ大苦戦。そこへゴーオンウイングスが合流し、一瞬でフーセンバンキを撃退。毒ガスに見舞われた人々も大事には至らなかった。ヘルガイユ宮殿に戻って来たフーセンバンキを見て、ヒラメキメデスはまたもや妙案を思い付く。ヨゴシュタインは「次はない」と念を押し、ヒラメキメデスに作戦を任せることにした。

 大翔と美羽においしいところを持って行かれ悔しがる走輔のゴーフォンから、突如ジャン・ボエールのホログラムが飛び出した。講義を受けてみないかと誘うジャン・ボエールの言葉に、連は受けてみようと言いだす。だが、いざ講義が始まると、やはり連以外はしっかり居眠り。ところが、ボンパーを作ったのがジャン・ボエールだという話に及ぶと、途端に走輔達は食いついた。しかし盛り上がったのも束の間、ボンパーが再びフーセンバンキの反応をキャッチする。

 現場に駆け付けた走輔達だったが、フーセンバンキの奇襲により、今度はボンパーが膨らまされ飛ばされてしまった。走輔達はゴーオンジャーに変身してフーセンバンキに立ち向かう。先程の戦いとは打って変わり、的確に攻撃を命中させたゴーオンジャーは、スーパーハイウェイバスターにジャン・ボエールの炎神ソウルをセットし、フーセンバンキを撃退した。だが、例の如くフーセンバンキは巨大化して反撃を開始する。

 エンジンオーとガンバルオーによる挟み撃ち攻撃を実行するゴーオンジャーだったが、空を舞うフーセンバンキに翻弄されて正面衝突。その隙にフーセンバンキは風船爆弾でボンパーを破壊しようと企む。だが、走輔達はエンジンオーを盾にしてボンパーを守った。呆れる大翔と心配する美羽を、ジャン・ボエールは「何の迷いもなく友達を助けようとするシンプルさ、そこが奴等のいいところだ」と諭す。

 刹那、大翔と美羽の前に、勝利を確信したヒラメキメデスが登場。大翔と美羽はゴーオンウイングスに変身して応戦する。一方の走輔達はボンパーを救助するものの、フーセンバンキの猛攻によってエンジンオーとガンバルオーの合体を解除されてしまった。不敵に笑うヒラメキメデスに、「遊んでやろう」と大翔が立ち向かう。しかしながら、ヒラメキメデスも負けてはいない。予想外の苦戦に見舞われた大翔は本気を出し、美羽と共にウイングブースターを見舞った。ヒラメキメデスを撃退した大翔と美羽はすぐさまセイクウオーを完成させる。セイクウオーは瞬く間にフーセンバンキを倒してしまった。

 無事助けられたボンパーは嬉しそうに走輔達に礼を言う。ジャン・ボエールは「作戦ありきでなく、後先考えずに動くことも必要なのかも知れない」と言うが、「いつも考えてから行動しろと言うくせに」と美羽は少々不満気。大翔はジャン・ボエールのことが「時々分からなくなる」と呟いた。

 その頃、失敗したヒラメキメデスは怒り心頭に発したヨゴシュタインによって制裁を加えられようとしていた...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バスオン!

監督・脚本
監督
鈴村展弘
脚本
武上純希
解説

 とにかく全員が活躍する一大娯楽編。ロケーションの派手さや目新しさは無いが、全編に楽しませようという工夫のパワーが漲っており、とかく近作で何となく漂っていた迷走感を払拭してくれた名編だ。それぞれのキャラクターもしっかり立っているし、正義側の誰がメインというわけでなくても、ちゃんとストーリーにドライヴがかかっている。

 今回の各キャラクターの立ち位置としては、ゴーオンジャーがジャン・ボエールの講義を受け、ゴーオンウイングスがそれを静観するといったところである。そこにガイアークが絡んでくることで、ストーリーが進行していく。つまりは、かなりシンプルにまとめられた格好だ。何故か「ゴーオンジャー」は、プロットがシンプルになると、様々な「遊び」の要素が入り込んで俄然面白くなるという特徴を持つ。今回も例に漏れずそのパターンであり、様々な「遊び」で楽しませてくれる。今更だが、パイロット版である第1話は正にこのパターンであり、プロットをシンプルにして映像の説得力と速いテンポでガンガン見せていくというスタイルだった。この第1話が強烈だった所為か、「ゴーオンジャー」というシリーズ自体がこのスタイル以外を既に受け付けなくなっているのかも知れない。

 さて、まずは、今回の走輔達ゴーオンジャーについて見ていきたい。いつもながらゴーオンウイングスにオイシイ所を持っていかれるパターンは、結局今回も変わらない。ただし、今回のテーマとしてボンパーをガムシャラに体を張って守るというものがあり、それを熱く実践して見せたことで、ゴーオンジャー側のポリシーや(現時点での)存在意義を巧く表現。これにより、戦術の伴わない浅薄な集団というイメージを微塵も感じさせないことに成功している。また、等身大戦ではフーセンバンキに「科学戦隊ダイナマン」のニュースーパーダイナマイトを思わせる過激な肉弾戦法を見舞っており、テクニカルなゴーオンウイングスとの見事なコントラストを生んでいる。ここで巧みだと感じたのは、自動車と航空機のトータルイメージの違いを、巧い具合に両ヒーローへと落とし込んでいることだ。無論、自動車にも大いにテクニカルな面があり、航空機にも大いにスパルタンな面があるのだが、子供が抱くイメージとしては、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスに割り当てられたような、ホットなイメージとクールなイメージが妥当であろう。その等身大戦では、スーパーハイウェイバスターにジャン・ボエールの炎神ソウルが用いられるというシーンも登場。ジャン・ボエールの炎神ソウルが神出鬼没であるという設定や、ジャン・ボエールが走輔達を卑下していないことを、見る者に感覚で訴える見事な措置だ。なお、話は前後するが、フーセンバンキの黒煙に包まれたシーンでは、ゴーオンジャーのヘルメットのライト部分が発光しており、その効果をあげている。こういったメカニカルな機能性は、「超電子バイオマン」における複雑パターンで点滅するマスクを頂点に、次第に廃れてしまった要素であり、少々興奮を覚えてしまった。

 ゴーオンジャー側には、細かい部分で色々な遊びが盛り込まれていて笑わせてくれる。ジャン・ボエールの講義シーンでは、キャラクターの個性が巧く演出されており、元々知識欲旺盛な連以外は、居眠りしたり上の空だったり。各人の居眠りの表現は、さながらコントの様相を呈していて実に楽しいが、最も印象に残るのは、連が目を輝かせて講義に集中している様子だ。「マシンワールドの歴史」と題された講義から一転、ボンパーの話題になると全員が食い付くのは、その後ボンパーが人質状態となる筋運びに繋がる伏線だが、ボンパーとの仲の良さは本編並びに「ゴーオンゼミナール」にて丁寧に描かれてきた為、違和感は全く無い。むしろ、ボンパーがかけがえのない仲間であるということを、そつなく、しかもさり気なくアピールすることに成功している。他にも、軍平がバーベキューの肉にこだわって妙にギラついた笑顔を見せる等、随所で笑えるポイントを見つけることが可能だ。

 一方のゴーオンウイングスは、ジャン・ボエールがゴーオンジャーに興味を持ったから仕方なく付き合っているというシチュエーションである。ただし、それが色濃く表面に出ているのは大翔であり、美羽は前述のバーベキューでゴーオンジャーに楽しそうな様子で溶け込んでいたりと、その状況に応じて楽しんでいる節が見られる。ジャン・ボエールと同様にゴーオンジャーへの興味を抱く美羽にとって、ジャン・ボエールの行動はかなり納得できるものなのだろう。そのゴーオンウイングスには、残念ながら殆ど遊びのシーンがない。何度も言及していることだが、「ゴーオンジャー」の中にあってゴーオンウイングスが抱える最大の弱点が、この遊びの余地のなさであろう。ただし、今回に関しては大翔と美羽に遊びがなくとも、周囲のキャラクターが大いに遊んでいる為、さして影響はない。

 むしろいつものことながら、ゴーオンウイングスの魅力はアクションシーンにて存分に発揮されていた。大翔=ゴーオンゴールドの合理的なボクシングアクションと、美羽=ゴーオンシルバーの、スーパー戦隊初期作品群で見られるような器械体操的「JACアクション」のコラボレーションが面白い。また、ヒラメキメデスとの戦闘では高低差を生かしたダイナミックなアクションを組み立てたり、伝統のコンクリート破りを披露したりと、オールドファンならばニヤリとするようなカットが続出。満足度はすこぶる高い。また、セイクウオー登場時には各炎神の名乗りが盛り込まれた恒例の「巨大名乗り」が披露され、満足度の高いシーンとなっている。巨大戦は尺の関係かやや性急であったが。

 ところで、本エピソードの白眉たるキャラクターをフーセンバンキとすることに、異論はないだろう。そして、実はヒラメキメデスが影の主役としての存在感を放っていたことにも、異存はないものと思う。

 フーセンバンキは原一平氏が声を担当。原氏は「男はつらいよ」の寅さんのモノマネで有名なタレントであり、その芸の素晴らしさは故・渥美清氏のお墨付きであった。東映公式サイトを覗いてみると、原氏は寅さんの格好でアフレコ現場に登場。渥美氏より譲り受けたという衣装や小道具持参だったからというから、その気合の入り具合は格別だ。個人的には「男はつらいよ」にさしたる思い入れがなく、むしろ「泣いてたまるか」の方が好きだったりするのだが、それでもフーセンバンキが織り込んでいた寅さんのエッセンスには、大いに笑わせて頂いた。脚本ではカバーできない独特の言い回しは、やはり年季の入った芸が生み出す「間」に支えられている。単独クレジットも大いに納得だ。作戦的に毒ガスや爆破といった殺伐としたものを振りかざしつつも、どことなくほのぼのした雰囲気が全編に漂っているのは、ジャン・ボエールの存在以上に、このフーセンバンキによるところが大きいのではなかろうか。こういった種類の「遊び」は、メインターゲットである幼児には全く意味をなさないものかも知れない。だが、そのメインターゲットが減少傾向にある昨今において、大人の特撮ファンの興味を引き続けるという姿勢は、逆説的ではあるが大切だ。これからもベーシックな部分を崩さない程度に、大いにやって頂きたい。

 そして、ヒラメキメデスである。三大臣のユーモラスな雰囲気に混じり、すっかりユーモラスな存在の一員としてキャラクターを確立させたヒラメキメデス。このままズルズルとこの雰囲気を保ってガヤガヤと賑やかにやるものと(否、むしろやって頂きたいものと)思っていたが、驚天動地、上官であるヨゴシュタインが悪辣非道な面を前面に出し、「害地目大臣の顔に泥を塗った」としてヒラメキメデスを足蹴にする。ここで視聴者は一気にヒラメキメデスに同情する仕掛けだ。急転した状況に、ヒラメキメデスをふざけてなじっていたキタネイダスやケガレシアも表情を変えるほどで、失敗が続きつつも、それほど咎めなかったヨゴシュタインが遂に見せた怒りの描写は、悪の幹部としての迫力充分。普段がアレだっただけに衝撃度も大きく、よりヒラメキメデスの悲哀が引き立つ。ヒラメキメデスは当初、腹黒いキャラクターとして登場したように見えたが、結局ヨゴシュタインに頭が上がらない中間管理職的なキャラクターとして完成し、それがさらに同情の余地を生んでもいる。正直、ヒラメキメデスをここまで追い詰めるとは予想しておらず、突如悪の論理を露呈させたヨゴシュタインには違和感もあった。しかし、面白おかしくやっていながらも、それは一面に過ぎないということを示すに至り、ガイアークの底知れぬ恐ろしさを感じさせることにも繋がっている。「超力戦隊オーレンジャー」の悪の組織・バラノイアはガイアークと同様のコンセプトで設計された敵だが、そのバラノイアが面白おかしい路線を(やむなく) どんどん鋭化していくことで、その悪の組織としてのアイデンティティを崩壊させていったのに比べると、ガイアークは随分と理知的に設計された悪の組織だと評価できよう。

 その後、ゴーオンゼミナールを乗っ取ってしまう三大臣は、本編とは反対に実に楽しそうに「乾杯」しており、このギャップすらも許容してしまう「ゴーオンジャー」にまた驚かされてしまうのだ。