GP-18「庶民ヒーロー」

 美羽はゴーオンジャーのダメっぷりに興味を抱き、ギンジロー号にやって来た。美羽は「衣食足りて礼節を知る」という言葉を持ち出し、ゴーオンジャーの衣食住を満足させ、ダメっぷりを克服させるつもりなのだ。

 その頃、キタネイダスは先頃の戦いを、「新顔」のゴーオンウイングスさえいなければ、ゴーオンジャーに勝っていたと分析し、ゴーオンウイングスの日常生活を奇襲する作戦を立てていた。作戦遂行の為にバキュームバンキが送り出される。

 手始めにロードワーク中の大翔に襲いかかるバキュームバンキ。だが、大翔は隙を見せることなくバキュームバンキをすぐさま退ける。キタネイダスは「熱中したときこそが狙い目」とバキュームバンキに作戦を授けた。そこでバキュームバンキはトレーニングに熱中する大翔を襲うが、やはり大翔には隙がなく、ゴーオンゴールドに変身した大翔の前にまたもや退散を余儀なくされる。

 美羽は手始めに、走輔達を高級レストランへと招待する。食事に夢中になる走輔、範人、軍平に、連と早輝は呆れ顔だ。続いて美羽は高級ブティックに招待する。早輝は大量のドレスを買ってもらうことが出来て上機嫌だ。走輔は、ヒーローの価値が食や服装ではなく心にあると主張するが、美羽は「ヒーローは人を幸せにする使命がある。人を幸せにするなら、自分も幸せのなんたるかを知らなければ」と大翔の言葉を引用して反論する。美羽は嫌がる走輔を強引に連れ出し、服装を改めさせようとするが、走輔には逃げられてしまう。

 大翔がバキュームバンキの逃亡を許した現場に、偶然連、早輝、軍平が通りかかる。バキュームバンキを追おうとする連達に、大翔は「ただのバカだから放っておけ」と言い、何をしていたのかと問う。美羽と一緒だったと説明する早輝に、大翔は「野良犬を放っておけない美羽の悪いクセが出た」と説明。怒った軍平が大翔に失礼を正すよう詰め寄った時、大翔は妙な胸騒ぎを覚える。美羽の行先が渋谷ストリートだと知った大翔は、足早に去って行った。

 バキュームバンキの二度の失敗に、キタネイダスは美羽を狙うようアドバイスした。アドバイス通り美羽を狙うバキュームバンキだったが、美羽は奇襲に気づいていた。一計を案じ、バキュームバンキはすぐに土下座し始める。美羽がその様子に驚いている隙に、バキュームバンキはウイングトリガーとチェンジソウルを奪い取ってしまい、美羽を気絶させてしまう。悲鳴を聞いて駆け付けた走輔に、バキュームバンキはクロガネ山で大翔を待つとの伝言を残して去った。そこへ大翔が現れる。走輔は自分も救出に行くと言うが、大翔は「俺たち兄妹の問題だ」と言って突っぱねた。「最後まで付き合っていれば」と走輔は後悔する。

 クロガネ山に到着する大翔だったが、美羽を人質にとられては戦いようがない。変身を解除し、変身アイテムを渡せという要求を飲もうという素振りを見せる。ところが、そこに走輔が現れ、自分の変身アイテムを差し出すと言い出した。その代わりに美羽を解放するよう要求するが、バキュームバンキは聞く耳を持たず、走輔を痛めつける。しかし、熱いソウルの持ち主である走輔はバキュームバンキにしがみつき、大翔に美羽を救出させることに成功。焦るバキュームバンキに、走輔は大きな石を炸裂させ、自分と美羽の変身アイテムを取り戻した。

 すぐさま変身を果たす走輔と美羽。2人の猛攻で戦意を喪失したバキュームバンキに、走輔、大翔、美羽によるゴーオンキャノンボールが炸裂する。だが、バキュームバンキは巨大化して反撃を開始した。ガンバルオーで合流した範人と軍平に促され、エンジンオーを完成させる走輔、連、早輝。一気に片を付けるつもりのゴーオンジャーだったが、ゴーオンソードもガンパードガンもバキュームバンキの強力な吸引力に阻まれ大苦戦を強いられる。見かねた大翔と美羽は、トリプターとジェットラスで出撃し、エンジンオーに炎神武装させた。エンジンオージェットリプターの完成だ。エンジンオージェットリプターはバキュームバンキの攻撃をいとも簡単に退けると、ジェットリブルズアイで仕留めた。

 大翔と美羽は、自分たちの炎神がなければダメだったと指摘する。だが、美羽は「確かに弱いけど、なんか熱いね」と評した。大翔はそんな美羽に「お前の悪いクセも治りそうにないな」と微笑むのだった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 前回は互いに不可侵だったゴーオンジャーとゴーオンウイングスが、美羽の好奇心から交差していくというエピソード。基本的に美羽と走輔がメインとなり、展開していく。

 美羽は「野良犬を放っておけない性格」ということで、「野良犬」と見做されているゴーオンジャーの救済にあたろうという魂胆が今回の発端となる。セレブであるという設定を生かしてか、特訓や訓練ではなく衣食住の充実というアプローチが独特で面白い。前回は豪勢な邸宅に住んでいるというビジュアルのみが描かれたが、今回、高級そうなレストランでの充実した料理や、高級ブティックでドレスを多数買い込む様子を活写。セレブというキャラクター性を納得させており、(シルバーなのに)ゴールドカードで素早く会計を済ませてしまうあたりは、なかなか堂に入っていた。ブラックカードならば、よりセレブ面が強調されたのではないかと思うが、ギャグに重点を置き、前述の「シルバーなのにゴールド」という部分を残したかったものと思われる。

 今回は、大翔と美羽が互いに抱いている思いも感じ取ることが出来る。簡単に言えば、大翔は美羽を非常に大事な妹と考えており、美羽は大翔を尊敬する優しき兄だと考えている。前者は、捕縛されてしまった美羽の危機を知るや、途端に険しい表情に転じて疾走、人質となった美羽の前で様々な考えを巡らせる大翔から窺い知れる。後者は、大翔に教えられた「人を幸せにする使命のあるヒーローは、まず自分の幸せが何なのかを知るべき」といった言葉をそのまま走輔達に伝えたり、走輔の態度を「アニならば...」とことごとく否定するあたりに現れている。ただし、それだけに留まらない印象も画面から受け取れる。つまり、兄妹愛というボーダーラインを少し踏み越えてしまっているような危うさだ。それが単なる仲良し兄妹では済まされない、運命共同体的な須塔兄妹の魅力なのだろう。

 一方、走輔達ゴーオンジャーは、基本的に全編に亘って美羽に振り回されるという役回り。これだけ人数が揃っていれば、何かしら美羽の行動に対する不満が出ても良さそうだが、レストランにおける「食の充実」では全員が何の疑問も抱かず(卵料理を否定された連は複雑な面持ちだが)、料理を貪っている。ブティックでのシーンも、早輝(美羽に「早輝ちゃん」と呼ばれている!)は単純に嬉しそうな表情だ。ここで注目すべき点は、走輔がこのブティックで少し機嫌を悪くしたということで、このあたりで画面から得られる印象は、走輔の興味が衣ではなく食にあるというものである。何故なら、レストランにて必死で料理を口にしていたのは、走輔、範人、軍平だったからだ。早輝のオシャレなどどうでもいいと考えていそうな走輔は、シリーズ初期から変わっていない。その意味では、走輔像は徹底しているとも言える。逆に美羽はそんな走輔に特に興味を持っており、走輔を連れて別の場所(「渋谷ストリート」と呼ばれていた)へ行こうとする。

 さて、今回はストーリーの流れが妙にスッキリとまとめられている印象がある。良く言えば非常に分かり易く、悪く言えばヒネリがないといったところだろうか。

 ゴーオンウイングスがいなければゴーオンジャーに勝てると、奇襲作戦の為に送り出されるバキュームバンキ。常に隙のない大翔相手に、奇襲はことごとく失敗。これが前半における大翔サイドの流れだ。その頃、美羽は走輔達に興味を持ち、「衣食足りて云々」という視点を以ってレストランやブティックに招待。最後に最も感性の遠い走輔を別の場所に連れていこうとするが逃亡を許す。これが前半における美羽サイドの流れとなる。

 前半の二つの流れが合流するのは、バキュームバンキが隙のない大翔を諦め、美羽を狙い始めるところ。実は美羽にも隙がなかったという描写(美羽の足ごしにバキュームバンキを捉えるカットが「分かっている」)は、ゴーオンウイングスの能力を的確に描き出したものとして評価できる。ところが、直後にバキュームバンキの平謝りに騙されるという失態を、美羽は演じてしまう。ここに、決定的な大翔と美羽の違いがある。大翔は「バカは相手に出来ない」と明言しており、敢えて本気でバキュームバンキを追わなかった。つまり野放しにしたのだ。逆に美羽は謝るバキュームバンキを「放って置けなくなった」所為で、自分が捕まってしまうという憂き目に会うのである。2人のゴーオンジャーに対する態度は、バキュームバンキに対する態度と相似形を成しているのだ。キャラクター性の完遂が徹底されているようで嬉しい。

 後半は、深刻な表情で美羽の元へ向かう大翔と、ショッピングに付き合えば良かったと後悔し美羽の救出に向かう走輔の動きに集約される。ここで大翔が「バキュームバンキを仕留めて置けばよかった」などと言わない辺り、自身のプライドと美羽に対する信頼が窺われて良い。互いの考えが手に取るように分かる大翔と美羽。それだけに、両者為す術がないのだが、彼らの思考の型にはまらない走輔が風穴を開けていくという展開が秀逸。スマートな解決法を模索する大翔に対し、走輔は変身アイテムを差し出したり、すがりついたり、抱えた石をぶつけて奪われたものを取り戻したりと、実に泥臭い。しかし、それが熱いソウルに裏打ちされたものだと分かる演出が、このシーンをうまく盛り上げている。この後は、走輔と美羽のダブル変身およびダブル攻撃、さらには大翔が合流しての必殺技など見所が目白押し。テンポを落とすことなく巨大戦に持ち込み、エンジンオージェットリプターという新形態の披露まで一気に駆け抜ける。巨大戦での特筆すべき事項は、現時点全ての炎神が、余剰なく合体して登場しているということだ。エンジンオージェットリプターは、バルカやガンパードの代わりとして腕に合体しており、いわばバルカやガンパードとは「換装」の関係となる。しかし、バルカとガンパードにはキャリゲーターと合体することで完成するガンバルオーという形態が存在するので、2体の合体形態を出せば、炎神に余剰が生じないのだ。この措置は、これまでのマルチ合体の弱点を克服するアイデアの上に成り立っているものと思われる。

 今回はシンプルなプロットである分、カッコ良さや心情描写に重きが置かれ、あまりコミカルな描写は見られなかったが、ちょっと引っかかりのある良いセリフがガイアーク側に存在した。それは、キタネイダスの奇襲作戦を聞いたケガレシアが「汚い」と評す部分だ。以前、ケガレシアは「清らか」「綺麗」といった言葉で侮辱されたと憤ったが、「汚い」といったネガティヴな表現が、今回のこのセリフで真にガイアークにとっての褒め言葉であることがはっきりしたわけだ。こういった「要素のリレー」がうまく乗っている様子は、見ていて心地よい。

 なお、今回よりオープニングの映像が7人バージョンに変更されている。尺自体は当然変わらない(しかも「 昨日の自分をOverTake」までに7人の紹介を済ませなければ、場面が歌と連動しない)為、変更前よりハイテンポで7人が紹介される。それでも、メットオフの雰囲気自体は変更前とあまり変わらないところが凄い。同時に、エンディングも変更され、ベアールVをメインとするものとなった。ただし、エンディングにはゴーオンウイングスは登場していない。