GP-14「毎日ドキドキ」

 ある朝、忙しさに不満を持つ人々は、突如桃色の煙に巻かれたかと思うと温泉の中にとらわれ、あまりの気持ち良さに抜け出せなくなる。それは蛮機獣カマバンキの仕業だった。バイト続きで寝不足の範人は偶然カマバンキに出くわし、すぐに戦闘態勢に入るものの、カマバンキの温泉にとらわれ温泉の虜となってしまった。そこに走輔達4人が登場。カマバンキを攻撃するが、ボンパーからの連絡で範人の反応がカマバンキの中にあることを知る。そこにケガレシアも登場し「人間たちは楽しい所にいる」と告げた。人間の温泉好きを利用し、人間たちをカマバンキの中の幻の温泉に閉じ込め、その隙に世界を汚す魂胆なのだ。それを見抜いたゴーオンジャーは、カマバンキの噴き出す桃色の煙を跳ね返す。ところが、跳ね返した煙は作務衣姿の男・藤尾万旦のところへ流れて行ってしまう。万旦もカマバンキの温泉にとらわれたが、万旦は惑わされることなく周囲の情けない人々に喝を入れ、カマバンキの幻の温泉を打ち破ってしまった。驚くケガレシア。未だヘタったままの範人を尻目に、4人のゴーオンジャーは攻撃を続けたが、ケガレシア共々逃亡を許してしまう。範人を非難する4人。そこでいきなり万旦が「情けない!」と範人を一喝、そのまま襟首を掴んで連れ去ってしまった。走輔は面白そうだと言ってそれについて行く。

 ケガレシアはヨゴシュタインとキタネイダスの笑い者にされてしまい、やけ酒をあおっていた。だが、ふとケガレシアは妙案を思いつく。

 範人は万旦の道場に無理やり入門させられていた。走輔は万旦に同調し、調子良く範人指導に加わる。範人は「楽しみを捨てる」という万旦の教えに賛同できる筈もなく、すぐに逃げ出した。しかし、道場を出ようとする範人の前に「綺麗な人」が現れる。その女性は汚石冷奈と名乗った。冷奈は万旦への弟子入りを志願する。範人はおろかスピードルや走輔すらも気付かないが、冷奈は実はケガレシアの変身なのだ。範人は冷奈に興味津々。修行の数々も、冷奈にいいところを見せたい一心で頑張る。そして、ついに万旦が「基本の中に極意あり」とする滝の修行に突入。冷奈は「極意」の言葉を聞き、これこそがカマバンキを破った秘密だと確信する。範人は冷奈にカッコいいところを見せようと、果敢に滝壺へと入るが、溺れそうになるという体たらく。冷奈は範人の行動を鬱陶しく感じていた。その夜、カマバンキに「極意」を伝える冷奈。それは、滝に打たれ、雑念を捨てるというものであった。カマバンキは言いつけどおりそれを実践し、「悟った~ような気がする」と何故かパワーアップを果たす。

 翌早朝、連、早輝、軍平は範人の様子を伺いに来た。そこで丁度カマバンキと遭遇する。早速戦闘開始となるが、パワーアップしたカマバンキは攻守ともに強力化しており、3人は苦戦を強いられる。結局3人は温泉にとらわれ、あまりの気持ち良さに抵抗することも出来なくなってしまった。ボンパーから3人の危機の連絡が入り、走輔は修行が「タイムオーバー」になったとして、範人を連れカマバンキ迎撃に向かおうとする。範人は、冷奈に「強くて、美しくて、清らかな人」に初めて会ったと言い告白しようとするが、走輔に強引に引っ張られて行ってしまった。範人がゴーオングリーンであると気付き、なおかつ「美しくて、清らかな人」と「死に勝る屈辱」を味わわされた冷奈は、怒りの余りケガレシアの正体を現した。カマバンキにゴーオンジャー打倒を命ずるケガレシア。ところが、範人は変身もせず温泉に飛び込み、幻惑されることもなく「冷奈さんのところに早く戻りたい」一心で幻を打ち破り、呆然とする4人を巧みに操ってカマバンキを殆ど一人で倒してしまった。

 カマバンキは巨大化して反撃を試みる。とにかく急ぎたい範人は、炎神アタッシュを放り投げて6つの炎神キャストに6つの炎神ソウルを同時セット。セットは出来たものの、それぞれのソウルはバラバラにセットされてしまい大混乱。範人は強引にエンジンオーG6に合体させるが、混乱したままの為、本来の実力を発揮できない。だが、範人はなおも「行ける」と確信し、勢いでG6グランプリでカマバンキを倒してしまった。

 急ぎ範人が道場に戻ると、冷奈は既に姿を消していた。失恋を感じて落胆する範人。修行よりも恋の楽しさの方が力になった、そう分析する早輝だったが、軍平は勿論そんな理屈を認めない。連は「どんな状況でも楽しんでみるのが範人流」と評した。

 一方、ケガレシアは「清らかだと?」と、自らの姿を映す湖面にムチを炸裂させていた...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
會川昇
解説

 範人メインのコメディ編。1クール終盤から2クール開始にかけて、実にコメディ3連発である。コメディも続いてくるとダレるものだが、さすが「ゴーオンジャー」は一味違う。あの手この手で飽きさせない工夫が凝らされている。エピソードによっては、賛否両論あれど個人的に傑作だと評価している「激走戦隊カーレンジャー」以来の、パロディ精神で笑わせてくれる戦隊だと思うがいかがだろうか。

 今回のメインは冒頭に述べたとおり範人。範人が絡むエピソードは、範人の少年っぽさを強調するものが多いように思うが、今回も通例のとおりとなっている。と言っても、温泉にまんまと引っかかるというプロローグ部分ではなく、ケガレシアの化けた汚石冷奈(この名前が可笑しすぎる)に一目惚れするという部分がそれにあたる。冷奈を「お姉さん」と呼んで惚けてしまうあたりに、その少年性が強調されているのだ。この構図は、よくある敵側との心の交流というパターンに該当しそうなものだが、その構図は完全に破壊されてしまっている。まず、ケガレシアは藤尾万旦の強さの秘密を探る為に近付くが、その動機や目の付け所は完全に浮世離れしており、悪の幹部というアイデンティティが解体されて笑いの対象になっている。片や範人は嫌がりつつ万旦の道場に入門(?)し、結局はその本質を見ることなく冷奈に夢中になるという、ここでもヒーローの(根性モノで繰り返される)精神主義を完全否定した立ち振る舞いを見せる。しかも、互いの正体には全く気付かない。このように、ベースとなるものの裏をかいて笑いをとる手法はオーソドックスだ。しかしながら、このポジションで互いが交差すること自体有り得ないという前提の上で、範人の「清らかで美しい」との冷奈評が、冷奈ことケガレシアのプライドを大いに傷つけるというシーンは別格。思春期の男女が抱える棘のある恋愛観といったものが、さり気なく視聴者に突き刺さるという絶妙な心理効果をもたらしている。特にラストシーン、一人湖面を鞭打って心情の揺れを匂わせる思わせぶりなカットが恐ろしく効果的だ。

 カマバンキ、藤尾万旦、そして何故か面白がって付き合う走輔と、周囲の役者も粒揃い。

 カマバンキは最近の強力な蛮機獣の中にあっては異色で、とにかく風呂釜に幽閉して温泉の虜にするしか能がない。カマモチーフだからオカマというストレートな設定も、小難しいことを考える余地を与えず分かり易い。温泉の虜にするという能力、それに引っかかる範人、温泉幻惑を打ち破る万旦、万旦の元で修行を強要される範人、万旦の強さの秘密を探ろうとするケガレシア、そのケガレシアに夢中になる範人の勢いで倒される...と見事にカマバンキは歯車に徹している。特撮TVドラマにおける「怪人」の多数が狂言回しであるということに異論はないだろうが、このカマバンキは正統かつ徹底した狂言回しだろう。巨大戦では頭部に湛えた温泉が派手にこぼれたりするのが実に可笑しい。頭に水を蓄えているヤツと言えば「ウルトラマンA」の超獣・キングカッパーを思い出すが、こちらはプールに化けていた。

 藤尾万旦とは一体何だったのだろうか。カマバンキの幻惑を打ち破る程の強靭な精神力の持ち主...そうだろう。何となく山師臭い求道家...そうも見える。カマバンキを倒す為に必要な人物であったか...それも間違いない。しかし、それは範人と冷奈=ケガレシアを引き合わせるという意味で必要な人物だったというだけである。今回の一件に緻密に関係しつつも、事件の本質には殆ど関わっていない。土壇場ではしっかり気絶しており、結局範人の勝利には直接の影響を与えていないのだ。それ故に、特異なポジションを獲得している。ただ、特異なポジション故にウサギの着ぐるみパジャマや中途半端にコミカルな表情が生み出す雰囲気が、「意図的なコメディ」から今ひとつ脱却していないように映る。いわば「わざとらしい」のだ。例えば藤岡弘、氏のようないかにもな求道家風情であったならば、本人の本気度に拍車がかかってより可笑しさを増したに違いないと思うのだが。

 走輔は「レッド」の露出を確保する前提での登場として差し支えないだろう。万旦と共に竹刀を握り、範人に接するところから、万旦のような人物に同調しやすい性格なのかも知れないが、今回の走輔は単純に範人の「修行」が面白そうだという興味本位で動いているに過ぎない。つまり、万旦の修行の内容については特に興味を抱いていない。どうやら走輔の持つ「ヒーローの理想像」は高尚であるらしく、そこから外れる範人を走輔は常々心配している(あるいは興味の対象にしている)ようではある。が、今回に関しては、走輔は「それだけ」である。後述するが、それ以降も特にリーダーらしいこともせず、終始範人の勢いでカマバンキを倒してしまうからだ。コメディとは言え、これほどレッドを軽視してしまう戦隊も珍しいだろう。勿論、その「軽視」は決して厭らしいものでも無愛なものでもないことを言い添えておかなければならない。

 範人の獅子奮迅の活躍は後に回すとして、ここでケガレシアについて言及しておこうと思う。

 前回、壷振りの変装を披露したケガレシアであるが、今回は満を持して(?)、汚石冷奈というキャラクター名付き変装にて登場。前回の壷振りのメイクはケガレシアそのものだったが、今回はいたって普通のナチュラルメイクになっており、より変装度が高い。水栓のアクセサリを髪に付けているあたりも高ポイント。この水栓でちゃんとケガレシアの変装だと判る。また、範人の言うとおり、ちゃんと清楚に見えてしまうのも凄い。眼鏡ルックに作務衣という出で立ちは、幹部コスプレに飢えた往年の特撮TVドラマのファンを直撃すること間違いなし。かつては「電子戦隊デンジマン」のミラーとケラーが頻繁に民間人に化けたり、「超新星フラッシュマン」にてレー・ネフェル演ずる萩原さよ子氏が、ご本人のキャリアである「科学戦隊ダイナマン」のダイナピンク・立花レイとはまた違った大人の魅力を放つ変装を披露したりと、楽しみが満載だったが、近年はあまり積極的でなくなってしまった。というわけで、やはりケガレシアには頻繁に化けていただきたいところだ。

 この冷奈の面白さは、単にルックスだけでなく悪の幹部・ケガレシアとしてのアイデンティティと外見の亀裂にもある。意外にも人間のポテンシャルに関心を寄せるところは無邪気だが、格好が冷奈である為に、そのことが余計に悪としての存在感を希薄にしている。また、汚らわしいことを旨とするガイアークでありながら「清楚なお姉さま」に図らずも変装してしまったことで、範人の目を惹いてしまい、挙句「清らかで美しい」という評を頂くことになるのである。

 このシリーズは「ゴーオンジャー」であることからして、深読みはほぼ許されない構造と言っていいが、この時のケガレシアの心情はいかなるものだったか、想像してみるのも面白い。かつて「電子戦隊デンジマン」でベーダー一族の長であるへドリアン女王は、汚く腐った世界が好きでありながら、自身の美しさが全宇宙一であると疑わないキャラクターであった。つまるところ、へドリアン女王はそのアイデンティティではなく、外側に向かったセンシティヴな部分に歪みのあるキャラクターだった。逆に、今回のケガレシアは汚れたものでありたいという、内側に向かった個に反し、外見は人間にとって美しいものだったというキャラクターとして描かれる。これはつまり、自分の美しさを信じて疑わない女性が、他の人間に口汚く評されるということと全く同じ構造だ(ヘドリアン女王は従者に常々「美しい」と言わせていた)。ここで巧みさを感じるのは、美しいを汚いというのではなく、汚いを美しいと言っている点である。後者は人間の感覚から非常に大きくズレている為、我々はケガレシアの怒りに感情移入できない。空恐ろしい程の余韻を残した唐突なラストシーンは、この感情移入を拒むことで成立したものだ。湖面に自身の姿を映し、それをムチで切り裂くようにするケガレシア。その怒りの程に対しては、浅い理解しか許さない。故に、ガイアークの底知れぬ恐ろしさすら感じるのである。ここで、一旦亀裂に見舞われたケガレシアのアイデンティティが、悪の幹部としての深さを増したと言っても良いだろう。

 さて、冷奈と再び会うことしか頭にない範人の活躍であるが、実に範人らしく調子のイイものとなっている。

 悟りを開いてパワーアップしたカマバンキに、ゴーオンジャー全員が虜になるが、冷奈に夢中な範人は早いところカマバンキを倒そうと躍起になるというシチュエーション。ここでは範人の中で冷奈が温泉を上回る楽しみであることが巧く表現されている。脱出しても呆然としている4人を巧みにポージングさせ、一人で名乗りを挙げるという、スーパー戦隊シリーズであることを逆手にとったコミカルな描写が秀逸。近作の慣例に従ってか、中央を範人が陣取っているのにも注目したい。なおここでは、恐らくスーパー戦隊シリーズ初の、「敵幹部のイメージをバックに名乗りを上げる戦隊」という珍シーンが登場している。

 続いて、未だ呆然とする4人を尻目に、勝手にゴーオンギアを取り出して自らスーパーハイウェイバスターを組み立て、重そうに担いでカマバンキを打ち破る。慌て気味のテンポも映像として的確に表現されており、そのカット割の慌しさとブレることなく合成が施されているのにも注視したい。「急いてはことを仕損ずる」という諺がまるで当てはまらない性急さがたまらなく笑える。

 そして、範人の性急さによって、炎神ソウルの互換性というマーチャンダイジング的なアピールを、よりによってコメディに仕上げてしまった巨大戦。炎神キャストにそれぞれ普段と異なる炎神ソウルがセットされるという事態の内訳はこうだ。スピードルにバルカのソウル、バスオンにベアールVのソウル、ベアールVにキャリゲーターのソウル、バルカにガンパードのソウル、ガンパードにバスオンのソウル、そしてキャリゲーターにスピードルのソウルがセットされた。炎神役声優陣の職人的な戸惑った演技には要注目。これは実際の炎神ソウルのトイによって再現できる(戸惑うセリフは発しないが)。その後、キャストはバラバラでも熱いソウルはいつもと変わらないという、何とも「ゴーオンジャー」らしいエクスキューズの元、エンジンオーG6を完成させ、これまた範人がコクピット中央を陣取る。異例中の異例ということなのだろうが、こういったセンター交代のお遊びを度々やってくれると面白いと思う。G6グランプリで飛び出すソウルが、それぞれ違う位置から飛び出せば、もう神業の領域だが、さすがにそこまでコメディに手間とお金はかけていなかった。少々残念だが、それぞれ違う位置から飛び出したところで、それに気付いて満足する人がどれだけ存在するかを考えれば、それはそれで真っ当な措置だろう。

 次回予告を見る限り、次回より新展開が待っているようだ。コメディシリーズは一旦打ち止めということだろう。「ゴーオンジャー」のシリーズ展開として、重要回とその間のコメディ挿話という構図が確立されつつあるように見受けられる。個人的には、非常に楽しみな展開手法だ。