GP-10「発車オーライ」

 連は朝食の用意そっちのけで、連日炎神の改造を行っていた。ある朝、連は遂にスピードル、バスオン、ベアールVの改造を終えた。残るはバルカ、ガンパード、キャリゲーターの3体だ。その日の朝食は代わりに早輝が作ることになったが、何と出来上がったのは砂糖たっぷりのチョコレートソースがかかったオムライス...。

 その頃、ガイアーク三大臣はレンズバンキが敗れる間際に撮影したエンジンオーとガンバルオーの情報を元に、三大臣「大連立」でスペシャルな蛮機獣・カガミバンキを作り出し、街へと送り出す。カガミバンキはいきなり巨大化して出現した。5人はすぐにエンジンオーとガンバルオーで迎撃。ところが、カガミバンキはガンパードガンとバルカッターをコピーして装備すると、ガンバルオーを叩きのめしてしまう。更には、エンジンオーのゴーオンソードもコピーし、エンジンオーをも倒してしまった。だが、そこでカガミバンキのビックリウムエナジーも尽き、退却を余儀なくされる。辛くも最大のピンチを免れたゴーオンジャーであったが...。「いつかこういう時も、来るんじゃないかと思ってたっす」連はそう言うと、「このままでは勝てない。やっぱりアレを急がないと」と言って立ち上がった。

 連はボンパーと共に新しいフォーメーションを開発していたのだという。スピードル、バスオン、ベアールVの改造は終了しているが、バルカ、ガンパード、キャリゲーターの改造はまだ終わっていない。連は範人と軍平に協力を依頼する。「ドキドキするじゃない」と乗り気に範人のペースに乗せられ、渋々承諾する軍平。早速改造作業が始まった。炎神キャストのままでは細かい作業に時間を取られすぎる為、本来の大きさに戻して一気に改造する方針だ。

 一方、ガイアーク三大臣は勝利を確信して祝杯をあげていた。カガミバンキは「三大臣合同スペシャルバンキ」だけあってビックリウムエナジーの充填に時間がかかっている。酔って暇を持て余した三大臣は、景気付けに蛮ドーマ軍を出撃させた。蛮ドーマ軍を迎撃すべく、連からバスオンを託された走輔は、早輝と共に出撃する。走輔達が蛮ドーマ軍を順調に退けている間、急ピッチで進められる改造作業。だが、蛮ドーマ軍が全滅したのも束の間、パワーアップした巨大カガミバンキが出現、ケガレシア、キタネイダス、ヨゴシュタインのパワーを発揮してエンジンオーを追い詰める。

 改造は終わったが、ボンパーの作業であるブラスターソウルのダウンロードがまだ終わっていなかった。焦る連達。

 エンジンオーの合体も解除されてしまい、絶体絶命の危機に陥る走輔と早輝だったが、やっと連達が合流。そして、6体の炎神は合体を果たし、エンジンオー G6が完成した。ケガレシア達は予想だにせぬ展開にすっかり酔いが醒めてしまう。カガミバンキは自信を失うことなく攻撃を繰り出すが、エンジンオーG6は易々と跳ね返した。続いてカガミバンキは能力をコピーしようとするものの、エンジンオーG6が鏡を割って阻止。勝機を失ったカガミバンキに、エンジンオー G6の必殺技「G6グランプリ」が炸裂する。連は自分の功績を奢ることなく皆に謝辞を送った。勝利を喜ぶゴーオンジャー達。しかし、炎神達が炎神キャストに戻ってしまうまで、あとわずかな時間しか残っていなかった! 油断大敵...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 興奮必至のエンジンオーG6登場編。本来ならば前後編に分けそうな敗退~逆転のストーリーを1話に凝縮した、高密度かつハイスピードの好編だ。

 1話完結ではあるが、一応前回に伏線が用意されていた。それはレンズバンキが破壊される直前にエンジンオーとガンバルオーの必殺技を撮影していたというもの。そのレンズバンキによる撮影のシーンは今回の中でちゃんと説明されており、容易に理解できるものとなっている。

 注目はカガミバンキ。ガイアーク三大臣の「大連立」によって誕生した強力な蛮機獣である。余談であるが、「大連立」という時事ネタ由来のタームを織り込み、ガイアーク三大臣自身が抜群のチームワークを見せて、元ネタを皮肉るというスパイスが非常に心地良い。その「大連立」から誕生したカガミバンキは、相手の武器をコピーするという特殊でありがちな能力の持ち主だが、ここで面白い措置が見られる。それは、巨大戦しかしていないということだ。目的がゴーオンジャーを打倒することだというよりは、エンジンオーとガンバルオーを倒すことという印象が強く、その秀逸なコピー能力は5人のゴーオンジャーに対して一切使われることがなかった。コピー系の能力を有した怪人がすることと言えば、戦隊ヒーローをコピーして同じ色同士を戦わせるというのが定番。それを敢えて無視し、巨大戦に全てを懸ける正義と悪の双方を見ることが出来る。これは実に面白い趣向だ。

 コピー能力だけと思いきや、実はカガミバンキは三大臣の能力を移植されているという凄い蛮機獣だったりする。これほど早期にそのような特徴を持った蛮機獣を出してよいものかと不安になったが、どうやらそれはエンジンオーやガンバルオーといった、単体の巨大ロボならば凌駕する能力に過ぎないと設定されていたようだ。三大臣の持つポテンシャルは、三大臣であるからこその高さであるということらしい。ただし、画面上ではあまり説明されていない為、三大臣の能力を不当に貶めてしまった可能性も否定できない。

 今回はカガミバンキが余程の自信作だったのか、ヨゴシュタイン、ケガレシア、キタネイダスの三大臣は浮かれ気味。シャンパングラスで嗜んでいたのはオイルといったところか。ヨゴシュタンとキタネイダスは声優諸氏の演技力の高さにより、気持ち良く酔っ払っているのが存分に表現されていた。ケガレシアには赤ら顔のメイクが施され、本当に気分良さそうに飲んでいる様子を表現(ダルそうに送る目線が実に妖艶)。ここで遂にガイアークの仲の良さは折り紙付きとなった印象がある(何といっても、「我ら三大臣の知恵と」「力と」「勇気が」「集められている」などといった、悪とは思えない口上があるのだ!)。言葉遣いを貴族のイメージから拝借するなど三大臣がノーヴルな言動に彩られているのも相俟って、敵組織としては非常に珍しい安定的な悪役像だと言えよう。ただし、悪く言えばキャラクターが転がらない可能性もある。そのあたりは、初期編より見られたコミカルな面をうまく広げてやる必要があるだろう。コミカルと言えば、ケガレシアの「一気に酔いが醒めたでおじゃる」が凄いことになっていた。合成によって赤ら顔を一気に真っ青にしてしまうのだ。この「女性キャラに対するやり過ぎ加減」が、ゴーオンジャーの魅力の一つかも知れない。

 さて、正義側の動きはどうか。

 今回の主役は連ということになるのだが、簡単に言えば、ボンパーと連のアイデアを皆が一丸となって達成するということに尽きる。だが、通り一遍の平面的な努力ではなく、それぞれの役割が各々にちゃんと割り当てられているのが秀逸だ。また、炎神達が巨大な姿を10分間しか保てない設定を利用し、タイムリミットものの要素を巧みに取り入れているところも評価に値する。

 各々に割り当てられた役割は、全員が炎神の改造を手伝うという単純なものではなく、敵の迎撃と改造とが自然な流れの中で分担されている。スピードル、バスオン、ベアールVに関しては、連の努力によって改造が終了しており、蛮ドーマを迎撃すべく連を欠いたまま出撃。一方、バルカ、ガンパード、キャリゲーターに関しては改造が終了しておらず、炎神を巨大化させて連、範人、軍平によって改造を行うという趣向。これにより、全炎神のタイムリミットが同期されるのも細かいことながら凄い。

 スピードル、バスオン、ベアールVの蛮ドーマ迎撃は、蛮ドーマ登場編の例に漏れず、特撮大充実のシーンに仕上がっている。はっきりとは確認していないが、バンクがかなり使われているものと思われる。それでも、ドラマの流れを妨げるような使用になっていないのは勿論、むしろ畳みかけるような炎神の危機を煽るのに効果をあげている。明らかに新撮と分かる部分に関しても、ミニチュアセットの精緻さに目を奪われ、活き活きした炎神達の活躍を彩るミニチュアワークの冴えに息を飲む。ヘンな言い回しで申し訳ないが、「戦隊」の特撮もここまで来たかといった感想を持った。

 一方、バルカ、ガンパード、キャリゲーターの改造シーンも実に丁寧。「改造」というタームから、かなり泥臭く機械的な作業を想像していたのだが、それは連がキャリゲーターに対して行った作業のみ。バルカとガンパードに対する機械的な作業自体は、既に連が炎神キャストの状態で済ませていたのか、範人と軍平が行ったのは最終的な「仕上げ」だ。しかも、その「仕上げ」のシーンは思わず目を見張る出来栄えであった。それは、範人が合体プログラムらしきものをダウンロードしたり、軍平がタッチパネルでアルゴリズムを組み立てたりするというシーンである。多少のデフォルメはあるものの、SF映画もかくやと思わせるCGデザインの巧みさに見入ってしまった。

 完成したエンジンオーG6は、「威容」と呼ぶに相応しく力強いシルエットを有し、逆転のカタルシスを感じさせるに充分な存在感。合体シーンにおける「コクピット移動」は往年のスーパーロボットアニメを想起させて実に熱い。シートが後ろのハッチからシューターへと移動、頭部コクピットに集合するビジュアルはアニメ的な内部図解のような描写が成される。最終的にメインコクピットへとシートが集合、ステアリングホイールも別ルートで移動してくるというメカニカルな動きには興奮を禁じえない。必殺技であるG6グランプリは手順が詳細に描写されており、マーチャンダイジングを強く意識しているのが分かるが、ここまで逐一手順を呼称するのも、ある意味珍しい措置である。これはこれでノスタルジィを喚起されてOKではないだろうか。

 戦いが終わってからは、連の謙虚さに感銘を受けること必至。ボンパーの知識は勿論欠かせないが、改造にアイデアと大部分の作業は連の主導によるものであった。故に今回の勝利は連の手柄だと言っても過言ではない。だが連は、自分以外の者の努力がプラスされてこその勝利だと確信して疑わない。これが連の魅力だろう。また、改造作業においては範人や軍平への指示も的確かつ迅速であった。カーチームを持つのが夢だと語っていたが、恐らく素晴らしいチームをまとめ上げる手腕の持ち主に違いない。