GP-08「最高ノキセキ」

 ボーリングバンキがいきなり巨大化して出現した。走輔の所属していたレーシングチームの監督・冨士東次郎は「サーキットが襲われてから、妙なことばかり起きやがる」と呟く。そこに、ボーリングバンキ迎撃の為に走り抜ける走輔の姿が! ガイアークのサーキット襲撃事件によって走輔が死んでしまったと思っていた東次郎は、それを見て我が目を疑った。直ちに変身して戦闘態勢に入るゴーオンジャーだったが、キャリゲーターはエネルギーのチャージに時間がかかっており、スピードル達は錆に侵されて力を発揮できない為、ボーリングバンキを迎え撃つ手段がない。しかし、焦るゴーオンジャーをよそに、ボーリングバンキは前のめりになって動かなくなってしまった。

 そこへ、ガイアーク三大臣が登場。三大臣は炎神が錆で動けないことも、キャリゲーターのエネルギー不足も計算に入れた上で、ゴーオンジャーを襲撃しに現れたのだ。三大臣の実力はさすがに別格で、ハイウェイバスターとジャンクションライフルの同時攻撃も歯が立たない。東次郎は、この戦いを物陰で見守っていた。

 辛くも戦地を脱したゴーオンジャー。連はスピードル達を元に戻す方法が分かったと言い、ひたすらすべての錆を拭き取るという方法を示す。早輝と走輔も早速錆落としを開始。走輔は乱暴に錆落としを敢行するが、スピードルの体にはすぐに錆が広がってしまう。早輝は「丁寧に拭かないと錆びてしまう」と走輔をたしなめるが、当の走輔はきりがない作業にイライラし始める。そして走輔は、いきなり両目を指で無理やり広げ、涙によって奇跡を起こすと言い出した。だが、当然の如く涙で錆が落ちることはない。スピードルは「奇跡はもう、起きない」と呟く。走輔はその言葉を聞くと、突如ギンジロー号を飛び出した。

 自分一人で奇跡を起こし、ガイアークを倒すと意気込む走輔を、東次郎は自分の店の前で見かけた。東次郎は走輔を呼び止め、店に招き入れる。走輔はサーキットでのガイアーク襲撃の際、奇跡が起こったのだと東次郎に話し始めた。だが、ヒーローに選ばれるという奇跡を起こした自分が街を守ると宣言する走輔に、東次郎は走輔のレースの思い出を語り始める。それは走輔が奇跡の3位入賞を果たした際のこと。走輔自身は奇跡だと思っていたのだが、実は走輔の無茶な走りに応える為の、チームスタッフの徹夜のサポートがあったからこその3位入賞だったのだ。「ヒーローといったって、一人じゃねぇんだろ?」東次郎は優しく走輔を諭すのだった。スピードルのことが気になって店を飛び出した走輔は、危険を顧みず道路を横断するスピードルを発見する。スピードルは走輔を追いかけてやって来たのだ。「奇跡は起きるさ。でも、最高の奇跡はとっくに起きたんだ。そうだろ?」スピードルは自分と走輔が出会って相棒になったことこそが最高の奇跡だと言う。

 その頃、範人と軍平は微動だにしないボーリングバンキの真の目的を知る。それは、地中奥深く掘り進むことでマグマを噴出させ、環境を激変させることだったのだ。その企みを阻止すべく、2人は変身して攻撃を開始した。

 走輔は夜を徹してスピードルの錆を拭き取っていた。範人と軍平が三大臣に圧倒されていた折、ようやく錆落としの終わった連と早輝が合流する。だが、走輔はまだ現れない。走輔の早期の合流を信じる軍平は、時間稼ぎぐらいなら出来ると言い、ボーリングバンキの作業を阻止すべく、範人、そして「腹八分目」のチャージを終えたキャリゲーターと共に、ガンバルオーを完成させた。だが、ヨゴシュタインの指令でボーリングバンキはすぐに作業を中断し、吸収したマグマでガンバルオーを窮地に追い込む。一方、連と早輝も三大臣の力の前に絶対の危機に陥る。

 そこに遂に走輔が合流! スピードルの錆は完全に払拭されていた。勢いに乗ったゴーオンジャーは、ハイウェイバスター3連発で三大臣を一時後退させると、すぐさま炎神をエンジンオーに合体させる。エンジンオーとガンバルオーのタッグはボーリングバンキを瞬く間に下した。

 東次郎は「それでも何だかんだ、奇跡ってやつは起きるもんなんだな、走輔」と呟き、ゴーオンジャーの勝利を見つめていた。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
會川昇
解説

 真夏竜氏登場!

 ゴーオンジャーでは珍しく、単独メインとして走輔が主役を張るエピソードだが、オールドファンには真夏氏出演が肝となっている。ただし、さすがはスーパー戦隊シリーズ。ファンサービス的なキャスティングを行いつつも、あくまでゲストキャラとしての存在感に留め、また真夏氏自身もそれをわきまえた極めて渋い存在感を放っている。終始優しげな笑みを浮かべ、走輔を見守る姿、そして「ヒーローといったって、一人じゃねぇんだろ?」と問いかける姿に、オールドファンは感涙を禁じえない。恐らく、制作側も狙って真夏氏の代表作である「ウルトラマンレオ」の存在を匂わせているものと想像できる。東映公式サイトでは、真夏氏の登場に現場スタッフが「何だかそわそわしていた」との様子が伝えられており、特撮ファンにプロダクションの垣根がないことを思わせて感慨深い。

 真夏氏を登場させたことで、走輔のバックボーンが深くなったことも特筆すべき事項だ。こんな監督ならばチームが一丸となるだろうという印象を抱かせる。一方の走輔はチームの努力を知らずに自分が奇跡を起こしていると錯覚している自信過剰な人物に仕立てられている。それまで、走輔のコイントスが常に「当り」を示していたり、地道な捜査がなくとも事件の中心に逸早く辿り着いたりと、類稀なる運のよさを示してはいたが、劇的な効果をもたらす奇跡を呼び込むほどの運の持ち主ではないということが、これではっきりしたのである。何事も予定調和的に進むヒーローではないと釘を刺したのだ。ひたすら「努力の人」というイメージを醸し出す真夏氏の登場が、ここにピリッとしたスパイスを効かせている。

 ウルトラシリーズのファンにとっては、真夏氏の登場自体が「最高ノキセキ」なのだが、その話題はこの辺りで打ち止めとしておく。肝心なのは、「キセキ」というタームに込められた、「ゴーオンジャー」のテーマである。

 完成したエピソードを見ると、「キセキ」本来の一般的な意味に相当する「ミラクル」は何一つ起こっていない。「ゴーオンジャー」はSF系とファンタジー系の折衷型戦隊であり、いわゆる「炎神が起こす奇跡」があってもドラマは破綻しないのだが、あくまで人間の力や努力といった、地に足の着いた真っ当なテーマが描かれていることに驚く。ここには、炎神と人間がパートナーシップを結ぶ意味性が深く織り込まれており、今回スピードル達炎神は、走輔達が地道に錆をふき取るより他に復活の手立てがなかったのである。そこには、予定調和的な第三者の助力もない。ただ地道な作業のみが炎神を救う方法だったのだ。特撮ドラマには、「人事を尽くして天命を待つ」というテーマが用いられることも少なくない。事実、スーパー戦隊シリーズにおいてもファンタジー系戦隊に好んで用いられたテーマである。だが、今回は天命を待つまでもなく、人事を尽くしてこそ得られる結果というものが待っているだけだ。これが何を意味するか。それは明確な原点回帰だ。「原点」とは即ち、明確な因果のみということである。装備を充実させ戦力をアップさせたことにより、勝利する。または、己を鍛えなおして勝利するといった、原因と結果だ。これからどのような展開になっていくかは不明だが、このようなクールな視点は是非とも継続して欲しい。

 上記に関連して、面白いシーンがある。それは走輔が涙で「奇跡」を意図的に起こそうとするシーンだ。わざわざ早輝と「御伽噺の再現シーン」を撮っているあたりの徹底振りも可笑しいが、ここで覗かせる面白さとは、パロディ精神である。スーパー戦隊のみならず、多数の特撮TVドラマやアニメで一滴の涙が奇跡を起こしてきたが、本エピソードではそれを一笑の元に否定してしまうのである。勿論、直後の展開でスピードルの友情の厚さに打たれた走輔の「本物の涙」で奇跡が起こるというパターンもアリだが、前述のとおり、それは予定調和にほど近いものであり、むしろ完成作品ほどの感動は得られまい。陽の当る場所のヒーローを自負し、錆落としなどという地味で面倒な作業からの逃げの口実に、「奇跡」という言葉を持ち出すような走輔を、心配して危険を顧みずにやって来たスピードル。スピードルの見せた行動は「早く錆を落として欲しい」という安易な理由ではなく、あくまでパートナーである走輔の心情を案じてのことだ。そして、その思いに応えるべく、かつて自らの栄光の陰で行われてきた「徹夜の作業」を、スピードルに施す。この流れこそが「ゴーオンジャー」には正解だろう。炎神達の体から錆が消えたのは、一つの奇跡であると考え得る。何故なら、その錆は拭き取られる速度より増殖速度の方が明らかに高いという描写が存在するからだ。そして、その奇跡をもたらしたのは、涙ではなく汗である...。かつて隆盛を誇ったスポ根モノの精神(正に真夏氏の出演した「ウルトラマンレオ」がそうだ)を、ここで垣間見せるとは。

 蛇足ではあるが、ここでその「涙による奇跡」に関して、スーパー戦隊シリーズのみに絞って面白い例を紹介しておきたい。まず一つは「太陽戦隊サンバルカン」の第22話「東京大パニック!」。この回には、子供の涙によって化石化した父親が復活するというシーンがある。単純な「お涙頂戴シーン」に思えるが、実は涙の成分が表面の化石質を溶かすというロジックが付いた驚愕シーンなのだ。奇跡の種を科学に求めた面白いシーンとして記憶に残る。もう一つは「恐竜戦隊ジュウレンジャー」。こちらでは、私がリスペクトしてやまない曽我町子御大の演ずる魔女バンドーラが、涙によって魔力を失うというラストが待っている。普通ならば、「涙」のシーンは正義側に用意されてしかるべきなのだが、何と悪のボスが涙を流して無力化し、生き残ったまま終わるという驚愕のラストを用意したのだ。これは、恐らく曽我町子人気という原因が最も強く作用した結果だと推測できるが、いずれにせよ、この時点で正義側を食ってしまっているという問題点も指摘できるだろう。

 さて、今回に関してはもう一つ重大なトピックがある。それは、ガイアーク三大臣の屋外での揃い踏みだ。これでゴーオンジャーに三大臣の存在が知られたことになる。わざわざ名乗りまで用意する周到さで、いつものコミカルなやり取りをあまり感じさせない、悪役としての恐ろしさを存在感タップリに見せていた。見るからにアクション性に乏しいデザインを逆手に取り、あまり動かずともゴーオンジャーを圧倒する様子は抜群の描写で、当初抱いていた装飾過多な着ぐるみ幹部への危機感は全くもって払拭された。コメディと恐ろしさの同居は非常に難しいのだが、ガイアーク三大臣に関しては及第点をつけても差し支えないだろう。ヨゴシュタインもキタネイダスもいいキャラクターだ。この揃い踏みでは、ケガレシア役の及川氏が自ら高所に立つというチャレンジを行っているのも重要なトピック。かなり狭い足場であり、 (高所に耐性があるかは知らないが)相当な覚悟が必要だったと推察できる。このような気合の入ったシーンが盛り込まれると、シリーズは俄然活気を帯びてくるから面白い。

 前回登場したキャリゲーターがその活躍をロジカルに抑制されているのも効果的だ。エネルギーのチャージに時間がかかるという設定は、恐らくこの展開の為に用意されたものだろうが、キャリゲーター自体が巨大だということで納得させられてしまう。炎神の個性とデザイン、そして設定がストーリーにうまく絡んでおり、シリーズの歯車は今のところ至極順調だ。キャリゲーターのチャージ不足は、ガンバルオーの活躍をも抑制。前回で見せた強力無比なパワーをスポイルすることで、ボーリングバンキが極端に強い蛮機獣であることを防いでいる。パワーバランスの確保はこういった勧善懲悪モノには重要だ。炎神が続々登場すると予想されるだけに、どのような理性的な展開を見せるか楽しみである。

 そして、そのガンバルオーとエンジンオーが初のタッグを果たす。ここでは、贅沢にも5人のゴーオンジャーと6体の炎神それぞれが名乗りを上げるという珍しいシーンが登場。しかも、ゴーオンジャーの5人はコクピット内で名乗りポーズを決めるという、これまた珍しい趣向だ。コクピット内でのポーズは適度に簡略化されるも、それぞれの名乗りポーズの特徴をバッチリ残していて完成度が高い。これでボンパーを除き、ガイアーク三大臣を含めレギュラー全員がキャッチフレーズを披露したことになる。ガイアークの名乗りも「空海陸」を意識した感じで鮮烈であったが、ゴーオンジャー+炎神の名乗りに関しては、最後に全員で「炎神戦隊ゴーオンジャー!」と叫ぶところが秀逸だ。そう、このシリーズのタイトルは「炎神」戦隊「ゴーオンジャー」であり、炎神達も含めてゴーオンジャーだということを表しているのである。なお、同様の趣向に「爆竜戦隊アバレンジャー」がある。

 今回は、炎神が集合していくというイベントの狭間にあるエピソードとしての、一つのパイロットを示した作品だと言える。制作側のノリも感じられ始めており、1クールで相当な勢いがつくに違いない。