GP-06「乙女ノココロ」

 早輝はまた寝癖が直らないまま朝を迎える。走輔は「安心しろ。誰も早輝の髪なんて見てないからさ」「メットオンしちまえばわかりゃしない」と慰めたつもりだが、それは逆に早輝を落ち込ませてしまった。早輝の「可愛いって言ってくれるボーイフレンドの前だけでオシャレしとく」という言葉に、走輔は顔を引きつらせる。ボーイフレンドが出来たらまず自分に相談しろという走輔。そこに美しいフルートの音色が響く。フルートの主は小川征爾であった。早輝が美しい音色に聞き入っていると、突如スピーカーバンキが出現。フルートの音色を吸収してしまった。スピーカーバンキが放つ破壊音波から征爾を助けた早輝は、合流した走輔と共にゴーオンジャーに変身する。さらに連、範人、軍平も合流。連の気の利いた配慮により、耳栓をしたゴーオンジャーは、スピーカーバンキの音波をものともせず、マンタンガンで撃退する。征爾のフルートには音色が戻った。一方、スピーカーバンキに見所を見出したキタネイダスは、マンタンガンも耳栓も弾き飛ばせるよう出力アップを施すのだった。

 その後、早輝はオシャレをして出かけていった。「デートかも」と連。走輔は征爾が相手だと推測し頭に血が上る。走輔が外に出ると、軍平が範人相手に読唇術を披露していた。走輔は軍平の読唇術で、早輝のデートの会話内容を把握しようと企む。走輔の読みどおりレストランで楽しげに会話する早輝と征爾を見て、軍平は悪趣味だとしつつも協力し始めた。ただし、位置が悪く暗いため、会話の内容は部分的にしか分からない。やがて走輔はその断片的な内容から二人が互いに好意を持っていると曲解し、軍平もそれに釣られていく。

 それから数日間、スピーカーバンキは出現しなかった。ゴーオンジャーはパトロールを強化し、美しい音が流れる場所を重点的に警戒していた。当の走輔はCDショップでサボっていたが、軍平に叱られ、そこで征爾のCDを見つける。征爾はロンドンフィルと共演する程の有名なフルート奏者だったのだ。走輔は自分たちに早輝の青春を奪う権利はないと言い出す。そして寝癖をショーケースに映して直そうとしている早輝を目撃した走輔と軍平は、そのショーケースの中にウェディングドレスが飾られていたことから、早輝に結婚願望があるものと曲解。走輔の想像はエスカレートしていく。走輔は軍平に1人でパトロールに行かせると、早輝に近づいていった。すると、早輝のゴーフォンに征爾から「大事な話がある」との連絡が、走輔のゴーフォンにはスピーカーバンキの反応を報ずるボンパーの連絡が入る。スピーカーバンキのことを察した早輝は、走輔と一緒に行くと言うが、走輔は征爾の「大事な話」が「結婚の話」であると考えており、早輝を強引に征爾の元へ行かせるべく、冷たく突っぱねた。訳が分からず憮然とする早輝は征爾の元へと向かう。

 パワーアップしたスピーカーバンキは、街中の音を吸い取り、破壊音波に変えて蹂躙していく。走輔は「早輝は卒業だ。ゴーオンジャーはこれから4人でやっていく」と宣言。「涙を隠して、花嫁を見送ってやろうじゃないか!」という走輔の言葉を理解できない連と範人だったが、とりあえず4人のゴーオンジャーは耳栓をしてスピーカーバンキに立ち向かう。しかし、パワーの上がった破壊音波には、耳栓も効果がない。さらに、マンタンガンも弾かれてしまい、絶体絶命の危機に陥る。

 そこに現れたのは早輝! ゴーオンイエローに変身した早輝は、ゆっくりとマンタンガンを構える。余裕のスピーカーバンキは破壊音波を放つが、早輝は身をかがめてスピーカーバンキの足を狙った。うろたえたスピーカーバンキの動きをレーシングバレットの炸裂で封じる早輝。実は征爾の「大事な話」とは、スピーカーバンキの足元のスピーカーだけ音が出ていないことに、音楽家の鋭い聴覚で気付いていたということだったのだ。早輝はその話を踏まえ、スピーカーバンキの足元を攻撃したのである。逆転の勝機を掴んだゴーオンジャーは、ハイウェイバスターとジャンクションライフルでスピーカーバンキを倒した。

 走輔は「征爾君のこと、結婚したいくらい好きだったんじゃなかったのか?」と早輝に尋ねた。だが、それは完全に誤解だと分かる。そこに巨大化したスピーカーバンキが登場。走輔達は早速エンジンオーで迎撃するが、破壊音波は巨大化したことで益々強力になり、苦戦を強いられる。そこで軍平は、ガンパードなら音波の壁を撃ち抜けると確信し、ガンパードをエンジンオーに合体させた。エンジンオーガンパードの完成だ。ガンパードガンは確信どおり音波の壁を撃ち抜き、スピーカーバンキを倒すのだった。

 「走輔の勝手な思い込みで、大事な仲間を失うところだった」と軍平。早輝は自分の戻ってくる場所はゴーオンジャーの処だと爽やかに宣言した。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

今回の連トリビア

 「走輔のイビキは80デシベル。電車が通るガード下の音が100デシベル」

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
武上純希
解説

 ヒロインファン待望の早輝編。と思わせつつ、実は走輔もメインの回だったり、エンジンオーガンパード登場編だったりする結構てんこ盛り構成の豪華エピソード。

 全体的なフォーマットは、ヒロインが好青年ゲストに憧れるというもの。定番パターンとしては、そのゲストには既に意中の人が居るという「失恋パターン」と、そのゲストが実は敵だったという「騙されパターン」に大別される。今回は、前者と思わせておいて実は...というパターンで、定番パターンを熟知している者を茶化すというパロディ精神に溢れた内容となっている。結論から言えば、早輝は件のゲスト征爾に憧れているわけでもなく、ましてや恋心も抱かない。全ては走輔の早とちりに端を発した妄想で、定番パターンが構築され進んでいくという、何とも馬鹿馬鹿しくて(褒め言葉)面白い構成なのだ。

 まずは、初めてスポットを当てられた早輝について、本エピソードからそのキャラクターを探っていきたい。

 冒頭は、ゴーオンジャーの朝食のシーン。早輝はやや寝坊気味で登場し、特徴的な寝癖を作っている。寝癖については、ガイアーク出現の所為で美容院に行けないことを理由にしてもいる。寝癖についてはシリーズ開始当初から描写があり、早輝の特徴の一つとして定着させる狙いがあるようだ。さりげなくガイアークの所為にしているあたり、使命感や悲壮な決意とは程遠いところが非常にいい。走輔のヘタな慰めに立腹し「ボーイフレンドの前だけでオシャレする」と宣言するシーンには、「ボーイフレンド」という少し古めの言い回しが使われているところに注目。時事性を追うならば「カレシ」等別の言い回しもあるだろうが、敢えてこの言い回しを使っているのには、ノスタルジィの喚起や時事性から自由になるという意図があるものと思われる。

 征爾をスピーカーバンキから助けるシーンでは、正義のヒロインたる風格を備える。この「完成されたヒーロー」の感覚がゴーオンジャーの特徴で、普段はカリカチュアライズされた個性が賑やかであるが、いざ敵と対峙した際は勇猛な表情を見せるのだ。しかも、戦いの最中とて、敵と戦う必要のない隙間の場面では、また賑やかな個々人に戻る。これには、メットオン/オフが非常に効果的に使われており、今回も終盤で早輝が合流した際の戦闘でそれを見ることが出来る。

 続いては、征爾とのデートではなく「会食」のシーン。ここでは、普段のジャケットとは全く趣を異にするドレス姿で登場。肩を露出したかなりエレガントで大人っぽい出で立ちだが、テーブルについていた上、走輔と軍平のドタバタ読唇術と重なった為、はっきりと確認できないのが残念だ。とりあえず、 えんじんぶろぐの記事でその(可愛過ぎる)ドレス姿を確認していただきたい。ここでの会話は、大人のデートからは遠いもので「おかわりしたいくらいポモドーロが大好き」という内容。食欲旺盛な少女らしい一面を垣間見せる。ただし、早輝は会話にちゃんと敬語を使っており、礼儀正しい面も覗かせている。

 そして、スピーカーバンキの出現に際し、征爾から聞いてきた「大事な話」を生かして逆転の好機を生む。その直前、走輔の勘違いと無思慮な言い草により、クサってしまう早輝が描かれるのだが、ここはストーリー的にフェイクになっているだけで、とりあえずはあまり早輝のキャラクターに影響しない。むしろ、走輔に腹を立てつつもゴーオンジャーとしての使命感を全く失わないところが重要。身を屈めてスピーカーバンキの足元を狙い撃つという動きの良さも特筆モノで、今シリーズもスーツアクターとの連携は完璧だ。

 このように見ると、早輝のキャラクター造形は、「大戦隊ゴーグルV」のゴーグルピンク・桃園ミキに非常に近いのではないかという印象がある。桃園ミキは、それまでの戦隊ヒロインが有していた大人の女性という雰囲気を初めて破壊したキャラクターだ。可憐な少女という雰囲気を持ちつつ、戦場では勇猛果敢に戦い、しかも清廉で気も強い。戦隊ヒロインがアイドル化している昨今と当時のヒロインを厳密には比較できないが、キャラクターの目指す方向性は一致しているのではないか。つまり、早輝というキャラクターは逢沢氏という非常に現代的なルックスを備えた女優に、ノスタルジックなヒロイン像を演じさせるというものではないかと思うのである。

 さて、一方のメインは走輔である。

 前回、ゴーオンジャーになるということは走輔に気に入られることだと書いたが、そんなリーダー像を補完するのが、今回の言動であった。だが、補完内容はリーダーの資質としては芳しくない。早とちり、妄想癖、無配慮。この不名誉な単語で表現できるものが並んでいる。また、連の薀蓄を引き立てる為か、意図的に知識の表現を笑いに転じさせている節も見られる。「幸せの女神ってのは、後ろハゲなんだ」「はぁ? 変なヘアスタイル...」という会話がそれだ。ちなみに、これはギャグに聞こえるが、そういう逸話(カイロスというギリシア神話の「男神」がモデルとされる)自体は存在する。つまり、すれ違うときしか髪の毛を掴んで捕まえるチャンスはないということである。

 冒頭、早輝の寝癖を慰めようと思って言った言葉が「メットオンしちまえば分からない」だった。早輝の主体がゴーオンイエローではなく楼山早輝であることへの配慮を欠いた発言だろう。しかしながら、この何とも言えない無神経さが走輔の魅力であることも間違いない。ちなみに前述と重複するが、メットオンは非常に効果的で、このような言葉の端々にあっても小道具として機能し、スピーカーバンキの音波対策として耳栓(ちゃんと5色!)をつける際にメットオフ/メットオンをすることで、変身を解くまでに至らずに済み、また耳栓をするという説得力のある行動を視覚的に描写できるという利点を見せていた。

 そこから後は、完全に走輔の暴走となる。「マッハで」という口癖が示すとおり、思考もマッハで結論を急ぐタイプであるらしい。軍平のスパイ映画並の読唇術(「警察学校では当たり前」と言っていたが、恐らくそんなことはない)から得られる断片的な情報に、走輔が先入観過多な脚色を施し、早輝と征爾が互いに好意を抱いているという風に勘違いしてしまうのだ。軍平がその「お話」に巻き込まれて徐々に納得してしまうのも実に可笑しい。走輔と軍平はなかなかいいコンビだ。

その間も、早輝のボーイフレンドの存在にやきもきしたり、自分の眼鏡にかなう者かどうか見極めると言い出したり、逆に早輝の青春を縛るのは良くないと結論を急いだりと、実に慌しい。だが、そこに走輔の意外な面を見ることが出来る。走輔は早輝の「お節介な兄貴」として振舞っているのだ。古式ゆかしき家族コメディではないか。早輝に好意があり、嫉妬するというパターンになるのが普通の感覚だが、意図的に廃されているのが見て取れる。どうやら、ゴーオンジャー内部には(外部にも)恋愛等という面倒なファクターが存在しないようだ。高年齢層には物足りないかも知れないが、王道を突っ走るには非常に都合がいいことも確かだ。しかも、今回のような勘違いだけで進行するエピソードなどというアクロバティックなストーリー展開も可能たらしめているのだ。

 巨大戦ではエンジンオーガンパードが登場。早輝編でありながら、戦略的にガンパードでなければならない理由もしっかりと織り込まれていた上(エンジンオーに飛び道具がない)、軍平自身も走輔に踊らされつつコミカルな役割を演じて目立っていた為、まるで違和感を感じさせない構成だ。また、ガンパードガンの銃口をエンジンオーが吹く際、CGによって口を尖らせる描写が目を引く。コミカルだが実にカッコいい。なお、巨大戦では他に目を引くような特撮はなかったものの、スピーカーバンキがパワーアップした後の都市破壊シーンは、実景との合成やバンクカットが非常に効果的に使われており、見所の一つとなっていた。

 スピーカーバンキが登場したことから、征爾のフルートの音色を取り戻すというストーリーになるかと思われたが、この発想も古いパターンにとらわれている。実際の本編ではスピーカーバンキは単に早輝と征爾の出会いのキッカケを作ったに過ぎず、しかも征爾によって弱点を見抜かれるという不運なキャラクターだ。こんなところにもパロディ精神は健在。スピーカーバンキの声はベテランの二又一成氏が担当し、その円熟したトボけぶりを発揮した。今シリーズの怪人声優にも是非注目していかなければならない。