第9話「獅子、走る」

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 現在も多くのファンを持つ「百獣戦隊ガオレンジャー」。今回は、その「ガオレンジャー」より、ガオレッド=獅子走が登場です。

 「ガオレンジャー」と言えば、「ダイレンジャー」と並んで、やたらテンションの高い戦隊というイメージがあります。前作「タイムレンジャー」のクールで難解なSFテイストを180度転換し、ファンタジー戦隊の極みたるパワーアニマルの存在と、数々の戦隊アクションを随所に取り入れた「集大成」の趣で、非常に斬新かつ王道なシリーズを展開しました。

 実は、私は「ガオレンジャー」のテンションになかなか乗り切れず、また、パワーアニマルの裏から漂ってくる商売っ気の匂いに納得出来ないクチでした。しかし、狼鬼=ガオシルバーが出てきた辺りから大化けし、むしろ新しいパワーアニマルが出る毎に、興奮の坩堝へと叩き落とされる事になりました(笑)。「ガオレンジャー VS スーパー戦隊」で宮内洋さんが出演された時点で完全ノックアウトでしたね(違うか)。

 今回登場した獅子走は、本来の職業である獣医師として登場。開業医としてすっかり落ち着いた様子を見せており、当時のテンションの片鱗は、わずかにクライマックスでの「あいつら、口が悪ぃんだよ」というセリフに垣間見える程度。

 「俺は獣医だ」という定番のセリフも、当時の自分に檄を飛ばすような叫びではなく、あくまで自己紹介程度にとどめていて、金子昇さんの現在の年齢に合わせたキャラクター作りがなされているように思います。

 したがって、今回を「熱い(暑い?)ガオレンジャーの続編」として見ると、肩透かしを食らいます。獅子走は熱く導く先輩ではなく、見守る先輩の系統として登場したわけで、あまりマーベラスとも絡みません。

 これを良いと見るか物足りないと見るかで、今回の評価は随分と変わってきます。また、これまでの先輩ゲスト編と、かなり違う方向性だった為、戸惑いを覚えた方も多かったのでは。

 続きの方では、その辺りを読み解いてみたいと思います。


 今回の特徴は、デカレンジャー編と同様に、海賊戦隊のポリシーを再確認しているという点でしょう。「やりたいようにやっている」ゴーカイジャーですが、その本質は地球を守るスーパー戦隊の魂の持ち主であるという、ある意味漠然とした概念です。

 デカレンジャー編は、あえて刑事ドラマ風の味付けを施したことで、「デカレンジャー」の持ち味を再現したエピソードでしたが、今回には、これぞ「ガオレンジャー」といった雰囲気はありません。天空島も登場しますが、ロケーションがちょっと安直で、日本の林と区別が付け難く、天空島で起こっている出来事という印象が弱かったようで、残念です。

 さて、「海賊戦隊のポリシーの再確認」を、最も体現しているのは、実は獅子走その人でしょう。

 先輩ゲストである走は、当初は海賊の批判者として登場しており、それ以降、マーベラスとは全く絡むことなく、しかも絡んだハカセとアイムに、逆にマーベラス達のポリシーらしきものを教わるといった役どころでした。これが何を意味しているかと言うと、アイムの足の怪我を手当する以外、ゴーカイジャー達に物理的にも精神的にも、何の影響も与えないキャラだったということです。

 つまり、走は居ても居なくても、実はゴーカイジャーの体勢に殆ど関係ないキャラなのです。故に、今回はこれまでの先輩ゲスト編でも、特異な構造を持っていると言えるでしょう。敢えて形容するなら、「大物のカメオ出演」に近いと思います。

 そして、ストーリー自体も、実は著しくテーマ的に空疎であり、状況の進行こそが醍醐味という、往年の傑作アメリカTVドラマ、「スパイ大作戦」のようなテイストを持っています。「大いなる力」を手に入れる為の、メンタルおよびフィジカルな強化も特になく、いつも通りの戦いを淡々とこなしていく様子は、彼等が海賊稼業のプロフェッショナルという雰囲気を醸し出しており、多少ザンギャック側に作戦変更というアクシデントがあっても、それを余裕で処理していくカッコ良さに溢れています。

 こういった、状況の進行を追跡することでドラマを成立させる手法は、初期戦隊で特に見られたもので、初期戦隊があまり敵に対して苦戦しないのは、この手法が基本だったからです。勿論、メンバー個々人や周囲の人々の感情がふんだんに描かれるエピソードもありますが、大抵は起こった事件にどう対処するかを見せています。

 思うのですが、この「テーマ的な空疎さ」のおかげで、近年それなりに多い「重いドラマ」の呪縛から、逃れられているのではないでしょうか。だから、「ゴーカイジャー」は手放しでお祭り騒ぎを楽しめるし、それでいて、シリーズとしての整合性には非常に気を使っているので、視聴者に妙な引っ掛かりを抱かせないようになっていると思います。

 例えば、今回は敵内部の不穏な空気を描いています。この不穏な空気は、普通ならば敵内部抗争の先鞭という発想になると思いますが、何と完全に別の事柄に利用されてしまいます。それは、いきなり「ザンギャックによるお宝の先回り」の芽を摘んだ事。つまり、作劇上の足枷設定になりそうなものを、巧く排除してしまったわけです。シリーズの自由度とストーリーの折り合いをつけていく様子は、全くもってスリリングでいいですね。

 話が脱線しましたが、では何の為に獅子走は出てきたのか。

 まず一つは、先輩から見て、海賊戦隊が「スーパー戦隊」である事を、納得する作業だったという事。

 同種の「記念作」である「ガオレンジャー」を引っ張り出す事で、その作業をより色濃いものにしていると言えるでしょう。クライマックスでは、走の目前でガオレンジャーへの豪快チェンジが行われるわけですが、「あいつら、口が悪ぃんだよ」という、当時を彷彿させる「口の悪さ」を披露する事で、彼等を「力の後継者」として認めたように見える仕掛けになっています。

 もう一つは、ガオライオンの使徒は彼以外にあり得ないという事。

 いわゆる「力を授ける先輩」の役割は、ガオライオンが担っていました。当時とはやや形態が異なるものの、巨大な赤いライオンは正にガオライオンであり、その使徒はガオレッドである走のみです。ひとつの解釈として、ガオライオンと走の意志は、常に通じ合っていると考えられ、走がマーベラス達の戦う様子を見て、「お宝だけ見ている連中」ではないと認識したからこそ、ガオライオンは力を貸す気になったのだと言えそうです。

 前段までで、走は関係ないキャラだと述べてきましたが、それは表面上の話であり、実はガオライオンの預言者たる立場ということになれば、これはこれで正に「ガオレンジャー」の世界なんですよ。

 いわば、獅子走は、今回登場する事のなかった、テトムの後継者として登場したわけですね!
 では、この辺りで豪快チェンジについてまとめておきましょう。

 まず登場したのは、ターボレンジャー。

 変身シーンでターポマシンが飛んでくる様子が再現されており、随所に車の効果音が入る辺り、ツボでした。「部活的」だったターボレンジャーの「コンビネーションアタック」がパワーアップしており、良いチームワークを見せてくれます。タワーでハカセが足をプルプルさせているのが笑えますね。豪快チェンジがその戦隊そのものになる訳ではないのが、良く分かるシーンです。なお、スピード戦法は、どちらかというとゴーオンジャーっぽかったというのが、私の感想。モチーフが似通ってくると、どうしても現代における描写が類似してしまうのは、仕方ない事ですね。

 続いての登場は、ジェットマン。

 天空島からの落下の際、パラシュート代わりに使用するという、適材適所な選択が嬉しい処。印象的な、輪になったスクラムによるダイビングが再現されていて、これまた嬉しい限り(これはむしろ、ガッチャマン的かな?)。しかも、当時でもあまりお目にかかれなかった「空中戦」をやってしまうのです。今の技術でブラッシュアップするという方針、なかなかいい感じだと思います。

 そして、真打はガオレンジャー。

 当時の変身シーンの再現、書き文字のインサート、主題歌インスト...どれも燃えまくりの展開。ここまで出来るのに、どうしてゲキレンジャー編は、あんな軽い扱いになったのか不思議ですな。

 面白いのは、これだけ盛り上がっているにも関わらず、これが「大いなる力」を手に入れる前だという事。しかも、破邪百獣剣まで登場するサービスっぷり。この事から、必ずしも必殺技に「大いなる力」が必要なわけではなく、「大いなる力」を手にする資格さえあれば、その戦隊の力を引き出せるという事が分かりました。

 ちなみに、ガオレッドだけは、ちゃんと「爪」があったように見えたのですが...気のせい?

 ゴーカイジャーとしてのアクションは、楽しみながらシビアな事をやっているという雰囲気が抜群。淡々と戦闘をこなすという感覚が、見事に反映されていたと思います。ハカセは、相変わらずコミカルな動きで楽しませてくれますね。そういえば、戦いの最中、ジョーは気付けば「フン」しか言ってなかったり(笑)。

 巨大戦では、巨大バイクという珍しい趣向が登場。そして、現代のCG技術で登場したガオライオンは、素晴らしい迫力とファンタジーとしての表現を兼ね備えていました。当時のガオライオンの光沢というか、ある種の「CGらしさ」を残しているのがポイントだと思います。ガオゴーカイオーは、パーンサロイドか、大馬神か、ガオケンタウロスか(笑)! これまでハッチオープンによる形態変化を重視してましたが、このガオゴーカイオーにより、合体バリエーションが広がったのではないでしょうか。

 キャラ描写にも触れておくと、何と言ってもアイムの怪我に萌えます(笑)。そして、ルカが「そんな事言ってる場合!?」とジョーを蹴る蛮行を見せるなど、一層のお転婆ぶりを発揮していて素晴らしい。

 そうそう、話は前後しますが、マーベラス、ジョー、ルカの三人と、ハカセ、アイムの二人で、何となくグループが出来ていますね。戦闘要員と先輩ゲストとの折衝要員? 何となくそんな感じになっています。面白いのは、赤、青、黄という、ほぼ動かない三色を戦闘要員としている事。つまり、豪快チェンジが違和感なくスムーズに出来るメンバーなんですよね。黄色は時々白担当になったりしますが...。なかなか巧いと思います。ハカセとアイムは、まだ海賊として一人前ではないという設定なので、先輩ゲストと絡ませやすいのもありますね。

 それと、公式サイトによれば、現場にガオブラック=牛込草太郎こと酒井一圭さんが遊びに来ていたとの事。残念ながらカメオ出演とまではいかなかったようですが、相変わらず、当時のキャスト陣はチームワークが良いようです。実に微笑ましいですね。