第36話「相棒カイゾク」

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 ゴーオンジャー編の後編です。

 正直な処、前編に比べて「ゴーオンジャー」的な面白さは減っていると思います。走輔のギャグ、例えば鎧の名前を適当に呼んでいるとか、マッハルコンの説得シーンだとかは面白いんだけども、何となく「ゴーオンジャー」っぽくないというか。

 走輔自体は元々、ボケ役を演じる事はあっても、意外と理性的なキャラクターという印象があり、その場のノリで、ある事ない事を喋りまくるような面は持ち併せておらず、今回のマッハルコン説得のシーンは、やや本来のキャラクターから乖離していたような印象があります。

 ただ、前後編をザッと見渡してみると、前編が「ゴーカイジャー」の世界からの断絶を描き、後編が文字通りその断絶を打ち破るお話なので、「ゴーオンジャー」的な面白さが減っていて当たり前なわけですな。

 それよりも、今回の見所は「ミニチュアを駆使した特撮」。これに尽きる!

 という事で、今回はその辺りを。


 炎神マッハルコン。スピードルとベアールVの息子であり、現在は反抗期真っ只中だそうで。

 マッハルコンの両親であるスピードルとベアールVがクローズアップされていた為、バスオンの出番があまりなかったのは、ちょっと可哀想ですが、今回も炎神に関する描写は「活写」という言葉が似合う、良いものでしたね。

 マッハルコンは、当然ゴーカイオーとの合体システムを前提に設計されており、炎神としてはかなり巨大な部類に入るのですが、そのデザインは合体前提である事を極力感じさせない、流麗なレーシングスタイルになっており、非常に好感の持てる物に仕上がっています。また、劇中の描写も、他の炎神達のイメージと乖離しないよう、「ゴーオンジャー」当時の特撮の空気感や、大袈裟でキュートな操演、CGによる目の演技等、やれる事は全てやったという姿勢が素晴らしい。今回の白眉は、正にこの「演技」だったと言っても過言ではありません。

 思えば、「ゴーオンジャー」がとても楽しい作品になったのは、炎神達がCG一辺倒ではなく、操演による「演技」に彩られていたからでしょう。巨大化状態とキャスト状態で二種類のミニチュアが用意され(キャスト状態は、確か野中剛さんがトイに手を加えたものだったという記憶が...)、それぞれが「演技」する様子は、往年の「不思議コメディシリーズ」の手法を彷彿させ、ガイアークとの仁義なき(お笑い)戦争の中にあって、暖かみのあるシーンとして強く印象に残っているわけです。

 今回のマッハルコンは、主にマシンワールドでの爆走シーンと、自身の非行を反省するシーン、そしてゴーオンゴーカイオーのシーンとに大別出来るわけですが、まずは爆走シーンの方に目を向けてみましょう。

 この爆走シーン、それ程広くないセットの中で、ずっとサーキットが続いているかのような描写が生み出されているものと思われます。マシンワールドは、結構建造物が密な世界観であり、それ故にどうしても手狭な印象になってしまうのですが、爆走シーンでは、ほぼ常に画面が動いている事もあって、手狭感がかなり低減されている事に気付きます。

 また今回、ガレオンが空爆(!)を行うという「縦方向」への空間の展開があったので、単に爆走して逃げまわるという単調な画面にならなかったのもズバリ正解。ガレオン内部のゴーカイレッドのシーンにも推移する等、カット割りで回せるシーンの選択肢も多い為、非常に立体的でスリリングな画面作りになっていました。

 そして、このガレオンによる追撃シーンでは、殆ど合体の為だけに存在しているゾロメカだと言っても過言ではない扱いだった、ゴーカイマシンの活躍が存分に描写されているという、第36話にして破格の扱いを受けている事にも注目。

 戦隊の合体メカは、「サンバルカン」より登場していましたが、極端な話、「タイムレンジャー」辺りまで、大体特撮パートのバンク撮影を兼ねている1〜4話あたりが特撮描写のピークであり、合体メカが活躍するのは、殆どその初期編のみといった状況でした。故に、巨大戦が本編班に統合される5話辺りからは、合体メカ単体が活躍するシーンは殆ど見られなくなります。

 現在(特に「ガオレンジャー」以降)では、巨大戦に関わる新メカ(あるいは新キャラ)のサイクルが、商品の発売サイクルと密接に関係している為、特撮の比重が非常に高くなっており、必ずしもこの法則には当てはまらなくなりましたが、それでも、1号ロボの合体メカの扱いに関しては、それ程変わっていないのではないかと思います。「ゴーカイジャー」も例外ではありません。

 唯一と言って良い例外が、「ゴーオンジャー」の炎神です。炎神はトイが炎神キャストのプロップと同じ物(!)なので、その実在感が突出しており、劇中でもミニチュアによる各炎神の活躍が頻繁に描かれました。他の作品でも、合体メカが生物等意思を持つものである場合、それらをキャラクターとして描写する事はありましたが、概ねCGによる表現であり、しかも、戦闘描写は「ゴーオンジャー」程多くはなかったという印象があります。それ程、「ゴーオンジャー」の炎神は活躍頻度が高かったわけです。印象なのでバイアスかかってるかも知れませんが。

 今回は、意図的なものなのか、それとも偶然そうなったのか、ゴーカイマシンの大活躍が見られたわけで、これは正に「ゴーオンジャー」というシリーズの特徴に倣った趣向となりましたね。アイムの駆るゴーカイマリンは潜水艦なので微妙ですが、他のゴーカイマシンはそれぞれの特徴に沿った活躍をしていて、満足度が非常に高かったです。マッハルコンも、爆撃をくぐり抜ける描写がスリリングで、飛行シーンに移る際も、変形のスムーズさ、スピード感が素晴らしかったですね。バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンを彷彿とさせる飛行シーンでした。

 続いて、反省シーンですが、ここでは、前述のような「炎神の芝居」が完璧に再現されていました。レーシングスタイルで、かなり鋭角的な印象のあるマッハルコンですが、このシーンでは大袈裟に前輪をバタバタさせて、可愛いことこの上ない。どちらかと言えば、「ゴーオンジャー」の炎神はコンパクトにまとまっている印象があり、マッハルコンには、「いかにも炎神」といった印象がないのですが、このシーンですっかり炎神になっていましたね。

 そして、ゴーオンゴーカイオー。私はこの登場シーンに完全に心奪われました。と言っても、巨大な炎神キャストに巨大な炎神ソウルをセットするという、殆どギャグとしか思えないシーンにではありません(笑)。

 私が心奪われたのは、ゴーオンゴーカイオー合体後の描写。

 あるカットでは、ゴーカイオーの上半身だけを映すという手法を用いていましたが、これは常套手段で新味はありません。また、前景にマッハルコンを置いて、遠近法で合体しているように見せるという手法を用いたシーンもありましたが、こちらも割と常套手段として用いられるテクニックでした。

 真に凄いのは、ゴーオンゴーカイオー全体を造形したミニチュア。

 よーく見ると、スーツのゴーカイオーとは若干異なるディテールを有する、ゴーカイオーの膝から上のミニチュアが、ちゃんとマッハルコンの上に乗っています。これだけならば、そう驚く事もないのですが、このミニチュアが「演技」するんです!

 二刀流をクロスさせたり、そのポーズから両手を広げたり、斜に構えた決めポーズをしたり。CGでの表現力がかなり増した現在において、これをミニチュアで、しかも見る限りワイヤーによる操演ではなく、モーター制御による操演だろうという手間の掛けよう。もう嬉し過ぎましたね。最近は、大多数の特撮ファンが、ウルトラでメカの「手触り」を得られなくなったので、CG全盛時代におけるミニチュア特撮の衰退に寂寥感を抱いていたものと思いますが、今回はミニチュア特撮の面目躍如と言ってもいいのではないでしょうか。戦隊の巨大戦は、侮れないのです。

 ストーリーについて、全く触れてませんね...(笑)。ザンギャック VS ガイアークとか、熱い走輔とか、見所は多いのですが、ミニチュア特撮万歳した後で、私はすっかり失速しました。

 最後に、豪快チェンジについて。今回はシンプルにゴーオンジャー一点のみ。主題歌インストが燃えました。そして、個人武器、肉弾戦のスローモーション処理等、そのアクションの完成度は、オリジナルをも超えるものでした。そんな中、完璧に「海賊版」していたのは、鎧がチェンジしたゴーオンウイングス。しかし、それがギャグにならず、逆に二刀流のロケットダガーを駆使した空中アクロバットが爽快感を演出していましたね。

 次回は、ワルズ・ギル閣下にスポットが当たるようで。「ゴーオンジャー」熱に浮かされた後ですが、期待度は最高。楽しみです。