第33話「ヒーローだァァッ!!」

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 最初にお断りしておきますが、私は「ゴーカイジャー」の劇場版をまだ一本も見ておりません。したがって、天火星・亮が劇場版にどのような登場をして、どのような言動を披露したのかは、殆ど知りません。

 ただ、劇場版に和田圭市さんが出演されたとは聞き及びました。よって、テレビ出演の方は殆ど諦めていたのですが、まさかこんなにもサービスしてくれるとは!

 前例として、ボウケンレッド=明石暁が劇場版とテレビ版両方に客演するという事はあったのですが、天火星・亮は劇場版において、念願の中華料理屋を開いているという設定を伴い、ゲスト陣の中では露出の多いキャラクターだったようなので、テレビ版はないかな...と思っていたわけです。

 その予想を見事に裏切り、強烈なインパクトと共に登場したリュウレンジャー=天火星・亮。これまでの先輩ゲストの面々も、殆どがアクションレスポンスの良さを披露してくれましたが、今回は論外というか規格外。「ダイレンジャー」当時どころではない凄さ。これは、和田圭市さんが、アクションに対する情熱を維持し続け、トレーニングを怠ることなく継続されてきた事が大きいです。正に、歴代戦隊の中でもヒーロー中のヒーロー。今回の題材に相応しい人物です。個人的には、宮内洋さんに比肩し得る人物ではないかと思っている処でございます。

 私、「ダイレンジャー」の大ファンなので、かなり私情が入ると思いますが...続きの方で見所を折ってみようと思います。


 今回は、鎧が変身機能を失い、自信と共に信念まで失いかけるという、かなりヘヴィなテーマ。しかし、鎧独特のハジけたキャラクター性と、亮の明るく前向きな強さが全体のムードを支配しており、画面からは重苦しい雰囲気は漂って来ません。

 変身不能というシチュエーションは、「ウルトラマン」の昔から何度も導入されているものであり、ストーリーはかなり類型化していますが、大別すると、変身能力を失って落ち込むか、あるいは変身能力を必死で取り戻す過程自体がドラマになるかという、どちらかになると思います。また、変身能力自体が、主人公のメンタルな部分と密接に関連していて、メンタル面の改善がなければ変身能力が戻らないというシチュエーションも多用されます。

 今回の鎧は、パターン的に「変身能力を失って落ち込む」というもの。いつの間にかゴーカイシルバーへの変身能力が自分のアイデンティティと化してしまった(つまり、手段が主体化してしまった)鎧は、その能力を失うと同時に自失状態になってしまうわけです。

 ある意味これは、「変身こそがヒーローたる所以」という、「仮面ライダー」以来の日本のヒーロー像を、見つめ直してみるという視点です。はっきりと断言してしまいますが、「変身こそがヒーローたる所以」です。「仮面ライダー」はそれへのアンチテーゼとして、滝和也というキャラクターを配置し、生身のヒーローを成功させましたが、後続の同系統に成功したものは存在しません。辛うじて、「クウガ」の一条薫あたりが面目を保っていますが、その後の「生身のヒーロー」の大多数は、遅かれ早かれ「変身してしまう」展開に飲み込まれている事に注目しなければなりません。他社では、「アイアンキング」や「ザボーガー」といった成功作もありますけど、あれは「変身しない人物が主人公」であり、主人公とは別の生身のヒーローが成立しているわけではないと思います。

 そういった不文律の中で、変身しないヒーローのカッコ良さを描くとしたら...。「ダイレンジャー」の終盤は、それに果敢に挑戦した作品でした。

 勿論、変身しないヒーローを素面のメンバー達と捉えれば、カッコ良くないなんて事はありませんし、生身のアクションに長けたキャストも数多く存在していましたから、そのままヒーローとして充分通用します。しかし、それは「変身前」という肩書き付き。やはり、「変身後」こそがクライマックスを担う。そこは外せないわけです。

 ところが、「ダイレンジャー」は生身のまま、ヒーローのお約束を数多く取り入れて、「変身前」が「変身後」を演じてしまいました。変身出来ないシチュエーションを逆手にとって、素面での名乗りポーズから、あまりに要求度の高い激しいアクションまでをも展開させ、当時の視聴者の度肝を抜いたわけです(その後、「変身後」がシリーズのクライマックスを担う事にはなりましたが)。

 この演出は好評で、その後もかなりのフォロワーが登場しましたが、実はその中でも「ダイレンジャー」が特別なのには、理由があります。それは、名乗りポーズの難易度が半端無く高い事。当時、私も出来る限りコピーしようとして、それはある程度達成出来たのですが(当時は柔軟性があったので・笑)、どのポーズも非常に難しい。スーツアクター諸氏が中国武術に長けるメンバーだった事もあり、手足の運び方がそれぞれ曲線を描き、キメのポイントに至るまでが高速、重心をわざとずらしてダイナミズムを生む等、本当に難しいのです。当時、素面名乗りが完璧だったのを見て、感動を超えて戦慄した覚えがあります。

 今回の天火星・亮と鎧の一幕は、この「ダイレンジャー」終盤を意識したものである事は間違いないです。それほど、制作側にとってもインパクトのある演出だったわけですよね。第一、今回のテーマは「ヒーローとは、皆を守ると心に決めた存在」という事であり、果てしなくダイ族とゴーマ族の戦いが続いていく様を描き、「戦いは永劫」というテーマを貫いた「ダイレンジャー」とは、かなり違うものです。「生身であってもゴーマと果敢に戦った」事を、今回のテーマに拡大解釈して導入したのが、今回なのです。ちなみに、亮が餃子作りに励むのは、「自分に今出来る事をする」という、ゴーカイジャーのポリシーの確認でもありましたね。

 それにしても、和田圭市さんと池田純矢さんのアクション、凄かったですね〜。

 池田さんのアクションのポテンシャルは、既に何度も披露されていて、今回も納得の完成度でした。バック転からの後ろ回し蹴り等、得意技が炸裂してましたね。ヒーロー大好きなのは、劇中の鎧のみならず池田さんも同様との事で、次代を担うアクション俳優として、地位を確立して欲しい処ですね。

 そして、和田さん自身も、そして池田さんも(?)待ちに待った、和田圭市流アクションが炸裂!

 もうね、素面名乗りを完全再現しちゃったのがね、呆然とする程カッコ良くってね。「目の前の敵を見逃すほど、俺は年を取っちゃいないぜ!」って、もう...。ジーンと来てしまいましたよ。何で和田さんはこんなにカッコいいんだろうと。

 その後、ゴーミン相手に赤龍拳、獅子拳、天馬拳炸裂。それぞれにリュウレンジャー達のイメージがダブるという演出も素晴らしく、亮がゴーマ打倒後も、鍛錬を重ねていたという事実を、身を以て示す(つまり戦いは終わらない)素晴らしいアクションでした。麒麟拳と鳳凰拳は披露していないように見えますが、細かい拳の動き等に取り入れられているので、スロー再生が可能な方は、チェックしてみて下さい。

 この和田さんのアクションが巧く鎧に作用し、鎧自身も素面名乗りを披露してしまいました。しかも、変身後より数段難易度の高いポーズを...。これは熱くさせてくれましたね。

 うん、和田さん、池田さん、あなた方は本当のヒーローだァァッ!!

 そしてそろそろこの辺で、大葉健二さんのアクションを熱望だァァッ(笑)!!

 さて、ここらでクールダウンいたしまして、豪快チェンジをまとめようと思います。

 まずは、序盤でガオレンジャーへ。ガオシルバーも含めたフルチェンジとなり、半ば定番化したガオレンジャーへのチェンジらしく、完成度、安定感共に鉄板の出来でした。鎧が怪我からの完全復活を果たした(要するに時間的に前回の数日後)とあって、ガオシルバーのままはしゃぐ辺りがいい感じです。このはしゃぎっぷりが油断にも見える事で、ゴーカイセルラーをザキュラに奪われるくだりへの、良い繋ぎになっていますね。

 クライマックスでは、ダイレンジャーの前に同じ拳法繋がりであるゲキレンジャーにチェンジ。前回で使い方に熟練したのか、今回はより効果的に攻撃をヒットさせるといった演出になり、「激気注入」も的確に使われていました。

 そして、真打は当然ダイレンジャー。名乗りは結構適当でしたが(笑)、主題歌インストが熱い!

 ダイレンジャーは個人武器も登場。しかし、オリジナルとは異なる個人武器だったのが、個人的に凄く気になりました。中国武術縁の武器だったので、イメージとしては外れていませんが、獅子棍棒や天馬ヌンチャクは見てみたかったですねー。

 最後は、まさかのダイレンロッド。夕陽のライティングと合成が美しい「場」を創りだしていましたね。「ダイレンジャー」には、こういった「場」の演出がよく似合います。キバレンジャーも「吼新星乱れやまびこ」を披露。ただし、これはオリジナルとは全く異なり、技名から拡大解釈したものとなっています。

 以上、ダイレンジャーの豪快チェンジは、不徹底な部分が多々あるものでしたが、敢えてオリジナルである亮のアクションと差別化する事を狙ったのではないでしょうか。私はリスペクト精神の現れだと解釈しました。

 巨大戦では、ダイレンジャーの大いなる力が登場。「ゴーカイ豪獣気力ボンバー」なる技でしたが、ちょっとインパクトは薄かったような気がします。

 というわけで、「ダイレンジャー」ファンとしては、超満足。「先輩ゲスト編」が云々といった論旨を、全く以て忘れてしまう程燃えてしまいました。

 最後に、小ネタを少々。

 亮の「赤龍軒」という店名は、勿論リュウレンジャーの使う拳法「赤龍拳」から。商店街の面々は、新堀和男さん、ショッカーO野さん、神尾直子さんという、長年の戦隊ファンなら一発で分かる面々。O野さん、とんぼ返りしてましたね〜。流石です。「亀尾商店街」という名前は、「ダイレンジャー」に登場した「亀夫」から。

 また、今回は「ダイレンジャー」の最終回からは直結しておらず、一旦、最終回エピローグ前から今回を経て、最終回エピローグに至るという流れを想像する必要があります。何故なら、「ダイレンジャー」最終回のエピローグは、50年後の話だから...。