第19話「15戦士の鎧」

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 ハカセと鎧を絡ませてきたわけですが、非常に完成度が高いエピソードでした。

 あまりにも凄い新人と、あんまりパッとしない先輩という組み合わせは、様々なドラマでありがちなシチュエーションですが、スーパー戦隊シリーズで導入される事は殆ど無く、新鮮に映りました。

 こういうシチュエーションをお膳立て出来るのは、ハカセという存在ならではだし、ハカセという存在を許す「ゴーカイジャー」というコンテンツならではである事に、異存はないと思います。やはり、ハカセの存在は「ゴーカイジャー」の特殊性を際立たせているのではないでしょうか。

 前々回より、鎧をメインに据えて「追加戦士登場編」を展開しているわけですが、都合三話目となった今回は、鎧をメインとしつつもハカセを全面的にフィーチュアする事で、追加戦士である鎧が必要以上に浮いてしまうのを防いでいます。しかも、ハカセを絡ませるのがいい! このセンスは評価すべきです。

 今回の目玉は、サブタイトル通り「15戦士の鎧」を纏った、ゴーカイシルバー・ゴールドモードの登場でしょう。ディケイド・コンプリートフォームの成功(?)を受け、さながら「キン肉マン」のネプチューンマン自慢のマスクコレクションのようになってますが(古っ)、これはこれでメインターゲットである児童へのアピール度は抜群。しかも、ディケイド・コンプリートフォームと比べて、出し方が非常に巧い。前振りとして、しっかりゴーオンウイングス・あしゅら男爵モード(笑)を出し、そこでギャグ的な処理を採用した事で、ゴールドモードがギャグでなくなっているんですよね。これはホントに巧いです。

 例によって、あまり書く時間もないので、短めになってしまいますが、続きの方をどうぞ。


 鎧の能力、かなり凄いんですね〜。

 鎧のキャラクター造形というか、凄さというのは、追加戦士が強いという事だけでは語れない部分があります。というのも、殆どの追加戦士が、既存のレギュラーと元々同じ土俵に立つ事の出来る「人材」であるのに対し、鎧はマーベラス達とは出自も人種も何もかも異なる人物であり、そもそも土俵が違います。

 自分で考えてちょっと笑ってしまった部分なのですが、特撮TVドラマを長く嗜んでいると、ヒューマノイド型宇宙人は、地球人より体力や知力に秀でているという暗黙の了解に、知らず知らず足を突っ込んでいる事になります。つまり、この「ゴーカイジャー」でも、マーベラス達「宇宙人」は、知力は別としても、地球人より体力に優れた人種だというイメージがあるのです。実際にそういった描写もあるにはあるのですが、前作「ゴセイジャー」程明確でもない。要するに愛すべき曖昧さですね。

 仮にその「足を突っ込んだ」状態が正しいとした時に、鎧は地球人なのに強いし、マーベラス達にない能力を持っているという事実を、どう解釈すればいいのでしょうか。

 この解釈を助けるキャラクターが、過去に登場しています。それは「シンケンジャー」の源太。源太は侍である正規メンバーとは違う土俵にいながらも、努力によって侍を凌駕する知力・体力を身につけた「凄いヤツ」です。鎧には、この源太のエッセンスが強く感じられます。

 つまり、鎧の戦力的な強さは、彼の「スーパー戦隊になりたい」という努力から生じたもので、血統や種族といった垣根をヒョイと超えてみせる強さでもあるわけです。前回では、素面アクションでゴーミンに苦戦していたりといった描写もありましたが、今回はジョーとの手合わせでいい処を見せる等、早くも成長しています。元々のセンスも卓抜していたと言えますが、芯の部分は「努力家」なんですよね、やはり。

 次に、レンジャーキーをイメージによって融合させるという、鎧ならではの能力ですが、これは鎧の特殊能力というより、元々レンジャーキーが「力」の凝固した物体である故に、人の強いイマジネーションに左右される事は充分にあり得る話という風に解釈します。それが地球人なら尚更だと感じられる処も、巧いと思います。

 ここで鎧が真に優れているのは、「至高のスーパー戦隊愛」がもたらすイマジネーションの豊かさと、そもそもレンジャーキー自体が希求しているかも知れない「正義の心」の巨大さ、そして、一癖も二癖もある追加戦士達の力を一つにまとめてみせる程の、純粋さと誠実さ...。そういった処だと思います。そして、この純粋さも源太にオリジンを求められます。

 そんな鎧の純粋さを際立たせるのが、今回のハカセの役割です。

 ゴーカイジャーの中で最も戦闘能力の低い自分をよく分かっている、「ドンさん」ことハカセは、そんな自分の後に入ってきた、いわば「後輩」である鎧が、自分よりあらゆる面で優れていて、チヤホヤされているのが我慢出来ないという、実に分かりやすい心情を抱いているわけです。私は、この「分かりやすさ」も「ゴーカイジャー」の美点だと思っているのですが、分かりやすいが故に、典型に陥りやすく、逆に扱いが難しいという事も指摘出来るわけです。そういった面で、本エピソードが典型脱却を狙っている部分を注視してみると、それがそのまま鎧の特徴を浮き彫りにしている事に気付きます。

 例えば、調理の能力より細やかな配慮という面でハカセに分があるとか、鎧のイメージ能力を、ハカセは俯瞰的に捉えて説明しなおす事が出来るとか、鎧の為の時間稼ぎを、ハカセ一人が豪快チェンジを駆使して完遂するとか。

 料理の話は、鎧が配慮に欠けた人物であるという事は全く無く、むしろ配慮という面を差し引いてもハカセより腕がいい事が示されています。この件のいい処は、ハカセの配慮の細やかさを、鎧が手放しで褒め讃えている処でしょう。ここで浮かび上がってくる鎧の特徴は、自分の能力を決して鼻にかけることはないと言う事。そして、他人の優れた処を素直に賞賛し尊敬するという事でしょう。実にいいヤツだ...。

 イメージ能力に関するハカセの指南の件では、鎧がやはりまだ「海賊見習い」のポジションにある事を示します。導く者としてのハカセの存在は頼もしく、ここでは先輩と後輩の関係性が、より明確になっています。それは、鎧の為に時間稼ぎをするハカセの姿にもかなり投影されていますね。

 エピローグでは、鎧にかけられた賞金の額が、ハカセを悠々と追い越しているという描写があって笑いを誘いますが、その事がハカセと鎧の「先輩後輩」の関係に影響する事はもうないだろうし、二人の絆を一話分かけてじっくり描いたのは、非常に効果的だったと感じます。

 さて、このあたりで豪快チェンジについてまとめておきましょう。

 鎧の能力発露のきっかけとなったのは、ゴーオンジャーへのチェンジ。マーベラス達は既にゴーオンジャーへのチェンジを経験しているので、順当にチェンジしていきましたが、ゴーオンジャーはレギュラーの追加戦士が兄妹二人という変則的な編成だったので、鎧が迷いに迷った挙句、金銀が左右合体(懐かしい)した状態の「ゴーオンウイング」を生み出し、強引にチェンジしてしまいます。「ゴーオンジャー」は元々ギャグ色の強いシリーズだったので、このようなギャグ的な処理をされていても、特に違和感がありません。そればかりか、このゴーオンウイング、ジェット気流を噴出しながらの高速滑空が実にカッコ良く、せっかくスーツ作ったんだから頻繁に登場して欲しいくらいです(笑)。

 他の豪快チェンジは、すべてハカセによるもの。

 まずはグリーンツーが登場。グリーンツーと言えば、「バイオマン」当時に流行していたブレイクダンスのアクションを取り入れた、「ブレイクアクション」が特徴となっていますが、それをハカセ流アクションにアレンジしつつ、しっかり取り込んで披露。ハカセが「ブレイクアクション」という呼称をしなかった為、分かり難かったとは思いますが、アクションの組み立て方は完璧にブレイクアクションしてました。

 続いて、グリーンフラッシュが登場。個人武器であるプリズムカイザーを使うという、サービスっぷりがいいですね。オリジナルのプリズムカイザーは、文字通りもっとプリズムっぽい透明感があったような気がしますが、今回の物はややメタリックな雰囲気がありましたね。アクション向きの素材を選択したという事でしょう。パワーファイトを得意とするグリーンフラッシュを踏襲し、連続パンチを叩き込む姿がいい感じでした。

 真打は、ゴーカイシルバー・ゴールドモード。この、あまりにも挑戦的なデザインを違和感なくストーリーに組み込む為に、鎧のイメージの空間に追加戦士15人を配置し、「未来を見据える」かのように空を見上げるシーンを作り上げ、それがそのままゴールドモードの鎧に配された追加戦士のマスクに重なっていくという、見事としか言いようのない処理。これが、我々マニアが求める「マーチャンダイジングの要求に知恵で応える」制作姿勢であるし、その結果がメインターゲット層に響くという現象です。

 ゴールドモードでは、やや落ち着いた喋り方に変化し、その威容に説得力を与えています。あまりアクション向きではない造形なので、腰の据わったアクションを展開する事となり、それがまた説得力を助長するという、良い循環が生まれています。

 終わりに、マーベラス達の「骨抜き描写」が爆笑モノだった事を付記しておきたいと思います。マーベラスは、こういうギャグ描写の時に小澤さんの地が透けて見えるのが、個人的に高ポイントだと思っているのですが。ジョーはクールなまま骨抜きになり、ルカとアイムは脱力描写があまりにも可愛すぎて反則といった具合。

 当初より、各キャラクターの完成度は高かったですけど、ここに来て、一気に転がり始めた感があります。やはり、スーパー戦隊にとっての2クール目は大きな転機となるようですね。