新章開始!といった雰囲気ですね。完成度の高い通常編と、マニアックな先輩ゲスト編を交互に展開して安定感を出してきた1クールと比較すると、マーベラスの個人的な事情へと一気にシフトしてきている感がありますね。これには、安定路線を脱却する事で、次なる展開へのドライヴ感をだそうという意図があると思います。
今回登場したバスコですが、彼も(少なくとも現在は)例外なく地球人でない人物であり、「ゴーカイジャー」の、「日本人が色んな宇宙人を演じている」という、いわゆるスペースオペラ映画的な命脈は保たれたわけです。
次回への引きがあったという事で、まだストーリーの中核について多くを語れない状態ではありますが、本エピソードを見る限り、どちらかと言えば「通常編」にカテゴライズ出来そうなので、そういった文脈で言及してみようと思います。
これまでの「通常編」は、一様に完成度の高いエピソードばかりでしたが、今回もイベント編の性格が強いとはいえ、その完成度はなかなか高いと言えそうです。その辺り、続きの方で。
バスコ・タ・ジョロキア。かの有名な探検家であるバスコ・ダ・ガマの名をモチーフとするキャラクターです。...が、よくよく名前を見ると、「ダ」ではなく「タ」だったり、ジョロキア(唐辛子)なんていう名前がついていたり。要するに、タバスコなんですよね。
「ゴーカイジャー」全体に言える事ですが、ネーミングはダジャレっぽいものが多く、ザンギャック勢は言わずもがな、「ジョー・ギブケン」やハカセの本名である「ドン・ドッゴイヤー」等にもその片鱗が見えます。バスコに至っては、ザンギャックのネーミングにほど近いセンス。彼がヒーロー然としたルックスを有するにもかかわらず、ヒーロー的な要素が非常に薄い卑劣漢であるのは、ザンギャックに近いネーミングが象徴しているような気がします。いわゆる「悪役」なんですよね。
ルカの「分っかりやすい悪役だなぁ」は、けだし名言という事になりますね。
さて、バスコの登場によって、これまで断片的にしか示されなかった「赤き海賊団」の概要が見えてきました。「海賊団」と名乗るからには、もう少し大所帯のようにイメージしてましたが...たった三人かよ(笑)!
まぁもしかしたら、「赤き海賊団」に属する多数の船のうちの一隻だったのかも知れませんが、本編を見る限り、「赤き海賊団」はあれで全てだったようなので、何とも微妙...。
とりあえず、そこは置いておくとして、今回、アカレッドが初めて「アカレッド」と呼ばれるキャラクターである事が判明します。これまでは、マーベラスの回想シーンに詳細をボカしたまま登場しており、声が古谷徹さんであるという事で、この人物がアカレッドその人だという事を「マニアに分からせていた」のですが、今回、正式にアカレッドという名で呼ばれる事により、「ボウケンジャー VS スーパー戦隊」に登場する人物だという事(細部に若干違いがありますけど)が確定したわけです。あ、勿論、「ゴーカイジャー」におけるスーパー戦隊の歴史上という限定付きですけどね。
「赤き海賊団」は、アカレッド、マーベラス、バスコが所属するチームだったわけですが、マーベラスを理解する上で重要なポイントが、いくつか言及されています。
一つは、マーベラスの回想シーンにあった、アカレッドからレンジャーキーを手渡されるシーンが、赤き海賊団の終焉であった事。いわば、マーベラスにとっては自分の居場所だった「赤き海賊団」が、レンジャーキーを手にした瞬間に、終わってしまったのでした。正に、アカレッドとレンジャーキーは、「何かを得るために何かを捨てる」の関係の上にあったわけです。これは今回のテーマですね。この事は、マーベラスのニヒルさを形作った事件ではないかと思われます。回想シーンでのマーベラスは、かなり素直で少年っぽさに溢れている感があるからです。
もう一つは、マーベラスの言う「命の恩人との約束」がアカレッドとの約束だった事。勿論、これまでの回想シーンからでもこの要素は充分読み取れますが、今回、この辺りが明確になる事で、マーベラスとアカレッドの関係性は非常に強くなりました。つまり、「命の恩人」であるアカレッドは、マーベラスの「導き手」でもあったわけで、あらゆる先輩レッド達をまとめて象徴する存在だったアカレッドは、ここでもその存在の意味を発揮したわけです。
この二つのポイントを照らし合わせると、現在のマーベラスのキャラクターは、ほぼ「赤き海賊団」の終焉によって成立したものと考えられそうです。バスコによる裏切り、居場所の喪失、師の喪失。これらを俯瞰すると、ゴーカイジャーの他の面々が経験して来た悲劇と重なるところが多々あります。マーベラスが他の面々と共感出来る、あるいは共感されるのは、「赤き海賊団」の終焉を以て形作られたマーベラスの闇の部分が存在するからではないでしょうか。
ちなみに、回想シーンでマーベラスとバスコが大盛のスパゲッティを食べるシーンがありましたが、「ルパン三世・カリオストロの城」にオリジンを求められそうなシーンでしたね。以前、マーベラスが大食いによって体力回復を狙うシーンにも「カリオストロの城」の影響を見ましたが、今回もとなると、意識しているような気がしてきます。まぁ、この辺りは深読み妄言ととって頂いて結構です(笑)。
さて、バスコの方ですが、飄々とした言動、猿型ロボット(?)のサリーの愛らしさによるイメージとは裏腹に、狡猾なヤツでした。
お宝を狙って主人公に仇なすというキャラクターは、「仮面ライダーディケイド」の仮面ライダーディエンド・海東大樹によく似ています。軽口を叩いて翻弄するあたりもそっくり。更には、ディケイドが他のライダーに変身するライダー、つまり豪快チェンジと似た特徴を備えていたのに対し、ディエンドは他のライダーを召喚するライダーであり、正にバスコの「ラッパラッター」によるレンジャーキー実体化と相似形を描いています。
元々、「ディケイド」と比較されやすい「ゴーカイジャー」ですが、ここに来てディエンド型のキャラクターを出してくるのは、かなりの自信の現れではないでしょうか。「二番煎じ」の評価をものともしない、作り手の勢いを感じ取る事が出来ます。
ただ、ディエンドが元々ディケイドに対するシンパシーを有していて、終盤になるにつれてそれが明らかになっていくのに対し、バスコはまずマーベラス達をこっ酷く裏切っているので、ポジション自体は全く違う事が分かります。ディエンド自体、敵側につく事は滅多になく、初めからダマラスとの協力体制を敷いてきたバスコは、根本的に異なるようです。
このバスコにサシで勝負を挑もうとするマーベラス。恐らくバスコのやり口は知っていたものと思われますが、あくまでサシにこだわるのがマーベラスの侠気。逆に、この時点では彼の弱点という事になるかも知れません。結局、レンジャーキーの実体化という、とんでもない隠し玉により、マーベラスはサシどころか、バスコに触れる事すら出来ませんでした。この辺り、「通常編」で見られる、キャラクターの掘り下げに該当すると思います。
ところが、このバスコ軍団とのバトルは、かなりアクションが素晴らしかったので、マーベラスへの感情移入の機会はやや遠ざかります。この件、良し悪しだけで言うと、良かったのではないかと考えます。というのも、マーベラスという人物は特殊なキャラクターなので、ヘタに感情移入を許すと、途端に「孤高」という要素が失われる危険性を孕むからです。展開を高速にし、アクションを畳み掛ける事によって、マーベラスの事を考える隙を与えない構成はなかなか見事だったと思います。もしかすると、次回でどっぷりと感情移入させる為の布石なのかも知れませんが...。
このバトルでは、ルカの「たまたま通りかかる」という案が存分に生きています。普通ならば「なんか危ない。見捨てておけない」といった熱血展開に走ると思いますが、ルカの存在によって、ゴーカイジャーがクールな集団になっているのは、一定以上の評価を与えられるべきでしょう。思うに、「ゴーカイジャー」は、初期の戦隊が持っていた「手練の集団」という(いわゆる必殺シリーズのような)雰囲気が、復活しているのではないでしょうか。
クライマックスで、戦隊ヒーローが入り乱れて戦う様は、また引き合いに出してしまいますが、「ディケイド」のライダー大戦を彷彿とさせます。今回は豪快チェンジを披露していませんが、確かに、レンジャーキーの実体化した「追加戦士」達と交ざってしまうと、何がなにやら訳が分からなくなる事必至なので、この措置は正解でしょう。
このアクションシーン、かなり長いのですが、それぞれの追加戦士達の特徴的な武器や能力を、的確に入れ込んでおり、「戦隊カタログ映像」としての完成度も高かったように思います。最初に登場したのは、キングレンジャー、デカブレイク、ドラゴンレンジャー、シュリケンジャー、タイムファイアーの五人になります。
驚愕必至なのは、その後。上記五人を倒して勢いに乗った彼等を、バスコの周到な計略が襲いかかるというシーンです。そこでは、十人のレンジャーキー実体化戦士が登場。二人がかりで各メンバーを打ちのめすという、かなり残酷なシーンになっていて、これまでの危機とは格が違う事を見せつけます。
ジョーを襲撃するのは、ゴセイナイトとキバレンジャー。ハカセには、メガシルバーとガオシルバーが襲いかかります。アイムは、ボウケンシルバーとアバレキラーによって痛め付けられ、ルカは、ゴーオンゴールドとゴーオンシルバーの猛攻の前に戦意を喪失します。マーベラスにも、シンケンゴールドとマジシャインが戦いを挑みます。
ここで、マーベラス以外は、各々変身解除となり、生身の状態で「暴行を受ける」様子がスローモーションを伴って描かれ、凄惨さを増しています。この「痛そうな」表情をさせる演出は見事で、ともすればフィジカルな痛みが希薄になりがちなヒーロー番組(とくに最近のライダーがそんな感じですねぇ)にあって、キャスト陣の熱演がダイレクトに伝わってくる画面には、素直に拍手を贈りたいです。やはり、メンタルでもフィジカルでも、ある程度の「痛み」の描写は必要だと思うし、そういう描写こそが、子ども達の心身を育むという面も、否定出来ないと思いますねぇ。
というわけで、かつてない危機という感じで次回に引っ張りましたが、果たしてどのような展開になるのか。そして、バスコの扱いがどうなっていくのか、興味は尽きませんね。
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