第12話「極付派手侍」

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 シンケンジャー編の後編です。

 驚いたのは、「普通の先輩ゲスト編」だったということ。前後編なので、大幅なパワーアップガジェットが登場したり、敵側に大きな変革があるのかと思いきや、ホントに「普通の先輩ゲスト編」。

 しかしながら、前後編ならではの気合の入り具合というか、充実度は凄まじいものがありました。

 特にアクション面。これでもかという程フィーチュアされた豪快チェンジに、前編に続く生身アクション。総じてみれば、ストーリーは至って単純であり、話だけ辿れば15分くらいで終わってしまうような物語なんですけど、アクションがストーリー全体にわたって説得力を付加しているのが素晴らしい。アクションが付け足しにならない構成力は、「シンケンジャー」のそれを踏襲している感がありますね。

 それと、一応マーベラスとジョーの出会いを描くことにより、朧気ながらゴーカイジャー結成譚が見えてきた事も収穫。というより現時点では、個々のメンバーが、どういう思惑で加入したのかという部分を明示していないだけで、ゴーカイジャーの「発足」はこれが全てなんですよね。マーベラスとジョーが出会っていなければ、もっと言えば、ジョーがシドに逃がされなければ、もっともっと言えば、マーベラスがたまたま通りかからなければ、ゴーカイジャーは誕生していなかったか、少なくとも現在の編成にはならなかったわけです。その意味で、この出会いのシーンは非常に示唆に富むというか、やっぱりゴーカイジャーのコアを成すのはマーベラスとジョーなんですよね。この関係は、クライマックスでの背中合わせでのアクションにて、これまた象徴的に描かれています。

 というわけで、すっかり薫姫の事を書き忘れてますが、それもその筈。薫は前編で「きっかけとしての役割」を果たしてしまったので、今回は他の先輩ゲストに倣って、傍観者に徹してます。ただ一方では、丹波の例の秘伝ディスクが登場する等、とんでもないサービスも。

 では、続きの方で前回ペンディングとしていた、テーマ性も含めて語ってしまいます。


 今回はですね、ストーリーが云々というよりは、むしろ映像を追っていった方が楽しいです。というのも、ストーリー的には、前編で描かれた内容がほぼ全てであり、後編はそれに決着を付けていく流れだったからです。

 前編で提示されたのは、薫が海賊達の「見極め」を始めた事と、ジョーの、生き別れの先輩の変わり果てた姿(バリゾーグ)との再会、逡巡、そして、一時戦闘不能に陥るマーベラスの三つの要素です。

 薫に関しては、前編ラストでの、マーベラスとそれを囲むメンバーを見て、興味を抱き始めるというくだりが、かつての「シンケンジャー」の丈瑠とその家臣たちを見る眼差しの再現でした。実は、ここで既に薫の物語は終わってしまっており、後は、薫がどう海賊達を「侍の力を使う者」として認めるかだけが残ります。薫は戦闘に参加する事も制止された為、ゴーカイジャーの戦い振りを傍観しているだけになりますが、これは、これまでの先輩ゲスト編でのレッド達のスタンスと何ら変わるものではありません。

 つまり、前編の薫は近作である「シンケンジャー」ファンへのサービスであり、後編の薫は正しく先輩ゲスト編のレッドだったわけですね。

 ジョーのくだりでは、まずジョーが、シドと共にザンギャックのポリシーを誤解して入隊していた事が判明。本人達は騙されたと発言しているので、誤解との表現は語弊がありますが。ともあれ、これによってジョーが元ザンギャックであったとしても、「正義のヒーロー」たる戦隊のスタンスに影響しないよう配慮されたわけで、逆にシドの運命は悲劇的な面を帯びた事になります。

 ジョーが一時マーベラス達の元を去るのは、シド先輩という存在の喪失感があまりにも大きかった所為でしょう。何しろ、ジョーのアイデンティティは剣術にこそあり、その剣術の師の喪失とは、ジョーにとってアイデンティティの喪失にも等しかった筈。今回が「シンケンジャー」をフィーチュアしているので、より一層「剣」の要素が色濃い故に、ジョーの喪失感がダイレクトに伝わるものとなっています。普段クールなジョーが感情を溢れさせるという、難しい演技をバッチリこなしていたのが印象的です。

 後に、ジョーがマーベラス達の処へ戻ってくるのは、自分のアイデンティティが剣術のみにあらず、マーベラスと共に海賊である事こそが、自らをジョー・ギブケンたらしめるのだと、「思い出した」からですね。回想シーンと現在のシーンの織り交ぜ方が実に巧く、このあたりのメッセージが良く伝わってきます。

 なお、バリゾーグが剣を取りに来るシーンがありますけど、ここでジョーを全く相手にしていないのが、カッコよくて不気味なんですよね。要するに、ワルズ・ギルの命令がない限り、バリゾーグは例え賞金首が目前に居ても、全く手を出さないのです。命令のみを遂行するクールなエージェントという形容がピッタリです。

 最後に挙げたのは、マーベラスの一時戦闘不能ですが、「弱いキャプテン」にならない創意工夫に満ちていました。ジョーを庇っての負傷という発端は言わずもがな、その回復に至るプロセスも実に個性的。特に、大量の食べ物を所望するあたり、彼の豪傑振りが伺えて良い感じです。

 このくだりには既視感を感じるのですが、これは「ルパン三世・カリオストロの城」における、ルパン負傷のくだりと全く同じなんですよね。ルパンも、不死身の男というイメージを「食えば治る」という行為で巧みに補完していました。マーベラスの「無敵化」にあたり、この「カリオストロの城」を参考にしたのではないかという推測、強ちハズレではないと思うのですが。

 さてさて、ジョーのシーンには印象的なものが多く、ストーリーの根幹に関わるものもあるのですが、とりあえず「美味しいネタ」扱いしたいので後回しにし、ここでは薫の役割について整理しておこうと思います。

 今回の薫の立場を象徴しているシーンは、薫がゴーカイジャーの絆を理解して、負けを認めるシーンでしょう。丹波がジョーに双ディスクを手渡すシーンは、正に丈瑠を当主と認めた最終話の名シーンを彷彿させるわけで、このシーンこそが「シンケンジャー」の再現だったと言っても過言ではありません。

 面白いのは、ジョーが薫に「すまない」と言っている事。にわかには真意を計りかねるセリフですが、これはやはり、一時は黙ってマーベラス達の元から逃亡した自分を勝者と認めた薫の、度量の深さと観察眼の確かさを悟り、「有難う」というべき処をジョー流に「すまない」と言ったのかな、と。

 そして、ジョーが去った後、薫は「侍たちに劣らぬ絆、五人揃えば勝負は見えている」と丹波に言います。これこそが今回のテーマ。シンケンジャーの力を手にする者達は、「シンケンジャー」で見られた、双方向性の強固な絆を体現する者達である必要があるという、オリジナルのテーマ性をリスペクトした展開には、素直に嬉しさを感じます。

 ここで気付くのは、今回のゲストレッドが丈瑠だと、こうは行かないだろうという事です。薫はオリジナルでも「侍達の絆を見届けた者」であり、基本的に「侍達の絆の当事者」ではなかったのはご存知のとおり。よって、「当事者」の丈瑠に今回の役割は相応しくないと考えられます。もし丈瑠がゲストとして登場するなら、「侍の覚悟」といった精神性を説く感じになりそうですね。

 この辺りで、ネタ話と参りましょう。

 何と言っても注目はジョーですね。「付き合うぜ、夢の果てまで」とか、ラストでの「ただいま」等、クールなジョーの内面に秘められた熱さが随所に感じられました。クールだが義理堅い男、しかも剣術の達人とくれば、これは先程も言及した「ルパン三世」に通ずるわけで、ジョーは次元と五エ門のハイブリッド。マーベラスとジョーのコンビはさながらルパン一味。さしずめルカが不二子といった処?

 ジョー関連だけに留まらず、今回は生身でのアクションが満載。回想シーンでのマーベラスとジョーのアクションは、舞踊のような二人のコンビネーションで流麗に決めています。互いに冷笑一発で意志が通ずるあたり、クールです。

 素面の見所で言えば、マーベラスとルカは、変身解除に陥っても笑っているのが素晴らしい。虚勢を含めたとしても、これだけ余裕を表せる戦隊ヒーローは、なかなかいないでしょう。

 そうそう、前編が割と善戦する素面アクションだったのに対し、今回は激しい「やられ」が盛り込まれていました。平成ライダーの変身後でよくある「ぶつかり」が生身アクションに入ってくると、そのヒーローの痛みを直視する事になり、俄然迫力が増します。勿論、激しい部分はスタンドインが入るわけですが、あまりにカット割りが巧すぎるので、流れが全く途切れない。

 あと、マーベラスのジャケットの背中が、ちゃんと破れているのが細かいポイントでした。

 また、巨大戦ではシンケンゴーカイオーが登場。ガオゴーカイオーからの変形という、意表をつく登場にはシビれましたね。「大いなる力」を一台一台商品化するのではなく、ある部分は折衷するというアイディアは、なかなかのものだと思います。兜を被るカットや見得切りなど、随所にシンケンオーのイメージが取り入れられており、ファンも納得。シンケンオーに胸ライオン? と一瞬思いましたが、元々シンケンオーは獅子折神の頭が胸にあったんでした(笑)。なるほど、だからコンパチにしたんですね。

 では、ここで豪快チェンジについてまとめましょう。

 今回は沢山の豪快チェンジが登場しました。個々のメンバーがバラバラにチェンジする趣向は初めてで、アクションの尺がかなり長くても飽きさせない構成でした。このアクションの充実(長尺)度は、近年の戦隊にはないものですね。

 まず、マーベラス。赤龍拳をパワフルに再現したリュウレンジャー、ボウケンジャベリンを登場させたボウケンレッド、ハリケンレッドはドライガンとハヤテマルを登場させ、ワイヤーアクションを用いたシノビアクションが非常にスピーディでした。比較的新しい戦隊ヒーローで構成されている感がありますが、それぞれ確実にオリジナルを尊重していました。

 続いて、ルカ。イエローマスクというマニアックなチョイスでは、太極拳っぽいアクションを披露。イエローマスクは忍者ヒロインだったので、太極拳はどちらかというとピンクマスクのイメージなんですが、まぁOK(笑)。その他、メガスリングを「ホイっ」という掛け声と共に放つ可愛いメガイエローに、プテラダガーを自在にワイヤーで飛びつつ駆使するアバレイエローを登場させました。

 次はハカセ。現代の映像技術でパワーアップしたミドメランを披露するミドレンジャーに続いては、ボクシングのファイトスタイルが特徴的だった、オーグリーンを見事に再現。最後はこれもマニアックなセレクトと言えるグリーンサイ。パワーファイトがなかなか決まってました。

 アイムも面白いセレクトでした。まずデンジピンク。デンジマンの特徴がデンジパンチになってしまっているのはご愛嬌。続いてはピンクフラッシュの登場で、プリズムブーツの再現が泣けます。最後はタイムピンク。ダブルベクターでビート6を放つというサービスっぷりで、良い感じに締めてくれました。

 真打は、やっぱりシンケンジャー。変身シーンの再現は勿論の事、主題歌インストが否応なくアクションを盛り上げてくれます。烈火大斬刀も登場し、更にはジョーが双ディスクでシンケンマルの二刀流を披露するという、オリジナルとは異なるパターンでの、ワイヤーアクションを用いた「アメリカンなチャンバラ」というべき画を見せてくれました。オリジナルが割と実直に太秦の時代劇を意識していたのに対し、「ゴーカイジャー」はやっぱりハリウッド的なアクションを標榜しているようですね。完成度はすこぶる高かったと思います。

 ある意味、大変なお祭り騒ぎな前後編でしたが、話数的に1話足りないにしろ、1クールはこれで終了となり、1クールを締めるに相応しい充実編でした。次クールから、どんな変化球を見せてくれるのか、楽しみですね。