Mission 35「タテガミライオー 吼える!」

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 実際に吼えていたのは水木一郎さんでしたが(笑)。

 近年の、2〜3号ロボ登場時における、印象の弱さを反省したかのような、「ちょっといい話」な作風が新鮮。水木さん演ずる葉月博士と、その娘であるミカを中心に進行していきますが、ヒロムが見せる侠気に近い姿勢、リュウジがエンジニアとしての成長を続けている事を示すが如き陣とのタッグ、Jとのコンビで防衛戦を張り、子供扱いを払拭するヨーコといった、ゴーバスターズ自体の成長振りを示す要素が随所に挿入されます。

 これは、タテガミライオーが試しているのは、実はヒロム一人だけではないという主張にも見え、ヒロム中心のごく狭い空間で物語りが完結しないよう配慮されているようです。

 水木さん久々の「博士」役は、文字通り「変人」振りがエキサイティング! 研究に没入している姿のストイックさと、陣を鼓舞する言動のぶっ飛び振りとのギャップが素晴らしく、画面に緊張感と華やかさを与えていました。その「叫び」がクローズアップされるあまり、バラエティ番組的には芸人扱いされる事も多くなった水木さんですが、インタビュー映像やラジオ出演等を拝見、拝聴すると、あのノリは実は素のままなのではないかと思わせてくれます(笑)。

 葉月博士は、現在の水木さんそのままのキャラクターでしたが、ミカは年齢不詳な感があって、ややミステリアス。演者の於保佐代子さんは、何となく清水あすかさんに雰囲気が似ていて、目力に溢れた表情や主人公に対する強気な姿勢を見ると、一瞬「グランセイザー」かと思ってしまう程。名前も同じ読みだし(笑)。

 今回、葉月博士は回想とホログラフィでしかお目にかかれない為、ストーリーの進行を担っているのはミカであり、重要な役回りなのですが、演技と感情移入に十分配慮した演出は及第点以上であるものの、バックボーンは意外なほどアッサリした省略形。故に、葉月博士と陣の関係性は(陣の貴重な回想シーンという点も含めて)、印象に残りやすい強さがあったのに比べ、肝心のミカの行動原理については、おおよそがセリフで説明されている程度になっており、最前線のヒロム達を嫌悪する姿勢に、ちょっと説得力が足りないのは否めない処です。

 物語の落とし処としては、葉月博士は異端の研究者として追い出されたのではなく、自らの研究が必ず将来役に立つと信じて身を引いたのを、娘が誤解していたという事でした。この落とし処は、「父に対する誤解」という定番要素を利用しているわけですが、ヒロムが何とかライオーを「仲間にしたい」という目的意識と、ミカの誤解の氷解とが、巧く画面上でシンクロしていて非常に効果的だったのではないでしょうか。誤解を解くというプロセスと、新たな巨大ロボを入手するというプロセスが同時進行するという、ややもすると複雑になりかねない構成の中心に、「行動」と「感情」を据える事でシンプルに見せている。これは25分時代の戦隊に通ずる見せ方で、見事だと思います。

 さて、タテガミライオーですが、主人公に心を開かないロボットという、戦隊ではたまに現れるパターン。「マスクマン」のギャラクシーロボ辺りが嚆矢でしょうか。ロボットそのものが拒否の姿勢を見せるものと、開発者や持ち主が拒否するパターンとがありますが、今回はその両方(!)という充実振り(笑)。動物型という事で、そこに「ジュウレンジャー」以来の巨大生物的なニュアンスも加味され、正にいいとこ取りのてんこ盛りといった様相を呈しています。その上、コクピットのコンソールがガジェットになっているという、戦隊で導入されたあらゆるアイディアを使い尽くすかのような姿勢には、ただ驚くばかりです。

 CGとスーツの巧みな使い分けによる、ライディング等の描写も良く、オープン撮影も多用されていて、前回少々危惧していた巨大戦の消化試合化を払拭してくれました。メタロイド〜メガゾードの流れを廃して、エンターだけを立ち回らせるというシンプルさにより、巨大戦も小難しい理屈のない迫力満点の画面となり、タテガミライオーのデビューを華々しく盛り上げていました。トライクへの変化も、「デカレンジャー」を想起させて迫力がありましたね。ちなみに、水木ボイスで「ブルルルーン!」とやる処は、正に「マッハロッドでブロロロロー!」ですね!

 さて、葉月博士こと水木一郎さんです。

 水木さんの演じた役で、私が最も好きなのは、「スピルバン」のベン博士。ワーラー帝国に拉致・改造されて息子・スピルバンの前にドクターバイオとして立ちはだかるという、悲劇的な役割でしたが、実際にドクターバイオを演じていたのは、スーツアクター、声共に高橋利道さんであり、ベン博士の登場は主として回想シーンのみでした。しかし、最後の最後でベン博士の姿を取り戻して、スピルバンの勝利と引き換えに命を落とすという、衝撃的なシーンが用意され、鮮烈な印象を残したわけです(実際は歴史改変によって「死ななかった」事にされるのですが)。

 このベン博士は、現在の水木さんのイメージとはかなり異なる、「物静かな人物」として描かれ、実直で父性に溢れている点こそ水木さんの魅力そのものですが、今回の葉月博士の突き抜けた感覚とは、随分異なります。特に、最終編での息子に対する悔恨の念に苛まれる演技は、そこに被る自身の歌唱による挿入歌の物悲しさと相俟って、絶大な効果を上げていました。

 今回、水木さんが出演されると聞いて、真っ先にこのベン博士が脳裏に浮かんだのですが、実際の葉月博士は、前述の通り現在の水木さんに合わせたキャラクターで、しかも遺伝子工学ではなくロボット工学のオーソリティでした。しかし、葉月博士の衣装が、ベン博士のそれを彷彿させる派手目のものだった事が嬉しい。...って、これ、水木さんのステージ衣装!?

 というわけで、充実の巨大戦力パワーアップ編でした。強烈な水木さんの個性で引っ張りつつ、それにコンテンツが食われないようなバランスが非常に良かったのではないでしょうか。

 次回は、コミカルな絵面に期待できそうです。