Mission 22「美しきアバター エスケイプ」

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 新幹部登場編でありながら、伝統的な「戦隊のお話」をぶつけて来る辺り、巧妙なエピソード。

 「ゴーバスターズ」に限らず、近年の戦隊や平成ライダーには、一般の人々との交流が見事に欠如しているわけですが(つまり、割と閉じた構造の世界観になっている)、たまには描かれるわけで、今回が正にそうであったという事です。

 ただし、今回の懐かしさ溢れる作風が「ゴーバスターズ」にマッチしているかといえばそうでもなく、やはり今回は、扱いの難しいエスケイプ登場編に見合った作風を探った結果という事なのではないでしょうか。結果として、エスケイプは危険な女という印象を残しつつも、あくまでメタロイドの領分(つまり武力の部分)を侵さない「愉快犯」の面を印象付ける事に成功し、ヒロムのヒロイズムの一端を垣間見せる事も出来たわけです。新幹部登場編としては地味であったとしても、あらゆる面で見事な構成だったのではないでしょうか。

 エスケイプ=水崎綾女さんは素晴らしいですね。前歴はよく存じ上げませんが、フェティッシュな魅力と鋭い眼光のギャップが非常に良い感じです。アクションのトレーニングにも、かなり本気で取り組んでいるとの事で、今回早くもそのポテンシャルを発揮していました。笑顔でワイヤーに吊られてアクションしている姿を見ると、今後が大変楽しみな逸材です。

 このエスケイプ、エンターの代わりとしてメサイアによって送り込まれたわけではなく、あくまでメサイアの快楽を追求する為のアバターであり、メサイアの現実世界への帰還を目的とするエンターとは、重なる部分があるにしろ、「代替」ではないようです。エンターは「用済み」の烙印を押されたと感じているようでしたが、これは今後のエスケイプとの対立構造をドラマに盛り込む「仕掛け」のように見えました。

 享楽的で二丁拳銃に名前を付けて愛玩するエスケイプには、どこか退廃的な匂いがしますが、このような女幹部は意外に少ないように思います。雰囲気が近いのは「ゲキレンジャー」のメレですが、彼女からは退廃的な匂いは感じられません。退廃的と言えば「シンケンジャー」の薄皮太夫ですが、逆に彼女からは陽性の部分を感じる事は困難です。戦隊シリーズ以外から探すと、平成ライダーには近い雰囲気のキャラクターが居たりしますが、やはりここまで徹底してセクシャルな者は居ないように思います。

 さて、戦隊シリーズの女幹部列伝は、語り出せば止まらなくなりますので、ここはもっと別の話に振ってしまおうと思います。即ち、私のお気に入りの女優さんを列挙するという話でございます(笑)。

 と言っても、恐らく年季の入った特撮ファンであれば、およそ同意見になるのではないかと思いますが...。

 まず、曽我町子女王陛下。生前二度程お目にかかる機会に恵まれましたが、日本特撮史上、唯一無二、悪の女王の筆頭です。

 曽我さん初の女幹部である、「レインボーマン」のゴッドイグアナは、塩沢ときさん演ずるイグアナの超怪演に比べると、まだ大人しい部類ではありましたが、それでも変幻自在の妖術で主人公を翻弄しまくる様子は、その後の怪演・快演の礎となっています。その後、「5年3組魔法組」の魔女ベルバラでその存在感を遺憾なく示し、「透明ドリちゃん」等への出演を経て、「デンジマン」のヘドリアン女王に至ります。

 そのヘドリアン女王の魅力は、方々で語り尽くされているので割愛しますが、次作の「サンバルカン」に続投という、空前絶後の扱いからもその魅力の程が知れるというものです。なお、「デンジマン」では部下を愛する尊大な君主といった趣でしたが、「サンバルカン」では愛嬌あるワガママな巫女というポジションとなり、ある意味別キャラクターとして成立しています。

 その後、登場話数の多い代表的なもので「スピルバン」の女王パンドラ、「ジュウレンジャー」の魔女バンドーラが挙げられます。女王パンドラは、丁寧な言葉遣いでいつもニコニコしていて「不気味さ」が突出しており、最終編での着ぐるみアクションは語り草です。ご本人は、女王パンドラの衣装がいたくお気に入りだったのに、最終編でヒトデに入らされて憤慨されたとの事でした(笑)。

 バンドーラは、ヘドリアンと並ぶ、自他共に認める名キャラクターでしょう。ベルバラのいたずら魔女をベースに、憎々しいゴッドイグアナ、部下を愛するヘドリアン、愛嬌あるヘドリアン、アクションも辞さないパンドラといった、曽我町キャラクターの集大成を形成していました。最終編で蘇った息子を抱きしめたいともがく様子には感涙必至であり、一気にストーリーを主人公側からバンドーラのドラマに引き寄せました。「ジュウレンジャー」の主役は、どんなに出番を削られても、結局バンドーラだったという事です。

 続いて、藤山律子さん。

 こちらも「レインボーマン」の悲劇の女・オルガが初の本格的な女幹部。ボスであるミスターKの側近中の側近でありながら、事態悪化に伴ってどんどん立場が悪くなり、遂には自滅の道を自ら選択しなければならなかったという、大変印象的なキャラクターでした。藤山さんは上から見下ろすような視線と、その真逆の睨み付けるような上目遣いが実に素晴らしく、オルガのプライドの高さを如実に表していました。

 オルガの後、「電人ザボーガー」のミスボーグで奇抜な衣装を披露。「宇宙からのメッセージ・銀河対戦」のクノーイ役でも妖艶な魅力を発揮します。そして、「ダイナマン」の女将軍ゼノビアが白眉。ゼノビアの恐ろしさは、その声の絶妙なトーン、オルガでも発揮された「見下ろし視線」の魅力、野心が滲み出る立ち振る舞い等、あらゆる要素で作り上げられていました。「ダイナマン」終盤は、このゼノビアがドラマを牽引していくわけですが、何度見返してもなお、毎回ワクワクしてしまいます。

 そして、賀川ゆき絵さん。

 この方は、東映エログロ路線の看板女優だったわけですが、特撮作品で実に印象深い女幹部を演じられており、そのいずれもが抗しがたい魅力を放っています。

 「スパイダーマン」のアマゾネスは、賀川ゆき絵流・女幹部の要素を全て備えたパイオニアです。ある意味、その後の賀川ゆき絵流・女幹部は、このアマゾネスのバリエーションであると言っても過言ではありません。その魅力は、忠臣、誇り高き言動、美しい変装です。

 そのアマゾネスの正統進化形が「サンバルカン」のアマゾンキラー。忠臣、誇り高き言動、美しい変装の三要素が全て揃ってグレードアップしています。特に、「スパイダーマン」での孤独な死を発展させたと思しき、最終回でのサンバルカンとの孤独な女王としての対決シーンは、女幹部史上、最も美しい武人としての散り様を見せてくれました。このシーンは、何度見ても凄まじい迫力です。なお、アマゾンキラーは、賀川ゆき絵流・女幹部の中でも、突出して言葉遣いが丁寧で、サンバルカンに対しても部下に対しても「○○なさい」「○○なのです」といった言葉遣いなのが印象的でした。上原正三先生が、賀川ゆき絵さんのドラマをどうしても掘り下げてしまうという、裏話が語られる程です。

 「ジャスピオン」のギルマーザは、アマゾネスやアマゾンキラーと比べると、やや消化不良気味。フラメンコをイメージソースとし、カスタネットを打ち鳴らしつつ妖術でジャスピオンを翻弄する様子は、なかなかのもの。しかしながら、前任者であるギルザがあまりにもインパクトの強いキャラクターであった為か、賀川さんの持つ魅力を生かし切れず、その最期もボスの爆発に巻き込まれるという扱い...。その後、賀川さんの大幹部は、ファンに望まれつつも実現していません。

 そのギルザを演じたのが、今や日本を代表する名優となった高畑淳子さん。バラエティ番組等で見せるお茶目で奔放なキャラクターが、実に可愛らしい高畑さんですが、まだ売れない時分に、東映特撮番組へ出演されていました。ギルザはその第一弾です。

 このギルザ、舞台女優らしい滑舌の良さと大仰な芝居、そして元来の緻密な演技プランが奏功し、絶大なインパクトを残しました。「ジャスピオン」というシリーズ自体は、紆余曲折あって散漫な印象のある作品ですが、このギルザの活躍する期間は突出した魅力があります。何しろ怖い! 呟き呻くような呪文に気合一閃の迫力、神経を逆撫でするハイトーンの高笑い、首を飛ばされてもそれを抱えて微笑む、ブロッケン伯爵も真っ青の不死身っぷり。どれも孤高の魅力を放っています。

 次に高畑さんが登場したのは、「仮面ライダーBLACK RX」。妖術参謀マリバロン、特撮時代における高畑さんの大当たり役です。このマリバロンは、ギルザとはやや異なる方向性で演じられ、恐ろしさよりも誇り高い貴族といった雰囲気を強調しており、非常に完成度の高いキャラクターでした。高畑さん独特の声質もマッチしていて、最期に皇帝に刃向かうシーン等は、正に鬼気迫る怪演といった趣でした。

 今の処、最後に高畑さんが特撮で演じられた幹部クラスのキャラクターは、「ジャンパーソン」の綾小路麗子。このキャラクターは強烈なメイクが印象的で、科学者という一風変わった方向性を見る事が出来ました。ただ、ギルザやマリバロンに比べると、悪の組織が複数存在する等の要因もあって、やや記憶に残り難いキャラクターだったかも知れません。

 というわけで、もはや「ゴーバスターズ」の話ではなくなってしまいましたが、錚々たる面々に連なる人物の登場に、期待したいと思います。

 さて、話を「ゴーバスターズ」にちょっと戻して、ヒロムのヒロイズムについて。

 今回、ヒロムが見せたポリシーは、「職業」的な使命感を強く感じさせるものでした。「自分が分かっていればいい」という言葉からは、プロフェッショナルな意識が溢れています。それを子供に対して説くのは、やや意識が高すぎる感もあるものの、ちゃんと行動で示す辺りは素晴らしかったと思います。百聞は一見にしかずという言葉をそのまま体現していたのは、ドラマの展開としてスッキリしていますからね。

 ヒロムというキャラクター自体は、割と「お利口さん」なので、近年の型破りなレッドと比べると没個性に陥りやすいきらいがあると思いますが、逆に言えば久々にレッドらしいレッドでもあるわけで、今回はそれを確かめられる格好のエピソードだったのではないでしょうか。

 もう一つ、グレートゴーバスターについて。私の予想に反して、基地内での合体を経て発進となっており、驚きました。先日、この処置に関して散々な事を書きましたが、これはこれでアリなのかも知れません。ただ、グレートゴーバスターが行動可能な範囲が、いつも基地周辺に限定されてしまうのは、ちょっと興醒めではあります。

 いや、そもそもこの「ゴーバスターズ」の世界自体、基地周辺しか存在しない印象があるので、まぁ良いのかも知れませんが...。

 というわけで、何だか本編とはあまり関係ない話に終始してしまいましたが、エスケイプの登場で派手さが増し、ヒロムの「凝った変装」が定着しつつあるといった具合に、コミカルな要素も増量中。色々と楽しみになってきました。