Mission 15「金の戦士と銀のバディ」

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 衝撃の新戦士登場編...という程でもなく、「ゴーバスターズ」らしいクールな新戦士登場編といった処。

 年季の入ったファンにとっての真の衝撃は、ビートバスター=陣マサトを、「マジレンジャー」でマジイエロー=小津翼を演じていた松本寛也さんが演じているという事。実質デビュー作だった「マジレンジャー」から、素晴らしく成長した姿を見せてくれます。

 画面作りやストーリー運びはクールですが、設定やビジュアルでは衝撃的な要素が幾つか見られます。これは、「ゴーバスターズ」が保ってきた雰囲気を大事にしつつ、どのように新戦士登場編を盛り上げるかといった命題において、一つの解法を示したと評価出来るのではないでしょうか。

 毎年、新戦士登場については物議を醸すわけですが、今回は松本さんの再起用と、スタッグバスターの扱い、そして、新戦士のポジションといった点について、様々な議論が為されるのではないかと思われます。そして、それはそのまま、今回の「衝撃」として鮮烈な印象を残すわけです。

 まず、松本さんの再起用ですが、昨年度が「ゴーカイジャー」という「先輩ゲストの大挙登場」を魅力の一つとした作品だったので、このキャスティングは大英断だったと思います。

 実際に、「ゴーカイジャー」には小津魁と小津芳香が登場。魁が非常に重要な役割で登場したのに比べ、芳香は最終回にチラッと登場しただけですが、同作品から二人も登場しているとあって、翼の存在も強く感じさせる事になりました。それを踏まえた上での今回の出演ですから、松本さんの役者としての存在感とスーパー戦隊経験者という二つのバリュが、ビートバスター=陣マサトというキャラクターにとって不可欠であったと想像出来ます。

 以前にも述べましたが、元戦隊の追加戦士は、「ジャッカー」のビッグワンは(宮内洋さんの起用自体が慣例的な東映のテコ入れなので)例外として、「ジュウレンジャー」のドラゴンレンジャー・ブライと、「ギンガマン」の黒騎士ヒュウガくらいで、今回のビートバスターが実質三人目となります。「ジュウレンジャー」から様々な追加戦士が登場してきた割に、再起用例が極端に少ない事を考えると、追加戦士自体の新鮮味という大きなメリットの方が優先されている印象すらあります。

 逆に考えると、再起用例は「レギュラーと一歩距離を置いた年長者」という感覚を重視しているとも言えます。ブライは正にそうですし、ヒュウガにしても、仲良くやっているようで結構単独行動が多い。また、毛色は違いますが、メタルヒーローからの起用である「メガレンジャー」のメガシルバー=早川裕作もその類に分類出来ると思います。

 陣マサトは、見かけの年齢こそリュウジより下(!)ですが、正にレギュラーと交わらない年長者(実年齢は黒木司令官と同じ)。二人の前例の成功に鑑みて、先輩キャストの恩恵を享受するものと思われます。多分。

 続いて、スタッグバスターの扱い。

 レギュラーが三人体制である事に加え、追加戦士がカブトムシモチーフという事、そしてビートバスターが金色である事、バディロイドが「ビート・J・スタッグ」という事で、半ば必然的にクワガタモチーフの銀色の戦士が登場するのではないかと思われていたわけですが、その通りになりました。ただし、変身者がバディロイドであるという、衝撃的な設定付きで。

 この件に関しては、前例は皆無。強いて言うなら、非人間タイプの追加戦士の亜流という事が言えると思います。しかしながら、メタルヒーローのスタイルをとるバディロイドから、一般的な戦隊ヒーローのスタイルに変身するというのは、その物理的なムチャクチャ振り(「ゴーバスターズ」の事ですから、何か緻密な設定がありそうですが...)と、デコラティヴからシンプルへのビジュアルショック、ロボット系からヒューマノイド系への変化といった要素によって、これまでにない衝撃を伴った追加戦士の形態を提示したのではないでしょうか。中村悠一さんによるキャラの立たせ方の巧さも相俟って、ある意味ビートバスター以上の魅力を秘めていると思います。

 そして、陣マサトのポジショニングも衝撃的です。

 追加戦士が何かを背負って登場するのは、「ジュウレンジャー」のドラゴンレンジャー・ブライからしてそうだったので、最早驚くべき事でもありませんが、今回は「亜空間に転送された人間が生きている」という「ヒロム達にとっての希望」を体現している点で、これまでの追加戦士と大きく異なると思います。

 というのも、「ゴーバスターズ」の柱となる「ヴァグラスの驚異からエネトロンを防衛」の裏に確固として存在する「亜空間に転送された人々の救出」という目的意識が、ここに来て「一縷の望み」から「実現可能なミッション」へと昇華される可能性が出て来たわけで、陣マサトという追加戦士は、当初からのテーマの一つを具体化する人物(つまりキーパーソン)として登場したからです。

 当然、追加戦士は「次なる展開」を担う存在である事が多く、実際ビートバスターに関しても、新しいバスターマシンの登場に関与していたり、レギュラー陣のポジションに影響を与えたりといった事が起こるのは、容易に想像出来ます。しかし、陣マサトに関しては、その面よりもキーパーソンである面の方が強調されている。それは、松本さんというキャスティングからも読み取れるわけです。

 そもそも、追加戦士はマーチャンダイジングの要請に負う処が大きいわけで、それをいかに物語へと組み込んでいくかという点に腐心されます。更に、近年はマーチャンダイジング自体のスケジューリングが緻密である為、企画段階から既に追加戦士の件は「前提」であり、料理する側の手腕がより求められる傾向にあると思います。最近の傾向では、主人公の存在意義に揺さぶりをかける存在という面が強いように感じられます。そんな中で、今回のように「レッドではなくブルーと面識のある人物」、「(設定上)司令官と同年齢の人物」、「発端となる事件に深く関与する人物」といった特殊極まるポジションの追加戦士を投入したのは、「ゴーバスターズ」の硬質な世界観によくマッチしているという事以上に、相当な冒険であると思います。

 次回では、早速レッドであるヒロムとの対立(?)が描かれるようですが、それも特殊なポジションが活かされているのではないでしょうか。

 さて、今回は追加戦士登場編であるも、ヒロム達の素面アクションが大きくクローズアップされていたのが興味深い処です。いつにも増してアクロバティックな動きが重視されており、満足度は非常に高いです。特にリュウジが両脇の支えを軸にして回転する動き等は、吹き替えなしの素面アクションもここまで行けるという気概が発揮されており、良いですね。三人とも、アクションのポテンシャルは高いと常々感じます。

 また、大ピンチに至ってのビートバスター登場ではなく、ビートバスター自体の目的に翻弄されたり、戦略的に追い詰められてビートバスターの助力を借りたりといった、ストーリー上でのゴーバスターズへの配慮も良く、ありがちな「チートな追加戦士」、「いきなり弱くなる主役陣」という傾向が完全に廃されているのが特筆モノです。巨大戦含め、それぞれに見せ場があって良かったと思います。

 逆に今回、圧倒的に不足しているのは、追加戦士登場のケレン味。大げさな演出を敢えて避けているのか、全体的に地味に感じられます。これは、「ゴーバスターズ」全体の雰囲気を統一する為には必要な措置だったのだと思いますが、それでもやや寂しいかも。近年の追加戦士が、「車の戦隊に航空機の追加戦士」、「侍に憧れる寿司屋」、「古風で頑固な騎士」、「ケレン味の塊」といった、派手な連中のオンパレードでしたから、やはり相対的に地味に感じられざるを得ません。

 次回以降、陣マサトが秘める謎が少しずつ明かされるわけですが、1クールを終えて一旦落ち着いた感じに、どうドライブがかかってくるか、楽しみですね。