第9話「漆黒のウルトラ兄弟」

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 第8話からは、シリーズ完結後しばらく経過した後の記事です。出張時期と重なって、書くのが非常に困難だったもので...。

 今回は「ギンガ」全編通して最大の危機編ではないかと思います。

 最終話は、活動不能となったギンガに大逆転の瞬間が訪れるという構成になっており、勿論そこに「最強の敵を迎えての最大の危機」が描かれているわけですが、最終話だけあって予定調和にならざるを得ない事は至極当然で、今回の危機描写とはかなり方向性が違います。

 その危機感の一端を確実に担っているのは、やはり美鈴の父がライブするウルトラマンダークとウルトラセブンダークでしょう。ダークザギのカラーリングを踏襲したその禍々しいスタイルと、そのラフなファイトスタイルが鮮烈。美鈴の父・誠一郎が取り憑かれた狂気とも相俟って、これまでで最もエキサイティングなエピソードとなりました。

 今回の肝は、そのダーク兄弟とのバトルに集約されます。

 誠一郎がウルトラマンダークとセブンダークを自在に使い分けるシーンは、そのビジュアルエフェクトとサウンドエフェクトの巧みさによって、より鮮烈なシーンとして完成。これで灰色ホリゾントを何とかしてくれれば...(笑)。エフェクトの完成度は、円谷プロのプライドを見せてくれるかのような素晴らしさに満ちていますが、セットのスケールをカバーするまでには至っていないように思え、ちょっと残念です。逆にグリーンバックによるシーン作りの完成度が異様に高いので、余計にギャップが見えるんですよね。また、セットに飾り込まれているミニチュアの完成度は、現在の感覚からすると全話通して高く、贅沢に思える為、ステージの狭さがホントに残念なんですよ。ロングで捉えるシーンが少ないので、画面の変化をギミックで見せていくしかないわけで。その制約が面白いカットを生み出してはいますが、個人的には今一歩に思える部分が多いです。

 話が逸れまくりましたが、ダーク兄弟のアクションは本当に素晴らしい!

 わざと美しくないパワースタイルで叩きのめし、関節を効果的に攻め、倒れた後もなおストンピングで打ち据えるという残虐ファイトは、そのシルエットがウルトラマンであるだけに強烈なインパクトを持っています。光線もちゃんと発射するカットがあり、音声もオリジナルの掛け声を低めにチューニングしたものが使用されていて、元になったスパークドールが本人である事を理解させます。

 割と余裕ある動きで相手を牽制しつつ、時にアグレッシヴに攻めるスタイルを採るギンガですが、今回は完全に翻弄されており、正に手も足も出ないといった状態でした。これまでも危機描写はありましたが、ここまで「叩きのめされる」という描写はなく、いかに特殊であるか、即ちターニングポイントとなる話なのかが分かります。

 ちなみに、美鈴の父がダークライブする際の狂気に満ちた目は、さすが野村さんといった処。自らを「支配する側」と呼び、他の人間を見下す視線をも表現しており、今回の構図を如実に示す演技となっています。

 もう一つの肝となるシーンは、ヒカルが昏倒し、ギンガスパークとダークダミースパークの相互作用によって、意識下で美鈴の父と対話を果たすくだりです。

 これは前述のダーク兄弟のバトルに付随するものとして位置づけられます。実際のバトルが肉弾戦ならば、こちらは精神戦という様相だからです。なので、前述した「集約」という表現に変更はありません。

 さて、こちらの「精神戦」は、美鈴の父とヒカルのイデオロギーの相違というには、少し肌合いが異なります。前回、大人と子供の考え方のギャップが示されましたが、今回はそんな単純なものではなく、力を有する者が立つべき場所を、狂気を礎とした解釈によって理解してしまった「親」と、家族というもっと皮膚感覚的な解釈で拒否する「子」の対比です。

 ここでの問題は、両者が親子の葛藤を演じるに当たって、親子ではないというズレがある事です。故に、ヒカルは美鈴の恋人というポジションを獲得し、美鈴と感情を共有する必要があったわけですが、如何せんそこに至る尺があまりにも短い為、その辺りが弱くなってしまいました。また、友也の親子が、精神性は全く別物ながらも似たような構図で既に描かれていた事もあって、やや既視感も。ただ、美鈴の和菓子にかける想いが、父親の帰還を願っての事だと説明された点で、ある程度の弱さはカバー出来ていたのではないでしょうか。美鈴の「夢」にテーマを収斂した構成力は見事でした。

 まぁ、後は仕事の鬼が自分を見失ってしまうという、オーソドックスな葛藤の翻案になるので、コミカルな要素や大逆転のカタルシスを導入して、解決を派手に盛り上げる手法になっていました。それが、後半のダーク兄弟とのバトルの高い完成度へと繋がります。

 途中の「コミカルな要素」は、黒木がライブしたアントラーの磁力光線で、カッキーと友也が下腹部(実際はベルトのバックル?)をくっつけ合ってしまうという、「これでいいのか」的なギャグシーンと、ジャシュラインに三人でライブした健太、千草、美鈴の奮闘振り。

 友也に関しては、ギャグシーンにおける、その物凄く不機嫌な表情と、ジャンナインが起動可能となった際に見せる嬉しそうな表情のギャップが素晴らしく、彼のキャラクターの深みが一気に増した印象。ただ、ギャグシーンを含む磁力光線の被害シーンは、やや冗長に思えました。

 一方、ジャシュラインに関しては、三人のヒカルの力になりたい、あるいは学校を守りたいという心意気は買うものの、あまりにもギャグに走りすぎていて、あまり役に立たないのが残念。この辺りは、Blu-rayのライナーノーツに記されていたシナリオの変更によるのでしょう。ただし、それだけに次回以降の三人の活躍が爽快になるという事もあるのですが。

 結局、アントラーは、復活したヒカルがギンガにライブして倒すのではなく、横槍としてセブンダークのワイドショットが炸裂する事で倒されます。この「ズラシ」はなかなか爽快。その後、再びギンガ VS ダーク兄弟に突入するわけですが、今度は美鈴を軸とした両者の想いの違いがヒカルを有利に導き、ギンガの勝利となります。単純な戦力の優劣で片付かない勝敗には、「ギンガ」のテーマ性が強く感じられるのではないでしょうか。

 結果、父がダーク兄弟にライブしていた事を知り、美鈴は闇に引き寄せられてしまうのですが、ここでナックル星人が用いた「同じ血が流れている」という言葉の悪辣さよ! 「帰マン」の頃から変わらない狡猾さに嬉しさを覚えました。

 最後に一つ、結局今シリーズでは回収されなかったホツマの正体。今回より謎を深める形で投げかけられています。タロウを知っていて、ギンガの紋章が手の甲に浮かぶという意味深なシーンがそれです。タロウの人形がわざわざ正座のポーズをとらされていたりと実にコミカルなシーンですが、ホツマをより正体不明の人物に仕立てるには充分なインパクトがありました(笑)。しかも、このホツマの扱いは、当初の予定になかったそうで。津川さんの存在感に引っ張られたんでしょうね。