その47「ピカピカ!俺の道」

 メレを連れ去ったロン。メレを救う為、力を合わせる時だとするゲキレンジャーだが、理央はロンの思い通りになりたくないとして去っていく。

 ゲキレンジャー達は、メレを救出すべく臨獣殿に乗り込む決意だ。スクラッチにバエが現れ、臨獣殿に案内すると言い出す。ジャンは、理央のことが気になって皆に同調できない。シャーフーは自分がマクを救えなかった経験から、ゴウはかつて理央を止められなかったことから、ジャンの気持ちを理解した。

 メレは、理央が自分にこだわっているというロンの言を信じられない。ロンはメレをジワジワと痛め付けるが、メレは「理央様に助けて欲しくなんか、ない!」と呟き、それに耐えていた。

 ラン、レツ、ゴウ、ケンの4人は臨獣殿にやって来た。本殿に辿り着くには、正面突破あるのみ。リンシー達をなぎ倒してやって来た本殿には、サンヨが待ち構えていた。ゴウとケンがサンヨを押さえている間に、ランとレツは本殿の中に踏み込む。自分を心配したバエがランとレツを連れてきたと知るメレ。「今は君を助けたい」メレに向けたランとレツのその言葉に、ロンは怒りを露わにする。

 一方、理央は自らの生きている意味を見出せず、雪山の中に立ち尽くしていた。ジャンは「自分の気持ち信じて、ワッシワッシで乗り越えるしかない」と理央を諭すが、理央はメレの事を単なる配下だと頑なに言い張る。理央は、自分の強さも感情も全てが仕組まれたことだったと知った時の気持ちを、ジャンが分かる筈もないと言い放つ。それを聞いたジャンはいきなり理央に殴りかかった。理央もそれに応じる。ジャンは殴ることで理央の怒りを誘ったのだった。それは、ロンに関係ない理央自身の気持ちだ。それを「ピカピカの、お前だけの気持ち」だと言うジャン。理央を悪の道に走らせ、自分の父母を奪ったロンを倒すことこそが「俺のピカピカの道」だとジャンは言う。

 ランとレツは、ロンの圧倒的な力の前に敗れ、捕らわれの身となってしまった。そこへジャンと理央が現れ、ロンを一蹴する。メレを助け出した理央に、メレは「どうして?」と問う。理央は「俺に理由を言えと言うのか」と言い、メレをそっと抱きしめた。

 ロンはなおも幻獣王の道へといざなおうとするが、理央とメレはグリフォンそしてフェニックスの獣人態となり、幻気を吹き飛ばし始めた。その姿は、黒獅子とカメレオン拳の獣人態へと変わる。驚くロンに2人は、これが理央の意志、そしてメレの愛なのだと言い放つ。

 ロンは全員を亡き者とし、新たな破壊神を育てる計画を立てる。そこへ理央、メレ、ゲキレンジャーが勢揃い。サンヨをラン、レツ、ゴウ、ケンが、そしてロンをジャンと理央、メレが迎え撃つ。サンヨの重力を操る強力なゲンギの前に、ラン達は苦戦を強いられるが、「借りを返しに来た」と言うメレの奇策によって形勢を逆転、次々と必殺技を決めてサンヨを打ち破った。

 一方のジャンと理央もロンの力の前に苦しい戦いを繰り広げる。だが、ロンへの激しい怒りと強い意志によって、ロンを一気に追い詰めていく。「これが、獣拳だ!」2人の力はロンに反撃の隙すら与えず、ロンを一敗地にまみれさせた。

 しかし、ロンはなおも巨大化して襲い掛かる。ゲキレンジャーと理央、メレはサイダインとゲキビースト、そしてリンビーストを合体させ、サイダイゲキリントージャを完成させた。最強の幻獣を自負するロンは余裕を見せつつ襲い掛かる。だが、一つとなった獣拳の力はそれをものともせず、砕大激臨斬によってロンを下す。ロンは「面白い」と叫びつつ爆発して果てた。

 理央はこれからの道を考えたいと言うが、何とジャンは理央とメレをスクラッチに誘う。複雑な表情を見せるランとレツを尻目に、ジャンは無理やり理央とメレを連れて行ってしまう。

 その頃、倒されたと思われていたサンヨは、地の底から蘇った。「サンヨは何故だか不死身ヨ~」サンヨは不気味に咳き込む...。

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
荒川稔久
解説

 真の巨悪であるロンに、ジャンと理央が戦いを挑むという、最終回的な盛り上がりを見せるエピソード。これまで多少の設定の破綻を含みつつも、丁寧に積み重ねられてきた両獣拳の代表である、ジャンと理央のドラマが、一つの帰結点を迎える名編だ。謎の殆どは前回で解明されたため、全編が問答無用の快進撃。理央の逡巡からロン撃破までを一気に見せる。

 前半では、メレを奪われた理央の逡巡が描かれる。ここでの理央は、ロンにアイデンティティを奪われたと思い込む、弱い男だ。メレを愛しつつも、それを単なる配下と見做して否定するという、ともすれば笑ってしまうようなシチュエーションだが、真っ白な銀世界に理央とジャンを立たせることで、その空虚さ、そしてこれから見つけるべき道が目の前にない状態を巧く表現している。理央役・荒木氏が感じた寒さは想像するに余りあるが、これがロケーションの勝利であることに論を待たない。

 ここでのジャンの説得が実に良い。ジャンは流暢ではない。だから、同じ境遇同士、高みを目指す者同士、敵としてぶつかり合った者同士として、殴りかかるという行動に出る。理央の負のエネルギーとして描かれてきた「怒り」を認識させることで、理央に自分の感情が自分のものであるということを理解させるというこのシーン。理央を代表する最も基本的な感情を、ジャンが巧みに利用したという点で、「戦隊レッド」の確かな完成を見たと言っていいのではないだろうか。説得というよりは諭すといった趣であり、苦難を乗り越えてきた者が持つ優しさと強さが滲み出ていたように思う。同時に、ぶつかり合った者でしか分かり合えないものといった雰囲気も醸し出す。格闘技系のドラマにはありがちのパターンだが、ここでは素直に描くことでそのパターンが生きているように思う。

 同時進行で展開されるのは、ゲキレンジャーの臨獣殿乗り込みである。ドロウとソジョのエピソードで、ゲキレンジャーが瓢箪に閉じ込められたシーンに登場する「ラボ」は、臨獣殿の中にはなかったことにされているようだが、ここでの盛り上がりに水をさすような野暮なツッコミはこの際置いておく。この乗り込みでは、多数のリンシー達を素面アクションでなぎ倒していく勇壮なラン、レツ、ゴウ、ケンを見ることが出来、その満足度は高い。それぞれがちゃんと各々の拳の特徴を踏まえているところも高ポイントだ。戦隊シリーズのクライマックス近くでは、素面によるアクションが多数挿入されるという「お約束」があるのだが、ゲキレンジャーとて例外ではないということだ。続いて本殿の門前ではサンヨが待ち構えており、それをゴウとケンが抑え、ランとレツに突入させるという流れが泣かせる。ここではメレ救出が優先であり、メレに対して当初から関わってきた2人が色々な思いを抱いて突入するのは自然な成り行きだ。こういった細かい配慮が、アクション主体のドラマに引き込まれる要因になっているのだ。ここではバエも登場。いつしかバエがメレに対して愛着を持っていた(決して好きなわけではないところがウマい)ことも明かされ、「今は」メレを助けたいと言い放つランとレツの苦闘を見るにつけ、とうとうメレは「カクシターズ」ではなく「ゲキレンジャー」と呼ぶのである。この流れの秀逸さは筆舌に尽くしがたいものだ。

 残念ながら、ランとレツはロンに囚われてしまう。だが、その直後のジャンと理央突入から、理央がメレを抱きしめるシーンへの凄まじい盛り上がりを考えれば、ここは犠牲となっても仕方がない。あらゆる迷いから解き放たれた理央の表情は、臨獣殿の頭首のものではなく、一人の獣拳使いのものになった。これは誇張ではなく、荒木氏がそう表現しているのだ。理央というキャラクターの骨子を崩さず、精神の変転を見事に描出しているのだから、これは凄いことだ。

 そして、理央とメレは幻気を捨て、元の黒獅子とカメレオンに戻る(荒木氏自らスーツを着込んでいるシーンも要チェック!)。これまでも、利害が一致したときにはゲキレンジャーと共闘してきた彼らだが、今回は7人が並び立って名乗るという場面を見せることで「呉越同舟」でない「獣拳」の融合が描かれる。咆咆弾と剛勇吼波の同時攻撃や、ゲキレンジャーの円陣からメレが飛び立つという、夢のような場面が続出する後半は、アクションに次ぐアクションにも関わらずそれぞれの戦う意思まで感じさせるものとして仕上がり、見る者を引き込んでいく。アクションに拳法色よりも戦隊カラーが色濃く出ていると感じたが、それもその筈、アクション監督は新堀和男氏であった。

 巨大戦では、サイダイゲキリントージャが登場。前述と重複するが、ここでも「呉越同舟獣拳合体」ではなく、単に「獣拳合体」としており、この時点でも互いが敵味方を超越していることを顕している。今回、バエの興奮振りは視聴者の興奮とシンクロしていたように思う。それだけ、ロンが憎まれ役になっていたということも言え、それはロン役の川野氏の得体の知れない魅力が突出していたことの証だ。敗色濃い折の絶叫も凄まじかった。

 サンヨ、そしてロンを打ち破り(?)、ジャンは理央とメレをスクラッチに誘う。ここでの各々の反応が面白い。

 メレは「江戸時代に飛ばされた時みたいに暮らせたら~」などと妄想中で、これが実に可愛らしくて可笑しい。理央は困った顔をしつつも、既にジャンにリードを許している様子で、こういった穏やかな面こそが理央の基本的な姿なのかも知れない。

 ゴウは、元々親友である理央が「戻ってくる」ということで、かなり歓迎ムード。ゲキレンジャーの中で唯一人の「兄弟子」である彼は、いつも隊列から少し離れたところに居たが、こういった場面に無邪気さが見られてイイ。ケンに至っては、物事にこだわらない彼らしく、すっかりジャンに同調して歓迎ムード。実にケンらしい。

 そして、ランとレツは複雑な表情を浮かべる。この表情には、第1話からの積み重ねが生きている。ランとレツにとっての仇敵は、長らく理央とメレその人であり、ジャンやゴウのようにロンによって人生を狂わされたわけではないのだ。掌を返すように理央とメレを歓迎するわけにはいかない。予定調和陥らないこの展開には唸らされた。考えて見れば、ロンの動きの中だけを考えればランとレツは (あるいはケンも)「蚊帳の外」であり、理央とメレを介すことでその流れに触れているキャラクターだ。そうなれば、ランとレツの「決着(落とし前とも言う)」は、理央とメレに対して付けなければならない。それが、次回である。次回への引きとして実にさりげなく、また印象的なシーンであった。

 それにしても、この最終回のような盛り上がりを持つエピソードの後に、「落とし前」のエピソードを持ってくるとは恐れ入る。それだけ最終回に至る流れに自信があるのか、それとも? とりあえず、残されたあと2回を存分に堪能したい。