その43「ハピハピ!メリークリスマス、押忍」

 ケンとピョン・ピョウは、クリスマスの買い物に出かけていた。途中、売り物のケーキをわざとひっくり返した外国人の少年・カールと出会う。カールは「I hate Christmas(クリスマスなんて嫌いだ)」と言うが、ケンは「クリスマスパーティをしたいけど、貧しくて出来ない」と的外れの訳を披露。ケンはサンタクロースに扮し、ピョン・ピョウはケンによってトナカイに変装させられる。

 一方、メレもクリスマス気分に浸っていた。ロンはスウグの双幻士である、幻獣ケルベロス拳のコウと幻獣ハヌマーン拳のシュエンを理央に紹介する。理央はシュエンを街に派遣した。

 スクラッチではクリスマスパーティの準備が着々と進行していた。半ば無理やり連れてこられたカールは、何となく迷惑そうな顔をしていたが、遂にクリスマスツリーを倒して出て行ってしまう。ケンとピョウはカールを追った。その頃、街ではシュエンが大勢の分身を作り出し大暴れしていた。ケンを除くゲキレンジャーは迎撃を開始する。だが、戯れつつ大勢の分身で襲い来るシュエンは、倒しても倒しても片付かない。ランが根性で全滅させると宣言し勢い付いたゲキレンジャーは、遂に最後の一人まで追い詰める。だが、渾身の一撃で倒したシュエンも、やはり分身であった。シュエンは街を炎に包んで阿鼻叫喚のクリスマスにしてやると息巻く。

 カールを見つけたケンとピョウの元に、リムジンに乗ったカールの父親が現れ、2人は邸宅に招かれた。カールの父親はノース共和国の親善大使。貧乏だというケンの思い込みは全くの的外れであった。父親の話によると、カールは去年のクリスマスイヴに交通事故で母親を亡くしており、それ以来クリスマスが嫌いになってしまったのだという。ケンは母親に会わせてやると言い、自らカールの母の扮装をするなど突拍子もない行動で励まそうとするが、当然カールは怒って飛び出して行ってしまった。ピョウは頭を抱える…。

 「マイウェイをゴーするんだ。そうすりゃあ、キラキラのハピハピになれるんだよ」カールを捕まえたケンはそう諭す。ケンもカールと同じくらいの年頃に母親を亡くしたが、獣拳に前へと進むことを教えられたのだという。

 そこへ、シュエンが出現。ケンはゲキチョッパーに変身し、カールに自分の戦う姿を見せた。カールはケンの戦う姿を見て徐々に明るい表情を取り戻していく。ジャン達も合流したが、ケンはジャンのスーパーゲキクローを奪い取り、自ら過激気を研鑽してシュエンに渾身の一刀を見舞った。カールは笑顔を見せる。

 シュエンはしつこく巨大化して襲い掛かった。ゲキファイアー、ゲキトージャウルフ、サイダイオーで一気に勝負をつけようとするゲキレンジャーに、シュエンは身軽さを発揮して攻撃をかわしまくり、火炎放射で攻撃した。怒ったケンはサイダイオーの力で巨大な氷にシュエンを閉じ込め、サイダイゲキファイアーで止めを刺す。

 その夜、カールの家にスクラッチの面々も招かれ、パーティが始まった。ケンはサイダイオーで巨大な氷塊を作り出し、砕大剣で彫刻を施す。それは、巨大なカールの母親の氷像であった。ピョウはトナカイに扮し、夜空に花火で「Merry Christmas」のイルミネーションを施した。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
小林雄次
解説

 極めて東映ヒーロー的にオーソドックスなクリスマス編。幻獣拳登場以来、影の薄かったケンにスポットを当て、ケンの魅力を再確認している。偶然か故意か、エンディングの「キャラソン七番勝負」もケンの「そういうコトも あるだろよ」になっており、歌詞の内容も相俟って、トータルイメージの統一感は随一となっている。

 「オーソドックス」「ステレオタイプ」といった言葉が褒め言葉として似合う今回だが、まずはカールというキャラクターに工夫が見られる。ケンと絡み、クリスマスという題材を生かす存在として、英語圏の少年を出演させるというアイディアは、次の5つの成果を挙げている。

 まず、ケンのいい加減ぶりを引き立たせること。これは、英語力に乏しいにも関わらず、独自の訳によってカールを強引にパーティへと誘った行動に現れている。単純なコミュニケーションの齟齬が生み出す可笑しさが分かりやすい。

 次に、親善大使という地位を用いることにより、裕福な家庭がイヤミになりにくいこと。これはクリスマスを題材とするに、意外に重要な項目かも知れない。

 さらに、ケンが母親に変装(?)するシーンでの可笑しさが際立つこと。日本人女性を模しても、ケンの髭が十分なギャップを生み出すのは間違いないが、金髪になることでより凄まじい絵面となり、可笑しさも倍増する。

 そして、ケンがサイダイオーで作り出す氷像に説得力が生まれること。何となく「女神像」な雰囲気があるため、「欧米」だとさらに説得力がある。

 最後に、クリスマスという元来ヨーロピアンな香りのするイベントに、相応しい雰囲気を与えてくれること。「クリスマスが嫌いな少年」という、ある意味泥臭いネタがスタイリッシュに仕上げられているのは、カールの存在が大きい。

 というわけで、クリスマス編としては最適と言える基盤の上に、ケンのいい加減さと優しさ、そして天才振りが縦横無尽に描かれる。今回でより強調されるのは、ケンのいい加減さが、優しさと才能に直結したケンならではの個性だということだ。カールが「パーティをしたがっている」と曲解してしまうところからは、人情ドラマ好きが伺え、出来るかどうかも分からない過激気研鑽を「気合」で達成してしまうところからは、自らの才能を信じている(決して過信はしていない)面が垣間見られる。人が困っている姿を見ると、いてもたってもいられなくなる性格は、下町育ちのイメージが色濃いケンならではで、本エピソードはケンの魅力を最も的確に描いたものだと言っていいだろう。

 過激気を研鑽し、サイダイオーで氷塊を作り出す。これらの技にはクリスマスならではのイルミネーションを付加され、画面が豪華な仕上がりとなっている。ケンの成長振りは目を見張るものとなり、ジャン達に一歩遅れをとっている感のあったケンを強化することで、チーム内戦力差を解消する目的もあったものと思われる。幻獣拳登場から、ジャン達は過激気をいつの間にか研鑽できるようになっており、ケンのポジションが無意味になってしまうきらいがあった。これを解消するには、ケン自らが過激気を出せるようにならなければならない。多少の矛盾はあれど、ケンの「気合で解決」のいい加減さと、「アメイジング・アビリティ」ならではの才能で、そのあたりを強引に突破。この図式は批判するどころか痛快の域に達している。ゲキレンジャー側も双幻士に対してむやみに苦戦することのない磐石の態勢が整い、いよいよクライマックスに向かう雰囲気作りが出来上がってきた。

 ピョン・ピョウがケニア在住のクセに、英語を理解できないのは何故かというツッコミは置いておくとして、ガゼルをトナカイに見立てたところは見事に可笑しい。ギャグキャラ扱いの上、三山戦を経験していないケンが過激気を出せるようになっており、ますます拳聖の立場は危うくなってきたわけだが、良き先輩的な立場は十分に獲得していると思われる。逆に言えば、こういうスポーティな人間関係こそゲキレンジャーというシリーズに相応しいものではないだろうか。

 さて、臨獣殿側もクリスマスムード…なのはメレだけで、他は普段と変わらず。双幻士としてシュエンとコウが登場し、幻獣拳13の流派は全て出揃ったことになる。だが、この時点では既に多くの双幻士が散っているため、単なる新怪人登場になってしまっているのは残念。幻獣拳登場時に幻獣王の星と周囲の12の星が描写されたが、周囲を囲む星は次々と輝きを失っているわけで(輪廻の業を背負うという点では、輝きは失われていない可能性もあるが)、少々寂しい感じがしないでもない。13人の幻獣拳の使い手が並び立つ壮観も見てみたかった。

 メレは完全にギャグキャラ扱いであり、臨獣殿の歴史を無視したクリスマスへの傾倒振りが実に可笑しい。後半にはサンタクロースのコスプレで登場し、見る者に良質な衝撃を与えた。メレのパーソナルカラーであるグリーンと、サンタのコスチュームの赤がクリスマスらしいコントラストを有していて、単なるギャグシーンを超えたサービスシーンとして映えている。バエを胃袋ではなくサンタの白い袋に収めたメレ。理央には相手にしてもらえたのだろうか。