その42「ワッシワッシで乗り越えろ!」

 メレの爆撃により、崖から落ちるジャンとシャーフー。メレは、不甲斐ないジャンが理央の認めた男であるという事に、尋常でない苛立ちを感じていた。

 一方、ジャンを除くゲキレンジャーもドロウとソジョの猛攻に苦戦。遂には泥粒子を浴びて消えてしまい、瓢箪の中に閉じ込められてしまった。街の人々も同様に瓢箪の中に閉じ込められ、悲鳴を上げ続けさせられていたのだ。ロンはゲキレンジャーを封じ、ジャンが戦いの場から逃げ出したとして勝ち誇る。理央にその結果を誇示するロンだが、理央は「甘く見るな! あいつは死なない。この俺が倒すまでな」と言って微笑んだ。

 理央の確信どおり、ジャンは崖の下で生きていた。シャーフーは「ウジャンウジャン」な状態のジャンに「まだ頑張る気はあるか」と問う。ジャンは、ダンの村があった場所まで、シャーフーを背負っていくことを決意。険しい断崖絶壁を登り始めた。ジャンの様子を知らないゲキレンジャーは、瓢箪の中でただジャンを待つしかない。だが、ゴウはジャンが戻ってきてこの状況を打開すると確信していた。

 ジャンが辿り着いた先には、村などなく、土砂と土煙にまみれた荒野が広がっていた。シャーフーによれば、ダンの暮らす激獣拳使いの村があったのだが、大嵐による土砂崩れで全滅したという。ダンが理央に倒された直後のことであった。ジャンは一人だけ生き残り、ジャンが育った森に辿り着いたのである。ジャンはふと、新木にぶら下がったロケット(写真を入れるペンダント)を発見し、駆け寄った。鎖が切れてジャンの掌に落ちてきたロケットはひとりでに開き、幼子を擁した一組の家族の写真が見える。そこには、赤子のジャン、父親であるダン、そして母親であるナミの姿があった。「ニコニコだ。家族のニコニコだ…」ジャンは思わず涙を流す。ロケットには「我が子ジャンの行末に明るき道を ダン・ナミ」と刻まれていた。ジャンは心底、崖を登ってきて良かったと感じていた。

 ロンは理央の目前でジャンを侮蔑する発言を繰り返していたが、遂に理央は怒り、ロンを吹き飛ばす。「奴は強くなって、再び俺の前に現れる」理央はそう予感していた。

 シャーフーは、挫いていた筈の足で軽々と歩いて見せた。「これで背中は軽くなったじゃろう」とシャーフーは言う。ジャンが危険な目に遭いつつも自分を背中から下ろさなかったのは、自分を大切に思う気持ちがあったからだと、シャーフーは説く。ダンに対する思いはどうかと問われたジャンは、「大切な父ちゃんが残したズシズシは、大切なズシズシだ」と答える。ジャンは「ワッシワッシで乗り越えるとニコニコが待っていた」と、再び戦う決意を固めた。ジャンはゲキチェンジャーを手に、仲間の元へと向かう。

 ジャンを見送ったシャーフーは、丘の中腹に削り取られたような跡があるのを発見。さらにそこには、金色に輝く鱗のようなものが残されていた。

 ジャンはドロウを急襲、瓢箪の中から仲間と人々を助け出す。5人揃ったゲキレンジャーは、復活したジャンを筆頭に、ドロウとソジョを追い詰めていく。そして、遂にジャンが過激気研鑽によってドロウとソジョを粉砕した。どこからともなく現れたロンは、気に入らないジャンにまとわり付いて苦しめた後、自分の不甲斐ない双幻士に幻気を与え、巨大化させる。

 巨大化したドロウとソジョを、ゲキレンジャーはゲキファイアーとゲキトージャウルフ、サイダイオーで迎え撃つが、ドロウとソジョの合体攻撃で合体を解除されてしまう。だが、ゲキレンジャーは全ゲキビーストを結集させてドロウを粉砕、サイダイゲキトージャでソジョを倒した。

 戦いが終わり、ジャンの復活を喜ぶ面々。だが、ゴウだけは少しだけ表情を曇らせた。シャーフーは美希に「不穏な空気を感じてならん」と安心できない心情を語るのだった。

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
荒川稔久
解説

 ジャン復活編。ヒーローが挫折から立ち直るエピソードとしては、比較的オーソドックス。というより、王道そのものの展開である。実質、エピソードの大半をジャン復活に至るプロセスに当てている上、ジャンにとっての敵となる対象として存在感を発揮しているのは理央のみだという、単体ヒーローと見紛うほどの徹底振り。しかしながら、ストーリー自体や演出の完成度も高く、感動を呼ぶ名編となっている。

 幻獣拳登場に伴い、ゲキレンジャー自身も格段のパワーアップを遂げたからか、マスター・シャーフーの存在感というものが今ひとつ希薄になってしまっていたが、やはりジャンの師匠はシャーフーであった。シャーフー特有の、過程では直接の効果が見えない地味な修行が描かれ、ゲキレンジャーを当初より追ってきた者にとっては懐かしさを覚えるものとなっている。その修行とは、シャーフーを背負い、ひたすら崖を登ってダンの暮らしていた村にたどり着くという内容(途中のメレの襲撃は予定外だったようだが)なのだが、この一見単純な行為の中に、シャーフーは効果的にメッセージをこめている。

 一つ、大切な人(この場合シャーフー)を思う気持ちを、無意識のうちに自覚させる(ダンの気持ちにダブらせる)。

 二つ、ジャンが背負い込んでいる宿命を、シャーフーという実際の重量に転化させる。

 三つ、崖を登るという行為で、乗り越えるという行為を身体の感覚として体験させる。

 四つ、辿り着いた先に待つものにより、カタルシスを生む。

 ゲキレンジャーで数多く描写された修行の中でも、一級のメッセージ性と完成度を誇ると評価したいが、いかがなものだろうか。ここで特に重要なのは、シャーフーが足を挫いたというのが「ウソ」だということである。普通に考えれば、ジャンは怒って当然だ。だが、シャーフーが「ウソ」をついていたことが分かることで、ジャンの肩の力が一気に抜け、上記二つ目の効果が覿面に現れる。この構成は見事だ。上記四つ目の要素は、ジャンの両親が残したロケットを発見することでしか成し得ないものであるため、かなり偶然への依存度が高いのだが、これはダンやナミの思いが時を越えてジャンと巡り合ったと、ロマンティックに考えるのも一興ではないだろうか。

 一方で、ジャン以外のメンバーは少々手厳しい扱いを受けている。ラン、レツ、ゴウ、ケンの4人は、ドロウの作り出した泥粒子により、瓢箪の中に閉じ込められてしまい、瓢箪の中ではどうすることも出来ない。ロンが勝ち誇るのも当然といったところだが、ここで瓢箪ごとゲキレンジャーを潰しておかないところも、また悪故の愛すべき間抜けさが感じられて良い。ゲキレンジャーの悲鳴が極上だというエクスキューズがあるにはあったが。ゴウは一人、ジャンを頑なに信じ、他のメンバーに待つよう諭すのだが、ここには尊敬するダンという存在が大きく作用していることは間違いないだろう。ゴウもまた、図らずもジャンに宿命のタガをはめ込もうとしているのだ。ラスト、はしゃぐ4人を尻目に、一人だけ顔を曇らせたのは、ジャンにダンの影を追い求めた自分を悔いていたのかも知れない。あるいは、別の理由が隠されているのかも知れないが…。

 ジャンが単体ヒーローのようだったという冒頭の言は、戦闘シーンにも如実に現れている。

 5 人が並び立ち、同時変身。さらに、フルサイズで5人の名乗りを堪能できるという、戦隊ならではの実にカッコいいシーンは用意されたのだが、それはジャン単独の大活躍に対するある種の言い訳になってしまった感がある。そのシーンの直前、ジャンが人々を瓢箪から救い出すシーンがあるが、4人を助けた後、ジャンが人々をもゲキセイバーで助け出している。古い話で申し訳ないが、昔の東映ヒーローはこのあたりに気を使っており、助け出された他の主役メンバーが、それぞれの手で人々を助け出す描写が多かったように思う。そして、4人が傍観する(本当に傍観している!)中、ジャンは一人でドロウとソジョを追い詰め、4人が続けとばかりにほんの少しだけ(!)攻撃を加えると、後はケンがサイブレードをジャンに渡してしまい、過激気を研鑽してドロウとソジョに止めを刺してしまうのである。復活したジャンの凄まじい強さにインパクトを与える素晴らしい措置だが、戦隊という枠を逸脱しているのは否めないところだろう。むしろ、瓢箪の中で4人が動けないまま、ドロウとソジョを倒し、呪縛が解けて助け出されるという流れの方が良かった気もする。

 サイダイゲキトージャの登場も象徴的だ。ジャンは直前の戦闘で咆咆弾を繰り出しており、ダンと同じタイガー拳こそが自分のアイデンティティであると強調しているように見える。それ故、上半身がゲキタイガーの変形であるサイダイゲキトージャこそが、ジャン復活のシンボルだったと言えるだろう。

 さて、臨獣殿サイドの動きだが、まずはメレ。前回「理夫様の渇きを癒す存在に相応しくない」とし、執拗にジャンを襲撃した。今回、復活したジャンを見て喜ぶのかと思いきや、かなり「面白くない」表情をしていた。この演出は、理央の為にジャンが強くあって欲しい反面、理央がジャンしか見ていないことに対する嫉妬にも比重がおかれている、メレの複雑な心情を表現する秀逸なものであった。「それでこそ理夫様が認めた男」などという月並みなセリフを吐かなかったことは賞賛に値する。やはりメレはこうでなければならない。

 理央に特筆すべき点はないが、内心ではロンを信頼していない(というより、自分以外信じていない)ことを確認できる描写がいくつもあった。勝ち誇ったロンの報告を一笑に付し、ジャンを貶めるロンに一撃を加える。ロンは登場当初より胡散臭い印象を醸し出す演出が為されてきたが、ここにきてそれは一気にヒートアップ。理央がジャンにこだわることに対し、ロンはあからさまに毒づき始め、確実に何か企んでいることを匂わせている。一方で、さらりと流されてしまったが、ゲキレンジャーの前に、その人間態を現したこともトピックだ。シャーフーがダンの村の傍にある山の中腹に、えぐられたような跡を見つけ、そこで金色の鱗を発見したが、鱗を持つと言えば、蛇モチーフのサンヨか、龍モチーフのロンが真っ先に思い浮かぶ。ロンはやはり、一連の流れの裏を司っているに違いない。

 小ネタとしては、ドロウがデカマスターを演じた稲田氏であることの「楽屋オチ」なのか、「デリート」という言葉をそれらしい仕草で発するシーンがあった。ただし、ネットやPC用語を連発するというキャラクター性に起因するセリフでもあり、意図のない単なる偶然かも知れない。

 エンディングにおける「キャラソン七番勝負」。今回はゴウの「Wandering Wolf」であった。渋めの曲調がゴウに相応しい。