その29「グダグダヘレヘレ!ショッピング」

 操獣刀を持ってくるよう言われたケンは、レツを連れてどこかへ出かけたきり、なかなか戻ってこない。ケンは中華街の骨董屋に向かっていたのだ。獣源郷での修行に疲れたとき、骨董品の買い付けに来ていた老婆にそれを売り、10万円の対価を得たのだという。ケンは買い戻す為の現金やカードを所持していないため、レツを連れてきたのだ。骨董屋「含韻の幽玄洞」に来た2人は、主人である老婆・含韻に出会う。

 臨獣オーストリッチ拳のチョウダに、怒臨気が与えられた。秘密のリンギにより、ゲキレンジャー達を一気に倒すと意気込む。拳魔たちの態度が面白くないメレは、帰ってきた理央と出会う。理央はメレに「マクに悟られぬよう、操獣刀を探せ」と命じた。

 含韻に、操獣刀を買い戻しに来た旨を伝えるケンだったが、含韻は絶対に売ってやらないと言って逃げてしまった。何故か激獣拳使いを嫌悪しているようだ。ケンとレツは含韻を追うが、怪しげな仕掛けによって翻弄される。懸命に含韻の作った幻を振り払った2人は、ふとバット・リーと少女の写った古い写真を見つける。そこへバット・リーが登場し、2人に襲い掛かる。だがレツはその拳が贋物だと見抜いた。リーも含韻の変装だったのだ。妙にリーにこだわる含韻を怪しみ、リーとの関係を詮索するレツとケンに、含韻は「バット・リーは私を裏切ったんだよ」と漏らしてしまう。少女時代、リーに救われた含韻は、リーに大切なお守りを渡し、ずっと一緒に居ることを約束したのだが、激獣拳を極めるために突如居なくなってしまったのだという。何か思いついたケンは、含韻を強引にどこかへ連れて行った。

 同じ頃、街で暴れるチョウダを、ジャン、ラン、ゴウの3人が迎え撃っていた。チョウダの実力は大したことなく、3人にボコボコにされてしまう。見かねたメレが乱入するが、途端にチョウダは凄まじい強さを発揮、メレを突き飛ばしてしまった。驚くジャン達。チョウダに先程まで通用していた技がまるで通じなくなってしまったのだ。チョウダはリンギにより、相手の攻撃を受ければ受ける程強くなっていく。ランは一か八かで一気に止めを刺すことを提案。ジャンとランはスーパーゲキレンジャーとなり、ゴウとのトライアングル攻撃を一気に決めてチョウダを倒した。後のなくなったチョウダは巨大化して襲い掛かる。レツがいない今、ゲキトージャウルフで迎撃するしかなく、ゲキレンジャーは苦しい戦いを強いられる。

 ケンがやって来たのは、バット・リーの住処だった。含韻と再会したリーは、彼女に渡されたお守りにずっと守られてきたと言い、どんなに離れていても、心だけは一緒に居ようと決めていたと告げる。激獣拳に身を捧げた自分と一緒に居ては、含韻が不幸になると考えたのだ。真意を知った含韻は涙を流す。「女の子の涙は嬉し涙以外、この世から無くすのが夢」と言うケンに、含韻は感謝し操獣刀を手渡した。

 一方、苦戦するゴウ達にレツが合流し、ゲキトージャウルフとゲキファイアーの強力タッグが完成。さらにゲキバットファイアーとなり、一気にチョウダを追い詰める。チョウダは卵状の物体を産み落として果てた。卵状の物体が地中に沈み行くのを、誰も気づくことはなかった。

 戦い終えた4人にケンが操獣刀を持って合流する。得意気なケンはシャーフーに怒鳴りつけられ、操獣刀を売ったと知ったランには最低呼ばわりされるが、シャーフーは含韻の一件を解決したことでケンを赦す。メレは操獣刀を虎視眈々と狙っていた。

 理央はマクに何を企んでいるのかと尋問される。白を切る理央に、マクは戦いを挑むが...。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
荒川稔久
解説

 操獣刀を巡るドタバタ劇。全編がコミカルなシーンで彩られる、非常に楽しい一編だ。

 登場したばかりの5人目のゲキレンジャー・ケンにスポットを当てつつ、レツやバット・リーの魅力をも引き出す構成には脱帽。裏で蠢く臨獣殿各個の思惑も重厚で、ライト&ヘビーのバランスが素晴らしいエピソードだ。

 ケンの「グダグダヘレヘレ」な性格は、どうやらホンモノであったようで、よりによって激獣拳の至宝である操獣刀を売却し、その対価で豪遊していたというのだ。過去にも遊び人なヒーローは沢山登場してきたが、ここまで徹底しているのも珍しい。ただし今回、含韻との絡みでケンのロマンチストな面がクローズアップされており、単なる「トンデモヒーロー」ではないことが分かる仕掛けになっている。ケンのロマンチストな側面とは、「女の子の涙は嬉し涙以外、この世から無くすのが夢」というセリフで発露する。ここでのケンの行動は、操獣刀を取り戻すという本来の目的から外れたものだと言っていいだろう。含韻とバット・リーの関係を察知してからのケンの興味は、操獣刀ではなく含韻その人に移ってしまっている。そんなケンの言動は、「情けないが実力派」「自分勝手だが情に厚い」という絶妙なブレンド加減を体現している。近来稀な傑作キャラクターの排出だ。

 バット・リーの過去を含韻で炙り出しているのも嬉しい。リーと言えば、偏屈で頑固者でありつつスマートというイメージがあったが、そこに少しばかりのロマンスを持ち込んだことでグッとキャラクターの深みが増した。池田秀一氏の声で、どうしても「シャア・アズナブル」を連想してしまうが、シャアよろしく女性を図らずも翻弄してしまう様が笑いを誘う。リーの不器用さも浮き彫りにされ、トータルイメージは拳聖の中でも随一の好感度になったと言えよう。

 さて、本エピソードは強烈なキャラクター2人に支えられている。言うまでもなく含韻とチョウダだ。

 含韻は石井苗子氏のノリにノッた演技に裏打ちされ、多彩な表情を持つキャラクターとして完成。舞台演技っぽい無邪気な老婆の演技から、リーと再会した時のゾクッとさせるようなオンナの演技に至るまで、とにかく楽しませてくれる。石井氏自身のイメージからもギャップがあって面白い。いたずらっぽい笑顔は曽我町子氏を彷彿。是非とも再登場願いたいキャラクターだ。

 一方のチョウダは、うるさい程の喋りで魅せるキャラクター。デザインは順当な怪人のものだが、胸部からリアルなダチョウが顔を出していて、実にユニーク。そこにデフォルメされた名古屋弁がかぶると、何とも可笑しさに溢れたものとなる。最近のリンリンシーは、かなり損な役回りに甘んじてきたが、このチョウダは美味しい役どころに浴したと言える。その口調がメレにまで移ってしまうところも可笑しく、エピソード全体のコミカルなイメージの一翼は、臨獣殿でありながらこのチョウダが担っている。

 ケン、リー、含韻、チョウダがメインなので、ジャン、ラン、レツ、ゴウの4人はあまり目立たない...と思いきや、意外に見せ場が設けられている。冒頭の肉まんシーンでは各キャラクターがしっかり立ち、ランはケンを「最低~」と可愛らしく非難、チョウダとの戦闘は途中別の場面を挟みつつ、ほぼ全編通してアクションが連続する。特にアクションは、優勢、劣勢、逆転が鮮やかな流れを示し、それぞれの組み立て方も非常にウマい。さらに、激しいアクションの中でも各キャラクターのアイデンティティを余すところなく表現しており、元々完成度の高いアクションを見せる当シリーズの中でも、随一の完成度を誇る。

 レツは、バット・リー絡みということで今回見せ場が多い。ヤングゴールドカードを持っていたり、ヘンなことを口走ったりと、ケンとの行動の間に図らずもコミカルな一面が飛び出す。一番の見せ場は、含韻の化けた偽バット・リーとの一戦。往年のカンフー映画を思わせる華麗な立ち回りで(長椅子さばきが秀逸)、バット拳の中に忘我のないことを発見するシーンはカッコ良すぎる。ちなみにこのシーンでは、仮面を割るのに激気研鑽が用いられる。こういったキャラクターの生かし方は作品のスパイスとして非常に大事だ。

 全編がコミカルに推移する中、(メレを除く)臨獣殿では、何やら不穏な空気に包まれ始める。理央は秘密裏に操獣刀を入手せんと企み、マクは理央の腹の奥の何かに感付く。ロンはその様子を不敵な笑みを浮かべつつ見つめる。この三者三様の動きは重厚で、東映特撮シリーズで繰り返されてきた、悪の組織の内乱劇を彷彿させる。ゲキレンジャーは新風を数多く取り入れつつも、往年の東映特撮シリーズの香りを色濃く漂わせている正統派なのだと、改めて感じさせられた一編だ。