その25「ヒネヒネ!俺だけの紫激気」

 怒臨気を纏って蘇ったヒヒにより、ゲキレンジャー3人は傷を負ってしまう。特にランのダメージは大きかった。過激気で反撃すると息巻くジャン達だったが、マスター・シャーフーは、怒臨気によるダメージを受けた身体では過激気に耐えられないと諭す。ゴウを仲間に加えれば大丈夫だと確信するレツだったが、ゴウはゲキレンジャーに加わることを拒んだ。正義の為に戦うことは、ゴウのガラじゃないという。試しにゲキチェンジャーを使って見せるゴウだが、紫激気には反応しない。ゴウはスクラッチから去ってしまう。かつてシャーフーは「紫激気がお主を決めるのではない」とゴウに教えたことがあったが、ゴウはその意味を解していなかった。ジャンはゴウを「ヒネヒネだ」と評する。

 その頃、メレは怒臨気を理央にも授けて欲しいとマクに申し出る。マクはその申し出を一笑に付し、理央は人から与えられて強くなることを良しとせず、メレを叱責する。理央を怒らせたと嘆くメレに、ロンは「それでいい」と言い、ゴウの存在を教えた。

 自らの拳が汚れていると思い込むゴウは、なつめにその態度を咎められる。途端、ロンの気配が介在し狼男と化すゴウ。周囲が逃げ惑う中、なつめは恐れずゴウの手に触れた。元の姿に戻ったゴウは、なつめから逃げるようにして去る。そこにメレが現れ、ゴウに襲い掛かった。新たなゲキレンジャーとなる前に倒そうと言うのだ。追いついたなつめを襲うメレの舌を、ゴウは思わず掴み、なつめを抱えてその場から逃げた。

 ヒヒが街で暴れ始めていた。ジャン達3人は迎撃を試みるが、怒臨気の前に苦戦を強いられる。過激気を使おうとするランだが、ダメージが大きく危険だ。レツは、兄が仲間になりたくなるような自分たちを見せようと言い、3人は過激気を使わずに立ち向かう。追い込まれたヒヒは巨大化。ゲキレンジャーはゲキトージャを繰り出すものの、ランを泣き所と捉えたヒヒにより右足を集中攻撃されてしまう。

 なつめは、激獣拳は正義の獣拳なのに、何故メレと戦わなかったのかとゴウに問うた。なつめが激獣拳を知っていることに驚くゴウ。そこに美希が現れ、ゴウはなつめが美希の娘だと知り更に驚く。美希は「本当に他人の苦しみを見捨てられるの?」と問い、なつめを助けたことこそ正義と呼べる行いだと伝える。美希はゴングチェンジャーをゴウに与える。正義の意志で用いれば、紫激気も正しい力となる。それがマスター・シャーフーの教えだったのだ。ゴウはメレの出現と共に、ゲキバイオレットに変身する。理央は以前よりも強くなったゴウの力を感じていた。

 理央の感じたとおり、メレは激獣拳の使い手となったゴウの力の前に手も足も出ないまま、倒されてしまう。一方、ゲキトージャはヒヒによって獣拳合体が崩れようとしていた。そこに狼の鳴き声が響く。ゴウの呼び出したゲキウルフの登場である。ゲキウルフは獣拳武装によって、弱ったゲキチーターの代わりに右足に合体した。ゲキトージャウルフの誕生だ。ゲキトージャウルフは華麗かつ豪快な足技でヒヒを打ち破る。

 ゴウの帰還を感慨深げに見つめるシャーフー。そして理央は、ゴウが強くなったことに怒り、早くも怒臨気に目覚める。ロンはその様子を見て不敵な笑みを浮かべるのだった。

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
會川昇
解説

 新戦士ゲキバイオレット登場編。ゴウの顔見せから1ヶ月近く引っ張っての登場だ。新戦士追加のタイミングも、2クール中盤が戦隊シリーズ恒例のところを、2クール終盤(あるいは3クール冒頭)に持ってきた。逆に言えば、2クール丸々新戦士なしで鮮度を保ってきたわけで、これはなかなかの快挙と言って良いだろう。

 今回は、単なるイベント編の色合いにとどまらず、ゴウの紫激気を通じてゲキレンジャーというシリーズにおける「正義」を見つめなおすという構成をとっている。思えば、過激気の習得に関しても同様のプロセスが見られたのだが、臨気に近い激気という紫激気の特性を利用した作劇により、趣を異にすることに成功している。ゲキレンジャー3人に関しては、時折ポリシーの違いによる激突はあろうと、激獣拳としてのベクトルは揃っているわけで、いわゆる「危な気の無い」存在として描かれてきた。しかしゴウは、マスター・シャーフーの教えすらも容易に斜方から見つめる男だ。良く言えば確固たる我の持ち主であり、悪く言えば自己中心的である。紫激気に関しても、真っ当な激獣拳の道から逸れた時に習得されるものという印象で描かれている。

 ここで秀逸なのは、臨気というキーワードを持ち込んだことだ。激獣拳にとって臨気は「汚れ」であり、悪という概念の具体化であるかのような印象がある。それ故に、臨気の要素を含む紫激気を持つゴウは自らの拳を汚れていると感じる。ところが、マスター・シャーフーはもっと高い場所から獣拳を見つめており、紫激気は正しい心で使えば正しい力となると説くのだ。これは、臨気ですら正しい力になり得ると言っていると解釈できるだろう。獣拳の根は一つ、善悪の等価性はここでも顔を覗かせているのだ。

 過激気のエピソードから数回を経て、中盤の重要なテーマが現出してきたとも言える。それは「正しい心」「仲間」「守りたいという気持ち」など、ヒーローの代名詞とも言えるポジティヴな要素が、獣拳を強くするというものだ。理央がゴウの強さに戦慄するシーンをわざわざ設けていたり(怒臨気への導火線にもなるが)、メレを無情にはねつけるシーンが登場するのは、こうしたテーマ性を盛り込みたいが故だろう。破壊の為の強さと、守護の為の強さの違い、孤高であるが故の孤独を抱える者と、そうでない者の強さの違い。ゲキレンジャーと理央の間には、大きな溝がある。等しき者が意志により道を分かつという描かれ方が、分かり易い上に厳然としているのは、ゲキレンジャーというシリーズの美点であり魅力だろう。

 ところで、今回面白いのはゴウになつめを介在させているところである。ジャンの時もしかりだが、「問題児」に接して問題を解決してしまうシチュエーションが得意のようだ。今回は特に、なつめ登場当初のツッパった感じが復活しており、さすがのゴウもタジタジといったところか。一方、メレをひっくるめて「怖い女の子」と言うゴウも、なかなかにキザでカッコいい。

 そのメレだが、今回はまるで恵まれていない。マクに怒臨気の「お裾分け」を進言して、マクと理央双方から痛い目に逢わされた上、なつめを襲ってもゴウに阻まれ、挙句の果てにはゲキバイオレットにコテンパンに伸されてしまう。これまでメレはかなりの強さを見せ付けているだけに(「カクシターズ」発言も実力に裏打ちされていた)、ここまで手も足も出ないまま敗れてしまう様は衝撃的ですらあった。メレを倒したゲキバイオレットの凄まじい強さは、ボクシングのリング状のフィールドを作り出すビジュアル重視の面白さで、存分に描写されている。群がるリンシーを華麗なムエタイ風の技でなぎ倒していく様子は大変カッコ良く、一歩間違えれば珍妙な場面に見えるリングでの戦いを、アクションの説得力で押しまくり、バトルの一部として成立させているのが凄い。ゴングチェンジャーも小道具としてのインパクトをしっかり持ち、新アイテムお披露目の舞台も充分に機能していた。

 そしてさらに、ゲキウルフ、ゲキトージャウルフの登場まで一気呵成に突き進む。ヒヒは怒臨気という要素をあまり生かすことなく、この新キャラ大登場に埋もれてしまうという憂き目に逢う。ヒヒの扱いの軽さには少々残念な印象を抱かざるを得ないが、新ヒーローの圧倒的な強さを描く登場編とあっては、仕方のないところだろう。むしろヒヒの扱いの軽さに関しては、些細な指摘に過ぎないとしておく。

 ラストシーン、理央の突然の怒臨気習得が描かれる。少々急ぎ過ぎる感も否めないものの、これから先の怒涛の展開に期待を持たせるシーンでもある。次回への「引き」としても充分過ぎる仕掛けだ。