その22「キュイキュイ!セレブとデート」

 ゲキレンジャーに敗れた理央は、怒りを露にする。その怒りに触れた大地の拳魔の魂が、理央に呼びかけた。大地の拳魔の骸は、臨獣殿の地下に隠されていたのだ。ところがカタとラゲクは、大地の拳魔を蘇らせるのを待てと言う。もし蘇った暁には、理央を排除して臨獣殿の支配者となるだろうと言うのだ。しかし、理央はスーパーゲキレッドに勝つためならば、臨獣殿すらくれてやるとの覚悟であった。早速真毒で大地の拳魔復活を果たさんとする理央。だが、骸の胸の部分はえぐれており、そこにあった「イキギモ」がない限り、復活は果たされないのだ。その「イキギモ」は、激獣拳が所持している。

 スクラッチへ招聘されたシャッキー・チェンに、スーパーゲキレッドになるところを見せようとするジャンだったが、スーパーゲキクローは反応しない。ゴリー・イェンは、何のために過激気を欲したかとジャンに尋ねるが、ジャンは質問攻めに「ウジャウジャ」した。

 ところで、シャッキーがスクラッチに呼ばれた理由は、大地の拳魔の「イキギモ」を保管する役目を負っていたからである。ところが、シャッキーは、彼の住む青鮫島がかつて津波に襲われた際、大地の拳魔のイキギモを紛失してしまったと言う。ゴリーが差し出した雑誌には、名家・南北家に伝わる宝石「オーシャンズ・アイ」の記事が。南北家の先祖が海中で発見したそれを、一人娘・南北アリスが継承したのだという。ゴリーは、それこそがイキギモだと断定した。

 ジャン達3人は気まぐれなアリスと対面し、イキギモを譲り受けるべく、奮闘を開始した。

 一方、メレと臨獣ピッグ拳のタブーが、イキギモを探し出すべく行動していた。しかし、タブーは自らの食事にしか興味がなく、メレは単独でイキギモ探索を始めるのだった。

 レツは、得意とする絵筆をふるい、アリスの肖像画をプレゼント。しかし、アリスが芸術を解さないという気持ちで描いているのが透けて見えてしまい、アリスの機嫌を損ねてしまった。続いて、ランが百烈軒に招待。庶民の素朴な味ならば珍しがって感動してくれると踏んだのだが、ラーメンの食べ歩きが趣味だというアリスは、何度も百烈軒に来ていたようで、失敗。

 アリスはジャンを連れて強引にデートへと連れ出した。しかしまるで性に会わないジャンは、アリスを連れて公園内の木々深い「秘密の場所」へとやってきた。いきなり裸になって木に登るジャンに呆れるアリス。ジャンは「キュイキュイ」が沢山だという。「キュイキュイ」が大切なものだという意味だと知ったアリスは、自分にとっての大切なものを見つける術を知らないと漏らす。ジャンは川底からキレイな石を拾ってアリスに手渡した。代わりにイキギモを所望するジャンに、アリスは平手打ちを食らわし、キレイな石を川に捨ててしまった。

 そこへメレ達が登場。イキギモを奪った。スーパーゲキクローはまたしても反応しない。タブーはアリスを餌にすべく連れ去ってしまった。一方イキギモを入手したメレはタブーとは別の方向へ去ってしまう。ジャンはどちらを追えば良いのか、散々迷った挙句、アリスを追った。

 タブーは炎の中にアリスを落とそうとしている。タブーの攻撃の前に苦戦し、アリスを助けられないジャン。アリスが炎の中に落ちようとしたその時、ジャンは過激気を発現し、スーパーゲキレッドとなった。見事アリスを助け出したジャンは「イキギモよりお前がキュイキュイだ」とアリスに言う。そこにランとレツが合流、ゴリーが現れ「己のためでなく、大切なものを守りたいと強く欲した時、その正しき心にスーパーゲキクローが答える」と告げた。ランとレツもスーパーゲキイエロー、スーパーゲキブルーとなり、タブーを追い詰める。タブーはたまらず巨大化、ゲキレンジャーもゲキファイアーで応戦するが、弾力性のある体に攻撃を吸収されてしまった。そこでゲキファイアーをゲキシャークファイアーに獣拳武装させ、タブーを退けるのだった。

 アリスは、川からキレイな石を拾い出す。キュイキュイを見つけたのだ。

 その頃、臨獣殿では、大地の拳魔・臨獣ベアー拳のマクが復活。復活の地響きはスクラッチ社にまで響いた。悔いるジャンに、ゴリーは「君は正しい道を選んだ」と諭すのだった。マスター・シャーフーは、「トライアングルの先へと進化しなければならん」と告げる。美希は「ゲキレンジャーに新たな戦士を加える時」だと応えた。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
會川昇
解説

 大地の拳魔復活という、一大重要エピソードでありながら、ライトでコミカルな作風が異色の一編。敗退から修行、勝利までの流れがパターンとして確立したゲキレンジャーにおいて、このような一般的に戦隊らしいエピソードは新鮮に映る。勿論、ここ一番でのアクションの盛り上げや、ちょっとした危機演出などは効いており、異様なテンションだった過激気のエピソード直後の、一服と位置づけたにしても完成度は高い。

 今回の主役は南北アリス、そしてタブーだと言い切ってしまおう。

 アリスは典型的な、正にステレオタイプなお転婆お嬢様キャラクター。ここまで振り切れていると潔く、振り回されるジャン達の反応が面白い為、嫌味を感じない。普通は「拳魔のイキギモ」などと聞けば、気味悪がって手放すはずだが、そうはならないところに、アリスの性格設定の妙味がある。冒頭、アリスはイキギモを振り回して街を歩いている。ということは、イキギモに何の魅力も抱いていないわけで(つまりジャンが言うところの「キュイキュイ」ではない)、簡単に手放さなかったのは、イキギモを渡し渋ることで何か面白いことが発生しないかを待っていたからに他ならない。ジャンのような型破りの男に特に興味を持ったのは、そういう感情が根底にあるからだ。

 アリスのようなキャラクターにありがちな設定として、物質的には恵まれすぎているが、精神的には何らかネガティヴな面を抱えているというものがある。アリスも正にその典型に属すわけだが、終始コミカルに走っていくエピソードゆえに、あまり暗さを感じない。しかも、相手がジャンであるがゆえに、「相談」「吐露」という形にはなりにくい。その意味では新しいタイプと言えないこともない。また、あまり浮世離れを感じさせないのは、大久保麻梨子氏や横山あきお氏の魅力だろう。

 そして、一方の主役認定はタブーに対してなされるべきだろう。何といっても、キャスティングが素晴らしい。いきなり「一話限りの怪人役」に拳聖・拳魔級の声優を持ってくるのである。しかも、その声の主が広川氏であると、ある年齢以上なら誰もが分かってしまう語り口が披露されるのである。「しちゃったりなんかして」やダジャレが飛び出した瞬間、広川ワールドに引き込まれてしまうのだ。よくよく見ると、リンリンシー、獣人態それぞれのタブーの動きは、狙っているのか、それほどコミカルではない(シーンの組み立て方はコミカルだが)。そこに広川氏の軽妙な声があてられた瞬間、このタブーはお調子者キャラクターとして存分に個性を発揮する。人間を喰らうという恐ろしい設定にも関わらず、あまりイキギモを探す気がなく、食欲旺盛なタブーの可笑しさが際立つところには、感嘆せざるを得ない。

 さて、正統な論で行けば、ジャンが主役ということになるだろう。ジャンに関して今回重要なのは、過激気の発生に関すること。冒頭でシャッキーに見せようとして失敗(このシーンで、シャッキーもお調子者であることが分かる。普通はゴリーのように諌める立場なのだが…)し、イキギモを奪われた際、メレに対してスーパーゲキクローを使おうとして失敗している。要するに過激気は便利な道具ではないといったところだ。後に「守りたい」気持ちが過激気の発生につながることが明示されるのだが、これに関しては過激気習得からの一貫性を評価できる。ここでは、イキギモは守る対象として弱く、アリスは守る対象として強いという結果が示されており、先に待つ危機を回避できなくとも人命を尊重するという展開は熱さ抜群だ。ランとレツがまたも簡単にスーパーゲキクローを動作させていた印象は否めないが、トライアングルは三位一体ということなのだと解釈したい。

 一方の臨獣殿は、理央の気迫に注目。怒りというよりは悔しさに身を震わせる理央だが、臨獣殿の頭首の立場を捨ててまで強さにこだわる姿勢が凄い。組織に固執することのない理央の強さへの渇望は凄絶ですらある。メレは細かい芝居が秀逸で、久々に理央に対して可愛らしい態度を見せる。特にイキギモ入手に気合を入れるシーンや、イキギモを入手した後の浮かれ振りがイイ。メレの働きも手伝い、大地の拳魔・マクが満を持して登場。真鍮の色彩を帯びたパワフルな出で立ちは、正に最強の拳魔に相応しい。これで遂に古の獣拳・10人の達人が揃ったことになる。これからこの10人がいかに関わってくるか、非常に楽しみだ。

 ただ、マクの登場に加え、過激気が必ずしも無双の攻撃力を持っているわけではないこと(ゲキファイアーの攻撃がタブーに通じないシーンがある)や、最後にチラッと登場した謎の男(演:三浦力)も含め、何となくパワーインフレが始まっている感がある。戦隊シリーズでは珍しいことではないが、ゲキレンジャーのようにパワーバランスを重視した作風に、安易な変化が生じないことを祈りたい。

 最後に、ちょっとした楽しいポイントを。ゴリーがイキギモについて掲載した週刊誌の記事を差し出した際、「世界最高のプレシャス」との見出しが見られた。勿論これは前作「轟轟戦隊ボウケンジャー」へのオマージュ。ボウケンジャーのメインライター、會川氏が本エピソードを担当していることに対する楽屋オチとも推測される。