その17「ゴロゴロ!師弟愛」

 ランはゲキハンマー、レツはゲキファンの更なる上達を目指す。ジャンは、新たなマスターに激獣拳を習いたがっており、「シオシオ」なのだが、本人はそれを認めたくないようだ。マスター・シャーフーは、ラゲクに対抗する海の力を身につけるため、4人目の拳聖のところに行けと言う。ジャンはそれを聞き、今度ははしゃぎ始める。

 臨獣殿に、臨獣ハーミットクラブ拳のドカリヤが参上した。師匠であるラゲクの復活を寿ぎに来たのだ。ドカリヤはラゲクを愛している。メレはそう見破った。ラゲクはメレに身を焦がす思いを勉強してくるよう命ずる。

 ジャン達3人は絶海の無人島・青鮫島に美希の飛行機でやってきた。川をカヌーで進むよう指示書きがある。カヌーを漕ぐ3人。それを物陰から見守る拳聖らしき人物が居た。その人物はカヌーに向かって岩石を降らせたり、火を放ったりと次々に罠を仕掛ける。ところが、ジャンはその凄まじい体力でガムシャラに罠を吹き飛ばしていく。最後は水面に現れた鮫のヒレと競争になった。ジャンはパドルを真っ二つに折り、両腕を高速回転させてその競争に勝つ。

 川の中から現れたのは、拳聖・シャッキー・チェン。シャッキーは、ジャンの頑丈な身体を褒めちぎり、なおかつ修行はとっくに済んでいて、ジャンのみが合格だと告げた。シャッキーは、美希の開発したゲキセイバーをジャンに手渡す。

 その頃、青鮫島にはメレとドカリヤもやって来ていた。いきなりメレにキスしようとするドカリヤ。気持ち悪くなったメレはバエを吐き出す。ドカリヤは仕方なくバエを捕まえ、リンギによって何かを成そうとする…。

 ジャンは、パドルを振り回した要領でゲキセイバーを振り回し始めた。ランがゲキハンマー、レツがゲキファンで対抗するが、ジャンはゲキセイバーを使いこなして優勢に立った。それを見たシャッキー・チェンは、感涙にむせぶ。一方、ジャンも「弟子に相応しい」と言われて嬉しさが溢れていた。

 シャッキー・チェンは涙を隠す為に走り去ったが、その先でバエに接触。バエに寄生していたドカリヤに体内に入り込まれたシャッキーは、突如ジャン達を襲い始めた。メレは「師弟など見せかけの絆」と言い放つ。しかし、ジャンは必死の叫びでシャッキーの自我を呼び戻した。シャッキーの体内からドカリヤが飛び出す。

 怒ったジャンは、ゲキセイバーでドカリヤを圧倒したが、ドカリヤは巨大化して襲い掛かる。ゲキトージャで迎え撃つゲキレンジャー。シャッキーの教えにより、ゲキシャークを呼び出し、ドカリヤを粉砕したかに見えた。ところが、ゲキシャークは水中より姿を見せると、突如ゲキトージャを襲い始めた…!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
會川昇
解説

 遂にジャンがマスター・シャーフー以外の拳聖の弟子となる、第4の拳聖シャッキー・チェン登場編。前回がパワフルな作風で迫る臨獣拳側のエピソードであった故か、今回は非常に明るく楽しいライトな作風。ジャンが主役ということで、シャッキー・チェンにもライトなノリが求められており、ランやレツとは違った修行物語となっている。

 エレハン・キンボーは、ちょっとエッチだがそれなりの思慮深さを有しているように描かれ、バット・リーは、物静かな求道者として描かれた。これら2人は、ランやレツに相応しい「師匠」であった。今回登場のシャッキー・チェンは、これまたジャンに相応しい「師匠」として登場した。拳聖の中で最も若いという設定に加え、感情の起伏が豊かで、子供っぽいノリを併せ持つ。そんなシャッキーの行動に、見る者は楽しい気分を喚起されるのだ。これは、普段のジャンの行動に対して抱くイメージにほど近いものだと言えよう。

 シャッキーの声は、待ってましたの石丸博也氏。説明は不要かも知れないが、石丸博也氏は「ジャッキー・チェン映画」の吹き替え常連(常連というより、もはや石丸氏以外にあり得ないと言って良い)。エレハンを水島裕氏が担当した頃から、カンフー映画ファンはいつ石丸氏が登場するのかと待ちわびたに違いない。「ジャッキー・チェン映画」のライトなノリを再現しつつ、若い拳聖の存在感を押し出した熱演に、サメ肌ならぬ鳥肌を立てたファンも多いことだろう。

 修行の内容自体も特殊だ。ランやレツは、「弟子」と認められて(あるいは気に入られて)から修行が始まったが、何とジャンの場合、シャッキーに出会う前に殆どの修行が終わっている。これまで、弟子入りが相応しいか否かを試すプロセスとして描かれていたものが、既に修行を兼ねているという大胆な発想には脱帽だ。さらに、これはストーリーの間延び回避の役割を大いに果たしている。この「修行省略」のポジティヴな効果は、シャッキーを単なる先生として登場させるのではなく、シャッキーの内面を描写する機会を増やす、一時的に敵として機能(勿論ドカリヤの仕業)させるなど、ドラマティックな起伏をもたらした点であろう。一方、ネガティヴな効果も無いとは言えない。それは、ジャンが修行をしていないように見えてしまう点である。ゲキセイバーを渡され、パドルの要領だと言われていきなりウマく振り回し始めてしまう。ゲキセイバーに、扱いの簡単な武器という印象を与えてしまいかねない、この一連の流れは、シャッキーがジャンを褒め続け、ジャンの資質自体をアピールする作戦でカバーしようと試みているようだ。この処置は、ある程度奏功している。ただし、ジャン、ラン、レツの3人のパワーバランスを崩しかねない危険性は、大いに孕んでいる(「レッドだから当然」という意見もあろうが…)。

 しかしながら、カヌーのシーンは非常にウマく構成されている。ランとレツが根性とテクニックでカヌーを漕ぐが、ジャンの体力がそれをしのぐという流れは非常に面白く、またビジュアル的にも、漫画的ながら違和感のない水しぶきや、造形・デザインを生かしたサメのヒレのシーンなど、見所が多い。妙に綺麗な字で書かれているシャッキーの案内表示も笑いを誘う。

 ところで、臨獣拳側は当然軽く流される程度の描写に留まる。ドカリヤが師弟愛を超えた恋愛感情を抱いているという設定が、細かいところまで行き届いており、ラゲクが冷たくあしらうことでドカリヤが燃える様を描写、さらにはラゲクとドカリヤのねじれた師弟愛を、ジャンとシャッキーの絆と対比させて描くというところまで持っていく。表面上はあっさりしているが、実際に紐解いてみると、実に計算高い構成になっていることが分かる。

 ラゲクは、まだ理央よりもメレを買っているのか、「身を焦がす思い」の学習にはメレを赴かせる。理央に嫉妬の感情を喚起させるための作戦だとしたら、それはそれで凄い。ただし、マスター・シャーフーの強さを引き合いに出し、理央の嫉妬感情を煽っているところを見ると、あくまでメレへの興味が優先している可能性も高い。実際、ラゲクは「身を焦がす思い」に関して、理央には「嫉妬」を、メレには「愛」を示そうとしている節がある。ドカリヤの「愛」を、メレに見せようとしたのは、その為だと考えられる。

 今回の特筆キャラは、バエである。各々の拳聖と面識がある描写は、以前より匂わされていたが、今回はシャッキーがバエに対し、旧友に会うかのように嬉しそうな表情(否、声と動作)を見せる。しかも、「巨大戦を追っている」という噂も流れているようで、このようなマスコットキャラに対しても、スポットライトを当てる姿勢が嬉しい。