その15「ホワホワ!ママ業」

 理央の修行は続く。憎しみと強さが螺旋を描くが如く、理央は強くなっていく。カタを信用できないメレは、さらに拳魔を蘇らせる為、拳魔の腕輪と真毒を貸して欲しいと理央に進言、理央はあっさりと承諾する。カタは憎しみがどれほどの力となるか、ルーツに示せと命じた。

 スクラッチの部屋で遊びや趣味を全開させ、片付けることをしないジャンとレツに、ランはイライラ。それを見たマスター・シャーフーは「ランは2人のママみたいだ」と評する。

 ルーツが街に現れ、ゲキレンジャーは迎撃するが、憎しみで強力になったルーツは、「リンギ・鼓動戻し」でジャンとレツの鼓動を抜き取った。「お楽しみは長いほうがいい」と言うルーツは飛び去ってしまう。ランはいなくなったジャンとレツの行方を追った。ランが見つけたのは、赤ん坊になったレツと、少年になったジャン! マスター・シャーフーによれば、「鼓動戻し」は人間が刻んできた鼓動を抜き取ることで、相手を若返らせるリンギだという。ランは先の戦いで、抜き取られた鼓動を弾き飛ばしてしまっていた。鼓動を抜き取られた本人達は、抜き取られた鼓動の在り処を感じることができるという。ちびジャンとちびレツが鼓動の在り処を探り当てる間、ランは「ランママ」となるよう、マスター・シャーフーから命ぜられる。

 一方、メレは海の拳魔の声に従って、海の拳魔の骸が眠るという深海に向かっていた。別の拳魔を蘇らせ、理央の気をカタからそらせようというメレの魂胆を、海の拳魔は気に入ったのだという。

 ちびジャンのわがままや、ちびレツの世話に苦戦するラン。そうこうするうち、ちびジャンは鳥のヒナを助けるべく高所に登ってしまう。慌てて追ったランは、ちびジャンに対して母性本能を感じ始める。そこにルーツが出現、ちびジャンの助けたヒナを踏み潰してしまった。ランは襲い来るルーツから2人を守って逃げる。逃げ込んだ先で鼓動を見つけたランは、1人でそれを取りにいくが、ルーツに阻まれてしまった。敗色濃いランを助けるべく立ちはだかったのは、何とちびジャン。ちびジャンはゲキチェンジャーを使って「ちびゲキレッド」に変身する。ちびゲキレッドは「俺、ランママ守る!」と勢い付き、ルーツをパンチで吹き飛ばしてしまった。「憎しみよりも強い気持ち。それは、ママが子供を、子供がママを思う気持ち、ホワホワよ!」開眼したランは、母母打によってルーツを倒す。鼓動を取り戻したジャンとレツは元に戻った。

 状況を把握できないまま、ランに促されて巨大化したルーツを迎え撃つジャンとレツ。ゲキトージャはゲキバットージャとなり、ルーツを粉砕した。

 ジャンとレツには、子供になっている間の記憶が一切なかった。「ランにおもつをかえてもらった」ことを知り、愕然とするレツ…。

 その頃メレは、拳聖の結界を気合で破り、海の拳魔・臨獣ジェリー拳のラゲクを蘇らせていた。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
横手美智子
解説

 ジャンとレツが子供に、そしてランが「ランママ」となって奮闘する楽しい一編。全編を激獣拳側の楽しい雰囲気でグイグイと引っ張り、その中に臨獣殿側の重要トピックを織り交ぜるという構成だ。

 メイン・ディッシュである「ランママ」を語る前に、臨獣殿側のトピックを列挙しておこう。

 まず、理央の修行は目立った進展なし(成長自体は言及されている)。ただし、カタに対するメレの反感は募るばかりだ。そのメレの思惑が、遂に海の拳魔・ラゲクを蘇らせるに至る。この関係、実はかなり面白い。メレは、理央が強くなるということよりも、カタに対する嫉妬を図らずも優先させてしまっている。いつしか、メレの理央に対する無償の愛は、一時的かもしれないが、エゴに変化してしまったようなのだ。一方、理央はカタとの修行に夢中で、メレの意を解さない。しかし、拳魔の腕輪と真毒を易々とメレに託すところを見ると、理央はメレの想いを受容するそぶりこそないが、メレをある程度信頼しているものと思われる。微妙ではあるが、心情やスタンス、ポジションの変化がドライヴしていく感覚が、実に面白いのだ。

 拳魔の腕輪は、何かを求める者に答えるということなのか、海の拳魔・ラゲクの復活は、メレの嫉妬心をキーとして果たされる。ラゲクの声は、ベテラン・幸田直子氏。カタ役の納谷六朗氏と同じく、格調高い声が響く。裏に何を秘めているか分からないような、尊大かつ高貴な出で立ちは、「悪の幹部」としての威厳を充分に備えている。メレと同じく女性であるということで、これからの展開が大いに期待できそうだ。

 さて、楽しい激獣拳側だ。憎しみにとらわれ猛進するルーツを迎え撃つ、爽快なゲキレンジャーの活躍…ではなく、子供になってしまったジャンとレツ、そしてそれをお守りするランのドタバタ劇。

 深澤嵐氏は、ジャン役の鈴木氏に良く似た雰囲気で、「ちびジャン」を演じて見せてくれた。よくある子供返りパターンから一歩踏み出し、何と「ちびゲキレッド」に変身してみせるという大胆さには度肝を抜かれ、また笑わせてくれる。ゲキレッドのマスクだけが通常の大きさのままで、頭部が大きいバランスは何とも可愛らしい。わざわざ子供用スーツを作ってしまうあたり、気合の入り方が違う。

 「ちびレツ」もアップ時にハッとするほど高木氏に似ており、キャスティングの苦労がしのばれる。ランの子育て奮闘は、子育てモノコメディの定石をちゃんと踏んでいたが、高所に置き去りにするといった、ハラハラさせるようなカットをわざと挿入するなど、ランの母性の成長を示唆するシーンが注意深く組み立てられており、完成度が高い。大人に戻ったレツが急所を隠して慌てるシーンも、これまた定石であるが、カット割のウマさやゲキイエローが目を覆うしぐさの可愛さが見事に融合し、笑撃度は倍増している。

 「ママ業」を極めたランの新たなゲキワザ「母母打」は、「指圧の心は母心」の引用と思われるが、そこに「北斗の拳」のエッセンスを混ぜることで、珍妙ながら実にパワフルなシーンを創出することに成功している。「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く」とは浪越徳治郎氏の有名なセリフ。このセリフを知るか否かで、何故「母母打」が指圧形の拳技なのかを理解できるか否かが決まってくる。これは一級のシャレなのだが、少々児童には説明不足だろう。

 今回はとにかくランの魅力が噴出していた。特に困り顔のハマり度は最高。ゲキイエローになった後のアフレコも気合充分で、巨大戦におけるルーツへの一喝は、可愛らしさの中の強さを見事に表現していた。