その14「ネツネツ!技を捨てろ」

 バット・リーの教えはただ一つ。「技を捨てよ」であった。扇を渡されたレツはその意味をバット・リーに問うが、バット・リーはただ舞うだけで何も答えてくれない。レツは同じように舞えば、何かをつかめるかも知れないと思い、バット・リーの舞を真似始める。

 ルーツとラスカを止めるべく立ち向かうジャンとラン。しかし、ランは足を攻められ苦戦を強いられる。ルーツは飛び去ってしまい、ジャンとランはラスカだけを相手にするものの、ゴミ捨て場に落とされ退散を許してしまう。焦るジャンに、美希はレツに渡す荷物を預けた。

 その頃、レツは純粋に舞を真似るようになっていき、やがて「そもそも技とは何なのか」という疑問に繋がる。さらに、自分が何をしているかさえ忘却し始めたレツは、バット・リーの存在、ひいては自分の存在すら忘れて舞に夢中になってしまった。レツの元にやってきたジャンとランは、「ネツネツ」なレツを目撃。その時、レツは我を忘れたまま水の上を舞っていた。「忘我の中に修行あり」それがバット・リーの教えだった。何をしているか分からなくなるほど舞い続ければ、自分と舞が一体となる。技もまたそれと同じだと、レツには見えたのだった。レツはジャンが持ってきたゲキファンを受け取ると、早速街へ向かった。

 一方、理央は憎しみの赴くまま修行を続けていた。憎しみが臨獣拳の力を増幅するというカタだが、メレには理解できない。

 ルーツとラスカを迎え撃つレツは、ゲキファンを構え、華麗な舞で飛翔拳の2人を圧倒する。空に充満した力を全て使って勝負に出るルーツとラスカ。ゲキトージャは巨大化した2人を迎え撃つ。空を飛ぶ術を心得ないゲキトージャに、バット・リーの「忘我の境地で激気を打ち出して見ろ」という声が届く。舞によって忘我の境地となった3人は、ゲキバットを召還し、ゲキバットージャに獣拳武装を果たす。空を飛んだゲキバットージャは、ルーツを叩き落し、ラスカを鉄扇で両断した。

 スクラッチを訪れたバット・リーは、技に美しさを込められる男だとレツを評価した。マスター・シャーフーは、レツをかねてからバット・リーに会わせたがっていたようだ。

 理央は修行の末、憎しみを新たな臨気とし、更なる力とする。メレは、そんな理央の姿に恐怖を感じていた。ラスカを失ったルーツもまた、憎しみを増大させ、新たな力としていた。

監督・脚本
監督
辻野正人
脚本
吉村元希
解説

 レツのゲキファン習得&ゲキバット登場編。理央の修行も継続し、激獣拳と臨獣拳の修行の対比が、より鮮やかさを増してきた。

 バット・リーの教えは、「忘我の中に修行あり」。以前、ランはエレハンから「笑顔」によって生み出される心の余裕を教わったが、レツの場合は、さらにその上のステージと言って良い「忘我の境地」を教わった。美しいものに心を奪われ易く、それに自分を重ねていこうとする傾向の強いレツならではの修行だ。キャラクターがイイ具合に転がっている様子が伝わってくる。

 レツの修行内容は、ひたすら舞うことであったが、その為のシーン作りに対する腐心振りは、高い評価を受けてしかるべきだろう。バット・リーの舞は、前回も触れたが、由緒ある京劇役者によるもので、完成度の高さは疑うべくもない。ここでは、レツに注目してみたい。まず、バット・リーの舞を疑問を抱きながら真似はじめるくだり。ここでは、非常にぎこちない上、目がバット・リーの動きを追い、ワンテンポ遅れて追随する形になっている。やがて、どんどん舞うこと以外を忘れていくのだが、それにつれて、目がバット・リーの動きを追わなくなり、バット・リーとレツの動きがシンクロしていくようになる。この流れ、視覚的に修行を完成させていく様子を「見せる」ことが実に巧い。極端にアクロバティックな動きを要求される場面では、スタンドインを使用しているものの、大部分の舞はレツ役の高木氏自らによるものである。高木氏のセンスの良さは、相応に評価されていい筈だ。

 ゲキファンを使った、ゲキブルーのアクションにも大注目だ。ゲキブルー主体のエピソードにおける「ファンタスティック・テクニック」は、その意外性と華麗さから高い評価を与えられているが、今回も例外ではない。「技に美しさを込める」というバット・リーの言葉どおり、鉄扇を用いた舞で確実に敵を倒していく様は爽快だ。特にゲキファンを足に落として繰り広げる動き、2つ構えて回転の動きを駆使する様には、ハッとさせられる。往年のカンフー映画さながらの「ちょっとリアルな視覚的感覚を有した荒唐無稽さ」が非常に心地よい。

 今回、少々問題があったのは、ゲキトージャ~ゲキバットージャのくだりである。レツは「忘我の境地」を会得したが、他の2人は修行をしたわけでもなく、簡単に「来来獣」でゲキバットを呼び出せてしまった。好意的に解釈すれば、ゲキトージャの中で3人は一体であり、1人の修行の成果は3人に即時波及していくということか。若干の説明不足は否めないところだが、話の流れで強く押し切っていく作風もアリとしておこう。ゲキバットージャの空中戦は、VFXがふんだんに使われ、豪華な印象を与えており、「ようやく空を飛んだ」という爽快感が強調されている。

 一方の臨獣殿では、理央の凄まじい形相に驚く。理央は従来、どちらかと言えばクールな求道者というイメージであったが、ここに来て「憎しみ」という表層に現出し易い感情を抱く様子が描かれ、より臨獣拳の邪悪さの描写に拍車が掛かったという印象になっている。困惑気味のメレがふてくされる様子は、もはや「ファンサービス」的に誇張され、非常に楽しい場面を創出。殺伐とした臨獣殿に彩りを添えている。理央の修行の過程が、ルーツの更なる力へと繋がる点も良い。乖離し続けてきた理央とゲキレンジャーの接点がわずかでも盛り込まれると、俄然ストーリーの完成度が上がってくる。