シンケンジャーの世界後編は、二大ヒーローがグッと距離を縮めて活躍する一大娯楽編。
凄いのは、全く異なる物語である両者の共通点を、栄次郎と彦馬に求めるというアクロバティックかつ自然な発想。劇中通り、「ヒーローの帰りを待つ者」という捉え方でこの二人を見ると、彦馬は納得出来るとして、栄次郎は果たしてどうなのかという部分は無きにしもあらずですが、それでも夏海を介することで「待つ者」を成立させているのは、お見事です。
全体的な流れもスムーズで、飽きさせることが一切なく、それぞれの見所を押さえているのも特筆モノで、アクションの完成度も一級。シンケンジャー側は丈瑠が代表者となって前面にフィーチュアされ、他の面々の活躍はあまり見ることが出来ませんが、その分30分前の「シンケンジャー」本家でフォローされているのはさすがといったところでしょう。
このように、「シンケンジャー」ファンにも「ディケイド」ファンにも満足度の高い一編に仕上がりましたが、特に押さえておきたいのは、鳴滝の言葉に丈瑠が踊らされないところ。「ヒーローはヒーローの本質を見抜く」というカッコ良さがたまりません。流ノ介達が士のカメラを爆弾と誤認して大騒ぎするのも良い対比となっており、丈瑠の心眼の確かさを堪能出来ます。この要素が、そのまま必殺武器交換というクライマックスに繋がっており、構成の確かさにも目を見張ります。
丈瑠と士の対立構造が成立しないことにより、戦隊 VS ライダーという、いわば「夢の対決」は実現しないことになりましたが、その分、チノマナコ・ディエンド態をライダーそのものとして捉えること、そしてチノマナコ・ディエンド態が「KAMEN RIDE」でブレイドを召喚することにより、代替的に実現させています。
では、大充実の本編をまとめてみましたので、ご覧下さい。
前回からの続き...ではなく、何と今週の「シンケンジャー」本編の続きから開始されます。二つの作品が完全な連続性を見せたことで、本当にディケイド達がシンケンジャーの世界に入って来たことを実感させています。
丈瑠は、
「待て」
と士を呼び止めます。ここでの士、既に黒子ではありませんが、「シンケンジャー」本家で黒子の装束を脱ぎ捨てる描写があったことを付記しておこうと思います。
「何だ。殿様も外を出歩くんだな」
と士。丈瑠は鳴滝から士のことを聞いており、
「お前がディケイド、そうなのか?世界を破壊するってのは本当なのか?」
と厳しい表情で尋ねます。
「へぇ。殿様にまで知ってもらえてるとは。光栄だな」
「否定しないのか」
「実は俺も俺を知らねぇ。だから否定しようもない。俺を潰しに来たのなら、相手になるぞ」
変身しようと構える両者!
ショドウフォンとカードという、一昔前のヒーローからは想像できない構図ですが、二人共大真面目にやっているのはご承知の通り。
そこに鳴滝が登場し、
「そうだ!ディケイドを排除しろ!シンケンレッド」
と煽ります。士は、
「鳴滝、やはりお前か。俺の噂を広めてくれているのは」
と皮肉交じりに鳴滝を牽制しますが、鳴滝は構うことなく「既にライダーの浸食が始まっている」といった「事実」を口にします。その言葉通り、「この世界最初のライダー」である、チノマナコ・ディエンド態が出現します。敵は士ではなくチノマナコだと瞬時に悟った丈瑠は、シンケンレッドに変身。チノマナコ・ディエンド態が呼び出したナナシ連中と大立ち回りを演じます。
変身プロセスが本家と違う方向で凝っていて、非常に満足度が高いです。火のモヂカラを出現させ、先に現れたシンケンマルを一振りすることでスーツを装着するという、素晴らしいカットに驚愕です。
丈瑠がナナシ連中を相手に奮戦している間に、異次元空間を発生させて士を取り巻く鳴滝。
「ここだけじゃない。あらゆる世界が、お前という異物に拒絶反応を起こす。もう旅を終わらせろ。お前は消えることで、世界を救える」
と、士に囁きます。まさに悪魔の囁きとはこういった感覚。夏海は、余裕を保ちつつも、やや表情を暗くしている士の様子を、少し離れたところから見つめています。
丈瑠が「火炎之舞」でカタをつけると、チノマナコは退散していきます。
さすがの丈瑠も、士の正体を理解しあぐねている様子で、思わず、
「お前、何なんだ?」
と問いかけます。
「俺もライダーさ。通りすがりのな」
と答える士。この「ライダー」という言葉を聞きつけたのは、お取り込み中の源太でした。
「お前もかぁ!」
と駆け寄り、ライダーを名乗る士を「泥棒の仲間」と見なして突っかかり始めます。
「通りすがってるライダーなんて、皆同じだ!っていうか、通りすがんなよ!」
と源太が声を荒げると、辛抱できなくなった夏海が、
「ちょっと!そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!士君は違います。泥棒なら、居場所知ってますから」
と源太に対してやや強い口調になります。前回でも触れましたが、夏海の士に対するシンパシィが、今回の重要な要素となります。夏海はことあるごとに士の卑下の対象になりつつも、それが冗談だと分かっているのか、士に対してある種の特別な感情を抱き始めているようです。一方の士も、多分同様でしょう。
夏海の言う「泥棒の居場所」は、勿論光写真館です。今週の「シンケンジャー」で、この世界の「吉田接骨院」とすり替わっていることが判明し、前回腰痛のことで丈瑠と喧嘩していた彦馬が、ここに訪れています。
丈瑠や源太達がいきなり光写真館にやって来たのを見て、思わず隠れてしまう彦馬が可笑しい。
彦馬は病院にも行かず、屋敷の留守も守らず、写真館で遊んでいるなどと思われるのを、良しとしなかったのだと考えられます。
早速、丈瑠は烏賊折神泥棒の海東に取引を持ちかけます。シンケンジャーがディエンドライバーを取り戻し、烏賊折神と交換しようというのです。しかし、烏賊折神を手放したくない海東は、それを拒否します。海東にとって、ディエンドライバーはお宝入手の為の道具の一つに過ぎないということもありますが、ディエンドライバーを取り返すことくらい、自分にも出来るという自信の現れとも取れます。
そこに、黒子から話を聞いた流ノ介達が、光写真館の場所を突きとめて乱入してきます。
流ノ介「殿が、仮面ライダーに誘拐されたと!」
千明「あぁ、流ノ介の思い込み」
茉子「ただ、ライダーは世界を破壊するってのが気になって...」
各キャラクターを深く理解している、「シンケンジャー」のメインライターならではの台詞回しが素晴らしいです。この会話を聞いた海東が、
「よく知ってるね。こいつがその破壊者」
と告げて士を紹介し、
「で、これが、世界を破滅させる爆弾」
と、士のカメラを取り上げ、流ノ介達に投げ渡してしまいます。思わずキャッチしてしまった流ノ介達は、大騒ぎし始めます。ことはが身を呈して丈瑠を庇い、丈瑠の「落ち着け」という言葉が皆に届かないのが可笑しい。ことはに覆いかぶさられて、丈瑠がちょっと羨ましいのは御愛嬌(笑)。
その喧騒の中、海東はまんまとどこかへ行ってしまい、夏海は遂にキレてしまいます。
「いい加減にして下さい!何で?そんなにダメですか?仮面ライダーが居たら...ディケイドが、士君がいちゃダメなんですか?...どこの世界に行っても、こうなるんなら...じゃ士君はどこに行けば?」
こう吐き捨てて、夏海は一人暗室に閉じこもってしまいます。確かにどの世界も士の世界ではなく、士は鳴滝の吹き込みによって、ことごとく邪魔者扱いされてきました。それでも、最後にはその世界の救世主的存在になって立ち去るのですが、それは「受け入れられた」わけではないのも確かです。この「シンケンジャーの世界」という、お祭り色の強いエピソードにおいて、これ程「ディケイド」の本質に迫っていくというのも、ある意味凄いことではないでしょうか。
夏海は、ファイズの時の写真が入ったフォトフレームをたたき落として割ってしまいます。ファイズの世界では、インスタントカメラが重要なガジェットとして登場、またオルフェノクが人間に受け入れられるプロセスを描きましたから、象徴的な感じがします。
さて、海東はなおも追いかけてくる源太にうんざり。チノマナコを見て、
「あ~大変。僕を追いかけるより、あいつを倒す方が先じゃないかな。この世界を守るシンケンジャーとしては」
と源太に告げます。源太はアヤカシを目の当たりにしてしまったので、仕方なくチノマナコ・ディエンド態に立ち向かいます。しかし、さすがの源太も、チノマナコという力自慢のアヤカシがディエンドライバーのパワーを得ているとあって、大苦戦。手がつけられないと感じた源太は、丈瑠に連絡を入れます。
連絡を受け、丈瑠は静かに士のカメラを返します。
すぐに源太の元へ向かうシンケンジャー達。流ノ介と女性陣が、ちゃんとお詫びの挨拶をして去っていくのが素敵過ぎます。こういったキャラクター性の発露は見ていて気持ちいいものですね。彦馬は、そっと物陰から出陣の様子を見守っていました。
「大丈夫かな?俺たちも行かなくて」
とユウスケ。忘れがちですが(笑)、彼もヒーロー。仮面ライダークウガです。士は、
「この世界を守ってるのはあいつらだ」
と一言。
「そっか。確かに、ライダーは要らない世界だよな」
「っていうか、今までも必要な世界なんか、なかったのかもな」
ユウスケは思わず「えっ?」と驚いた表情をしますが、ユウスケは士を必要とした人間でしたから、当然ですね。士のブルーっぷりに、ユウスケもやや困惑気味です。
苦戦する源太に丈瑠達が合流。
「シンケンジャー参る!」
ここでチノマナコは意外な行動に。何とディエンドライバーの「KAIJIN RIDE」の機能で、ムースファンガイアとイーグルアンデッドを呼び出したのです。
何でムースファンガイアとイーグルアンデッドなのかは、ここではいちいち考察しません(笑)。
一方、モヤモヤしていたユウスケは、
「俺やっぱ行ってくるわ」
と飛び出していきます。ユウスケが去った後、士の元に彦馬が歩み寄り、
「栄次郎殿も、戦いの留守を守るお立場だったとは...」
と呟きます。
「そんな大層なもんじゃない。好き勝手やってるだけだ」
「いや、その平常心こそ見習いたいもの。私など一旦送りだすと、何も手に付かぬ有様。命を賭けた戦い、無事に帰って来ぬかも知れんと。待つ事でどうにかなるものではないが、やはり待つ事しか...」
こんな場所で彦馬の本心が語られるとは!やや勿体ない気もしますが、逆に彦馬は主役ではないので、コラボレーションならではの展開だとも言うことが可能かと思います。
士は、ふと丈瑠と彦馬の喧嘩を思い出し、カメラに新しいフィルムを詰め始めます。そう、世界が士を拒否しようとしまいと、士はこの世界の1カットを切り取って見せることで、旅の意味を捉える事が出来るのです。これまでも、士の旅はそうでした。
そして、チノマナコ軍団に苦戦するシンケンジャーの元に駆けつけたユウスケは、クウガに変身!
「手伝いに来た。要らないかも知れないけど」
とユウスケ。流ノ介は、
「いや、助かる!」
と答えます。ここに、シンケンジャーとクウガの連合戦隊の完成です!
怪人トリオに立ち向かう...
連合戦隊!
一方、士は彦馬に、
「待つのも、無駄じゃないって気がするな。待ってる人間が居れば、そこが帰る場所だ。這ってでも帰って来るもんだろ。そういう場所には」
と答えていました。これこそ、士がこの世界で得た真理でした。
「士君...」
と、士に呼応するかのように何かを悟った夏海に、
「よし。そろそろ、主役が登場するのには、いいタイミングだ」
と言って、士は出かけて行きます。
士が出かけた後、栄次郎は彦馬をクッキー作りに誘います。その栄次郎の様子を見て、夏海は決意の表情。
その頃、怪人トリオに大苦戦のシンケンジャー&クウガでしたが、そこにマシンディケイダーを駆る士が登場。
「おいおい、主役の登場を盛り上げすぎだろ」
「士!」
「ライダーは必要なくても、この俺、門矢士は世界に必要だからな」
士はディケイドに変身します。
何故かシンケンジャー風のカットが登場。ファンサービスというか、お遊び要素も存分に魅せてくれます。
戦いの中、
「殿様!ここは勝って帰んねぇと、ジイさんが泣くぞ!」
「お前、何で!?」
「多少の無理はさせてやれ!ジイさんなりの戦いなんだろ。お前らの帰る場所、守ってんだからな」
「ああ、分かってる」
「だろうな」
という、士と丈瑠の会話が展開されます。いいですねぇ、実に熱くて爽やかです。
「士、俺はお前が破壊者だとは思ってない」
「根拠は?」
「ない。強いて言えば、侍の勘だ。世界はどうか知らないが、俺達はお前を追い出す気はない」
「折角だが、この世界に居付くつもりはねぇな。何しろ俺は、通りすがりの仮面ライダーだ!」
この台詞の応酬、アクションの合間に効果的に挿入されている為、テンポを落とすことなく、冗長さに関しては微塵も感じさせません。
戦況が悪化したチノマナコ・ディエンド態は、「KAMEN RIDE BLADE」でブレイドを召喚します。これにより、士が増えた分の戦力のバランスをとっているのが巧いところ。
一方、夏海は昔を思い出していました。光写真館に帰って来ると、栄次郎がいつも何かを作って待っていてくれました。この「待つ者」が栄次郎の一面としてクローズアップされたわけです。
「士君の世界があるかどうか、それは分からなくてもいい」
そう心の中で呟く夏海も、クッキー作りを手伝い始めます。
心のモヤが晴れた夏海は、晴れやかな笑顔を見せます。
そして、乱戦の模様はヒーロー側優勢に。
茉子、千明、源太がムースファンガイアを撃破。
そして、流ノ介、ことは、ユウスケがイーグルアンデッドを撃破します。
う~ん、実にバランスがいいですね。
一方で士はコンプリートフォームに変身。「BLADE KAMEN RIDE KING」でブレイド・キングフォームを呼び出します。相手がブレイドを召喚しているので、ブレイドの異なるフォームが同時に存在するという面白い構図に。
まず、「FINAL ATTACK RIDE」でブレイドとチノマナコを吹っ飛ばす士。続いて、「FINAL FORM RIDE」でチノマナコが呼び出したブレイドをブレイドブレードに変形させます。なるほど!と膝を叩かせる巧みな構成です。
同時に、「ATTACK RIDE REKKA DAIZANTOU」のカードが復活(?)。
互いの必殺武器を交換して、チノマナコ・ディエンド態を遂に撃破します。
いわゆる巨大化のエクスキューズである「二の目」に関しては言及されませんでしたが、もはや、水切れとも無縁のチノマナコはアヤカシではなくライダーなので、二の目という概念すら消滅しているものと思われます。丈瑠も「アヤカシではない」と言っていましたし。
抜け目のない源太は、落ちているディエンドライバーを素早く拾い、
「取引だ、泥棒野郎。俺のイカちゃん返せ!」
と海東に持ちかけます。
さすがの海東も、これには渋々応じることに。この残念そうな表情が絶品です。
丈瑠達は、彦馬の待つ屋敷に帰っていきます。無言で別れる士と丈瑠が秀逸。
多くを語ることなく、互いのことを理解している感覚がとても心地良い感動を生みます。
ユウスケ「やっぱり、いつかは帰るのかな。俺も士も」
士「さあな。どこへ帰るんだか...」
締めのこの台詞、ユウスケの立場と士の立場ではややニュアンスが異なります。
士は自分の世界がどこにあるか、未だ分からないままであるのに対し、ユウスケは存在が明確な自分の世界を離れて、自分の存在を確固たるものにする為の旅を続けています。ですから、自ずと両者の帰着点は異なるわけです。この二人が当面帰る場所として、光写真館が大きくクローズアップされてくる...というのが、エピローグになります。
シンケンジャーサイドは、彦馬が大喜びで出迎え、手作りのクッキーがふるまわれるというシーンで締め括られます。
それは、いつもの志葉家屋敷の風景です。ここで、シンケンジャーの世界はいつもの風景へと戻って行ったわけです。
そして、ディケイドサイド。
光写真館では夏海が待っていました。
「夏海、何してんだ?そんなとこで」
「お帰りなさい。私も、待ってることにしたんです。士君が帰って来るのを。どこの世界に行っても、士君が帰って来るのはここですもんね。だから、お帰りなさい」
やや驚いたような表情の後、何かを思う士。
二人の恋愛とかいった種類の感情とは異なる、微妙な関係が興味を惹きます。
士の撮った写真は、腕組をした彦馬が大きく写っているという、今回の物語を象徴するものになりました。
「何か侍っていうより、親子の写真みたいだね」
「俺の、才能だな」
ユウスケの指摘も的確そのものです。
ここで栄次郎がクッキーを披露。
士は夏海の顔を象ったクッキーを「美化しすぎ」と評し、逆に味に関しては「もっと美化しろ」と酷評します。相変わらずの士と夏海です。こちらもいつもの「ディケイド」に戻ってきました。
そして、キバーラと栄次郎が喧騒を演じる中、新しい背景ロールが降り...。
な、何と!次は「BLACK RX」の世界!
この異様な物体は「クライス要塞」といって、クライシス帝国の要塞空母です。
「仮面ライダーBLACK RX」は、まさに昭和と平成を跨いだ作品であり、平成ライダーシリーズのオリジンと言っても過言ではありません。遂に、平成ライダーシリーズだけでは飽き足らず、昭和ライダーの系譜に繋がる作品にまで!
これは楽しみですね!
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