第37話 星座泥棒

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ストーリー

 ミズキはカイトと共にささやかな天体観測をしていた。星空に魅入られるのは、人類がはるか昔に来訪した宇宙人の末裔だからだと言うミズキに、カイトは怪訝な顔をする。そんなカイトにミズキはそういうお話もある、と答えた。エリーはカイトとミズキの恋愛成就確率を算出しようとする。

 一方その頃、カイトとミズキの目前で星の輝きが集合し、星獣ケプルスとなって地上に現れた。ケプルスは街の光を破壊していく。それを静かに見守る一人の男がいた。DASHは直ちに出動したものの、あらゆる攻撃が吸収されてしまう。光を嫌っているというエリーの分析から、閃光弾で威嚇すると、ケプルスは消失してしまった。

 やがて、消失ポイントにあった波動がエリアJA799にも観測され、現場にミズキが向かう。古い町並みを抜けると、そこには古めかしいプラネタリウムが。プラネタリウムには、ミズキを待っていたという男・成宮がおり、ミズキに語り始める。太古の昔、地球に宇宙からの来訪者・サトン星人が降り立った。彼らは地球人に星空の美しさを啓蒙するため、天球界という超巨大なプラネタリウムを建造して地球を覆った。美しい星空に畏敬の念を抱くようになった地球人だったが、やがて開発が進み、地上に光を蔓延させてしまった。サトン星人はケプルスを召喚し、地上の悪しき光を消し去ろうとしているという。そして成宮は、天球界の内外をつなぐ扉であるこのプラネタリウムにたどり着いたミズキを、サトン星人の末裔だと付け加える…。ミズキが普段の世界に戻ると、そのプラネタリウムは、そこに存在していなかった。

 不安にかられるミズキは、カイトと一緒にいると凄く不安になると告げる。同じDASH隊員なのに、カイトが遠い存在に思えると言うミズキは、自分に異星人の遺伝子が混ざっているからなのかと、カイトに問う。カイトは「君はこの星で生まれた。この星を愛してる」と答える。

 エリアJA799にエイリアンスキャナーの反応が出た。カイトとミズキが現場に向かう。ミズキは公園のベンチを見て、ふと幼い頃を思い出す。幼い頃、ミズキは成宮に会っており、ケプルスの話を書いた絵本「星座泥棒」を受け取っていた。天体観測の折、カイトに聞かせた話は、成宮が幼いミズキに語って聞かせた話だったのだ。幼い頃を思い出したミズキに、成宮は「もうすぐ扉が開く」と言う。成宮はミズキと共に故郷へと旅立つ準備を整えていた。

 その頃、ケプルスは再び出現していた。同時に上空に扉が出現し、開いた。しかし、ミズキは「地上の光もかけがえのないもの」と言って出発を拒んだ。カイトはウルトラマンマックスに変身してケプルスに立ち向かう。マクシウムカノンを受けても再生するケプルス。

 ミズキは、あの日のことを忘れたわけではなく、今の自分があるのは、あの日に得た星空への憧れがあるからだと成宮に告げた。初めてパイロットとして飛んだ日、地上の光が平和の証であり、星空の光も地上の光も守るべきだと思ったミズキ。そんなミズキの言葉を聞き、ケプルスの攻撃からミズキと成宮を守るマックスを見て、成宮は「人類とサトン星人の末裔が、再び出会えるかもしれない。未来で会いましょう」と言い残してケプルスと共に宇宙の扉へと消えていった。

 「光は希望の証…」マックススパークを見つめて、カイトは呟く。「いつまでも皆と一緒にいられますように…」流れ星を見たエリーが祈りをささげた。

解説

 ウルトラマンマックスの最終編直前の、いわゆる「バラエティー路線」の最後を飾るエピソード。前回がコメディ路線の最終回ならば、今回はファンタジー路線の最終回と言えよう。

 全編に不思議な雰囲気が漂い、主にミズキ、カイト、そして成宮の3人に的を絞ってシンプルな人物配置をすることで、ストーリーの面白さを「語らせる」という演出が光る。今回はキャラクターに「語らせる」シーンが実に多く、その点でも成宮役に萩原氏を配したのは正解。ミズキが中心だが、カイトを絡ませることで2人の関係をより深く印象付けることにも成功しており、最終編に繋がる要素を改めて見せておくという、シリーズ構成のさりげなさも上手いところだ。

 今回気になるところは、やはりミズキたちの地球から見上げる星空が、成宮が主張するように「天球界」かどうかということだろう。結論を急ぐ前に、まずは色々とファクターを拾ってみたい。

 いきなりエピローグの部分からだが、「人類が進化したら、星空に手が届く」というカイトのセリフに注目。つまり、未だ人類は星空を見上げている存在に過ぎないということなのだ。またプロローグには、ミズキのモノローグで「幼年期に差し掛かった人類」というものもある。本編中には、ミズキが「星空に憧れる」というくだりが何度も現れ、「地上の光」は局所的なものの象徴としての主張が強い。成宮をサトン星人だと見做せば、彼は非常にマクロな視点を持って、単に美しい星空を地球人に見せたいという思いだけで行動していたし、ウルトラマンマックスは、宇宙からの使者であり「手を差し伸べる者」であった。

 以上のような要素を全て見渡してみると、意外ととんでもない主張に満ちていることが分かる。地球人類の矮小性、地球のローカル性、地球人類の種としての幼さ…。これらがファンタジー色溢れる大きなバックボーンに包まれて、えもいわれぬ心地良さを醸し出す。成宮の巨視的感覚と、ミズキとカイトの局所的な恋話がゆったりと絡み、対比され、宇宙の壮大さを印象付ける。

 で、件の「天球界」はと言うと、「あってもおかしくない」ということになるだろう。何しろ、宇宙には手が届かないのだから。少なくともマックスの世界では、あって何ら不思議はない。ただ、ウルトラの1エピソードと位置づけるにしても、かなり思い切った世界観を提示して見せたとの驚きがある。マックスというシリーズは、そういった意味で非常に「ウルトラQ」的だ。

 さて、「ファンタジー」という言葉に彩られる本エピソードだが、意外に画面作りは硬質感に溢れている。このエピソードをSFファンタジーに仕立てるという方向性なのか、当のケプルスもファンタジーよりはSF寄り。都市のミニチュアもナイトシーンを計算して作られたリアルなもので、破壊シーンはむしろ戦慄的な色合い。成宮の台詞回しも冷徹な雰囲気でまとめられている。ファンタジーにはファンタジー、SFにはSFという正攻法が多かった(ように思える)マックスにおいて、この雰囲気は異色だ。

 だが、これら硬質感溢れるシーンの狭間で、ふとファンタジーとしての主張が垣間見られる場面がある。それは、ウルトラマンマックスが星空をバックに戦う一連のシーン。そこでは、マックスとケプルスの身体が星空を透かしているのだ! 一昔前の特撮では、合成技術の問題からこのようなシーンは「合成の限界」としてまま見られたのだが、今回のは明らかに意図的だと思われる。実体がないということを意図したのかは不明だが、違和感をファンタジーの表現手法に用いた、面白いシーンだったと言えるだろう。

 ミズキ主役編としての完成度は、異論なく随一。カイトとの関係もほぼ整理され、最終局面へのラストスパートがはっきりと感じられる良作だ。

オマケ

 気になるヒジカタ隊長の恋愛遍歴! もちろん本編中に仕込まれたネタに過ぎないのだが、気になる人には気になる。辛い過去があり、太陽のような熱く燃え盛る恋もあれば、流れ星のようにはかなく散った恋もあり、そうかと思えばブラックホールのようなどん底…。天体に例えるにしても、激しすぎる恋だ。

 また、今回オープニングのメインタイトルには、テーマ音楽が流れず、幻想的なサウンドエフェクトのみの演出となっている。エピソードの内容に合致していて効果的だ。